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草津。将来と温泉まんじゅうーおでかけがしたい。⑧ー

近況、または過去の記録から掘り起こした「旅」や「散歩」にまつわるエッセイ+少し写真のシリーズ『おでかけがしたい。』第8回。

今回は21歳の頃、地元の友人Rと初めて温泉旅行したときのお話です。



温泉街のにおい

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草津バスターミナルに到着。

におう。そして寒い。耳が痛い。
草津の3月はまだ雪まみれだった。

旅館まで歩く道中、「湯畑」というものを初めて生で見る。近づくとさらに硫黄のにおいが強くなった。湯けむりでまわりがよく見えない。
宿に着き、荷物を置いて仲居さんからお部屋の説明を受けた。コートを脱ぐとRのカーディガンが私のと色違いで驚く。同じ服屋さんのファンではあったがまさか被るとは…。(ちなみにRはピンクで私はベージュ)

ちょっとお茶をすすって浴衣に着替えたら、いざ、温泉である。

人生初(だと思う)露天風呂。
屋根の隙間から覗く曇天。湯気越しに見えるつらら。桜の木がすぐそばにあったので、咲いたらさぞかしきれいだろうな。温泉を手にとり少しなめると、しょっぱかった。

実家の両親は温泉に興味ないタイプなので、旅といえばもっぱらホテルか「かんぽの宿」だった私にとって、仲居さんが挨拶してくれるような本格的な宿自体も初めて。お肌つるつるになって部屋に戻ると、ごはんの準備がされていた。
憧れの部屋食。ウニにフォアグラにフカヒレ、まさに贅の極みである。おなかいっぱいで、9時頃にもう眠くなる。


握らされたまんじゅう

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よく寝た。
2日目の午前8時すぎ。仲居さんが布団をあげてくれて、朝食が来る。純和風・モーニング。ぺろっとたいらげる。

今日も外は細かい雪。歩いて近くの西の河原公園をめぐる。
草津の雪は、金沢の水分量が多いぼたん雪とは違ってサラサラしてて、とても美しい。

温泉街にはお店がたくさん並んでいて、特に温泉まんじゅう屋が激しかった。お店の人が皆店先に立っていて、手には温泉まんじゅう。「はいお姉さんお土産にどうぞ。お父さんお母さんも喜ぶよ。ほらどうぞ3色だよ。食べて、お茶もあるから」とまくしたてられ無理やりまんじゅうを手に握らされ、お茶も渡される。
ものすごい商売方法。あったかいおまんじゅうはお茶によく合いおいしかった。買わなかったけど…。

お夕飯がきっとまた豪華なので、お昼は軽めに済ませた。アンティークなかわいい喫茶店で磯辺焼きと安倍川餅のきなこ。
だんだん晴れてきて、雪がとけてきた。

雪道をずんずん歩き、少し離れた場所にある「草津ビッグ・バス」というホテルへ行った(バスタオル持参)。我々の泊まっているザ・旅館とはだいぶ趣きが異なり、ロビーもハイカラな雰囲気。宿泊客以外にもお風呂を開放していて、プールまで完備されている。ここでも私たちは露天風呂に入った。

寒いなか雪を眺めながらの露天風呂は本当に最高である。

火照った体をさましつつ、せんべい屋さんの出来たてせんべいを食べながら宿に戻った。

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2夜目の食事。

お刺身に天ぷらに。大きなエビがボイルされ丸ごとドーンと出てきてびっくりする。天ぷらの出来たてってこんなにおいしいんだな~と感動した。浴衣にすっぴんのRと向き合っていると、
「Rのお母さんにそっくりだなあ~」
と顔をまじまじ見てしまう。お酒をのみながら色んな話をした。
夕飯後、こたつに入ってお絵描きをしてそれを見せ合った。

夜11時ごろ、お風呂に行った。

若いギャルたちが更衣室にいるだけで、お風呂場は私とRの貸し切り。なんとなくお礼が言いたくて、
「Rちゃん、草津旅行に私を誘ってくれてありがとう」と言った。
Rは「やっぱ草津行くっていったらみつこちゃんだと思って」と言った。

湯あがりでまだ体があたたかいうちに、少しだけ外に出て夜の湯畑を見に行った。思ったほど寒くなく、雪もだいぶとけている。ふらっとして、帰ってきた。
おやすみ草津。


近づく故郷と将来と

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3日目。朝から、西の河原温泉というきのう散歩に行ったところまでお風呂に入ってきた。今までの中でいちばん「露天」感が強い。洗い場もなく、大~きなお風呂が山の中に突然ある感じ。湯には落ち葉が浮かんでいて、自然のまんま。猿とかいても不思議じゃない。寒いながらも気持ち良かった。草津、最後のお風呂。

お土産を探したり、喫茶店(昨日は閉まってた)でこの寒いのに抹茶フロートを飲んだりしてたらあっという間にバスの時間。最後に、2日間お世話になった仲居さんおすすめの「揚げまんじゅう」を買いに行くと、ちょうど揚げたてをもらえた。めちゃくちゃおいしかった。
まんじゅうにかぶりつきながらバスターミナルへ歩いた。

帰りのバスでも私たちはずっとしゃべり通しだった。最近行った美術館の話などからなんとなく就活の話になり、私はひっそり苦しくなる。浪人して入学したRはまだ当時、美大生。私も美大生だったが翌月からもう4年生。なのに、将来についてなにひとつ決めておらず、動いてもいなかった。

就活などこの世に存在しないかのように呑気な美大の油画専攻の中で、小心者なのか常識人なのかわからないが人並みの焦りを感じていた私は、同じ気持ちの仲間たちと「入社試験用常識問題集」みたいなものを学食で必死に解いたり、「やれる仕事より、やりたい仕事を探したほうがいいんだって」とかいう役に立つような立たないような情報を語り合った。
そのくせ、夜中に布団の中で、

「あ、なんか不安。絵が描きたい」とかふいに思ってざわざわしたり。

実家の母から先日手紙が届いた。「ちょっと目にとまったので送ってみました」という、『花のイラストはがきコンテスト』という新聞広告の切り抜き。感想に困る。手紙の末尾には、
「就職の件も、前向きに考えてネ。母も何かしたい!」
と書かれていた。


我々の故郷、名古屋へとバスが近づいていく。
ビルの多い都会の景色。
「名古屋帰りたくないな~」と、明日からイオンのバイトが連勤だというRは隣で嘆いているが、金沢から春休みで帰省したての私は早く名古屋に帰りたいばかり。

このときの私とRの将来は湯けむりくらい、まだまっしろだった。





今週もお読みいただきありがとうございました。当時、大学生のわりに結構豪勢な宿に思い切って泊まったなあと久々に写真を見返して思いました。そういうのをしてみたい年頃でもあったかも。この時の温泉が楽しすぎて、また、気心知れた幼馴染のありがたみを再認識して、この草津以降定期的にRと温泉めぐりを始めます。
草津、また行きたいな~雪の季節に…。

◆次回予告◆
『今日も私服がネコの毛まみれ⑧』次回は猫との暮らしから角度を変えて、「猫の横顔についての考察」をしてみます。じっと観察していると、猫と人間の顔の構造はすごく似ている…と私は思う。

それではまた、次の月曜に。


◆おでかけ絵日記◆

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