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バドミントンコラム

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試合の記憶

試合の記憶

力強い握手だった。

一緒に練習している先輩に

初めて公式戦で勝った。

今日もきた

今日もきた

「お願いします。」

20時35分。

冬の体育館は極寒だ。

居残り練習の時間になると

現れる。

その子は

ノックシャトルを持って。

この時はまだ知らなかった。

最後の県大会

第二ダブルス

1-1でチームの命運をたくされることを。

そしてチームに劇的な勝利をもたらすことを。

自分に勝つ

自分に勝つ

「弱い自分が嫌いなんです。」

ふり絞るように、小さくつぶやいた。

その声は震えていた。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

自分と真剣に向き合う勇気を持った人間だった。

実感した瞬間

実感した瞬間

「京都でやるインカレに出ます。」

照れを隠して

母親に短いメールを打った。

ムカつくあいつ

ムカつくあいつ

試合に負けた。
どこかあっさりと。

直接対決は絶対負けたくない。
同じ大会は結果で負けたくない。

今日の会場にはあいつがいなかった。

大勢の特別

大勢の特別

「どうしたんだ?敬語なんて使って。」

「中学生の頃から使ってましたよ(笑)」

「どこがだよ。ふざけんなよ(笑)」

トンボを持って地面をならすその姿はあの頃とかわらない。

照りつける太陽がまぶしい夏休みのグラウンド。

恩師に会いに来ていた。

まさか自分がこんなことをするなんてな。

母校に電話をかけて、先生は市内の別の学校にいることを知った。

相変わらず陸上部の顧問だ。

思えば全国大

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舞台は整った

「最高ですね。絶対勝ちますよ。」

そう言って笑った。

チームメイトからの応援歌が響き渡る体育館。
すべての視線を集める3位決定戦。

ファイナルゲームは
11点のインターバル。

ずっと続けばいいのに。
そんな時間も残りあとわずかだ。

想いを込めてきた

想いを込めてきた

パツン。

ライン際を狙ったストレートスマッシュは

意図せず遅いものに。

タイミングが狂ったシャトル

相手のリターンがネットを越えることはなかった。

広い会場の中でガットが切れたことに気が付いた人はいったい何人いただろうか。

半ば朦朧とする意識の中

ネットを越えてくることのなかったシャトルを見送ると
静かに左手を握りしめ後ろを振り返った。

安堵を多く含めているようにも見えたその顔に

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大丈夫

大丈夫

「とにかく俺はサービスと前に集中する。後ろは頼む。」

そう言ってサービスに向かった。

後ろからラケットでそっと確かな力でお尻を叩く。

ファイナルゲーム

13-19

諦めるにはまだ早い。

意識の外

意識の外

スマッシュだ。

コート上のプレーヤー
コートサイドのコーチ陣
誰もがそう思っただろう。

スーっと

まるで時が止まったかのように
静かに滑らかに

受け止める覚悟で低く身構えたプレーヤーの
左斜め上をシャトルは通過した。

ファイナルゲーム22-20

最後の一打は本人以外の全てを裏切った。