見出し画像

星宮ほたる  気高く強く、アイドルを駆け抜けた女性

10月20日のライブを最後にアイドルグループ、ろすとみりあ。(句点を含めてグループ名)の星宮ほたるさんはアイドルを卒業した。

はじめて会ったのは昨年2021年の11月13日。
推しの対バンライブを新宿のバトゥール東京に見に行ったときだった。たまたま惰性で見ていたステージにutataneというグループが登場したのだが、なんだか様子がおかしい。かろうじて踊って歌っているのだが、パフォーマンスにまるで覇気が感じられないのだ。ほかのグループが大袈裟なくらい愛想を振りまくなかで、むしろネガティブオーラに近いものが振りまかれていた。それは観客に対してではなく、なにか内部の事情により「パフォーマンスどころじゃない」というように感じられた。
そんな中、たったひとり、渾身のパフォーマンスをしていたのが星宮ほたるさんだった。まさに彼女の孤軍奮闘。utataneというグループを沈めないように、ともとれたし、彼女自身のアイドルとしてのプライド…というよりはconfidenceのため、ともとれる、はっきりとした意志が伝わってきた。


初めて会ったときにもらったフライヤー。右から二番目、青のベルトが星宮さん。

「変わったこともあるものだ」と漠然と思いながらステージを離れ、推しの特典会に向かった。それが一段落したころ、同じ会場にutataneのメンバーが現れた。一通りチェキ客が掃けた後、ブースは閑散とし、時間は有り余っているのに誰も来ないので、スタッフをのこしてメンバーはビラ配りに行ったようだった。
その日の星宮さんのステージに私は今まで見たことのない価値を感じていた。周りが悪かったからたまたまよく見えただけ、ではない。特典会会場を右往左往する彼女の姿が視界に入るたびに、観客として彼女にそれを伝えるべきだ、そう、強く思えてきた。

チェキ券を買って2ショットを撮り、サインを書いてもらう間のトーク。
「今日のステージは、あなただけちゃんとしてた」
と、初対面の第一声にはふさわしくないことを言わずにはいられなかった。
「そーなのよー、まったくねー」
と、中身は話さないけれど、お察しの通りです、と言わんばかりに屈託のない返事をしてくれた。環境が整わなくて忸怩たる思いはあると思うけれど、見ている人は見ているから、腐らず、今日のようにがんばって欲しい、と、いうようなことを、つたない言葉で伝えると、「うん、ありがとう」と答えてくれた。彼女は私が言うまでもなく、そうしていただろう。

それからは私はアイドル志望の推しのオーディションの応援に日々を費やし、晴れて合格、3月にプレデビューとなった。その推しの対バンライブが4月14日に行われ、そこで星宮さんのグループも参加していた。
いい歳なので若い女性の顔を覚えるのはとても苦手で、とくにカラーコンタクトレンズをしていると、どの女性も見分けがつかないのだが、4か月ぶりとなるのに、なぜか彼女だとすぐにわかった。グループ名も変わっていたのに。
ステージは最初に見たときとはまるで違って、他のメンバーも生き生きとしていて、その中で彼女は積年(月?)の苦労が報われたかのように躍動していた。
特典会に出向くと、私のことを覚えていてくれた。グループを再編してもろもろの問題も克服して、アイドル活動に邁進しているようだった。

ろすとみりあ。のフライヤー。左から2番目、青の衣装が星宮さん。

主催ライブを開催するほどになっており、5月には一度お邪魔した。最初と最後の2枠立て、衣装替えなどもあり、華やかだった。ハコこそ小さめだが、それが大きくなっていく期待が膨らんだ。スタッフの青年も丁寧で好感がもてたし、なによりグループへの愛と熱意が感じられた。
彼女の人気ももちろん、リーダーの歌唱力、ビジュアルのいいメンバーもいる。楽曲もノリのいいロックチューンが主体だけれど、キュートな「シンデレラ・ハート」、エモーショナルな「glow」というアンセムを持っている。グループのレベルが上がっていくだろうな、もう大丈夫、と思った。

特典会で、いいグループになりましたね、と伝えた。彼女もカラコン越しに目が輝いていた。
新しいグループ名の「ろすとみりあ。」の意味を尋ねた。
今までメンバーの脱退とか、いろいろあったけど、もう、そういうなにかを失う、ロストすることに終止符(。)を打つ、ということで「。」を含めて「ろすとみりあ。」になったと。
そのとき、セパレートになっている衣装から見える腹部に手術痕があるのに気が付いた。赤ん坊のときでも、なにか大きな病気かけがをしたのだろうか?とりあえず若い女性にそのようなことを聞くのははばかられたし、うまい具合に目立たなくてよかったね、としか思わなかった。
今後のグループの発展をお互い信じて90秒を終えた。

それから程なくして、妻のがんが発覚。
6月に入ると同時に私自身、COVID-19に感染。そして職場を解雇、という、平穏だった日常に暗雲が立ちこめた。

就職活動をしていた時期、星宮さんのツイートに、メンバーが体調不良で休業すると載っていた。順風満帆のスタートを切ったと思っていた新グループだけに、ちょっといやなことだな、と、感じた。それでも、星宮さんはそのメンバーが復帰に向けでがんばるのを称えるツイートをしていたので、「失う」ことなく、きっと進むだろう、と、失業して他者に対して考えが回らなくなり、私は安易にそう考えていた。
そして10月から再就職することが決まり、それまでの間アルバイトをつないでいた9月10日に衝撃が走った。

卒業と言っても、1人をのぞいて全員やめて活動休止というのは事実上の解散である。昨年、活動が思うように進まず苦労を続けて、もうなにも失わないと決意して、やっと今年に前に進み始めたばかりだというのに、なぜその場がなくなってしまうのだろうか。彼女の無念を推し量るに忍びない。
すぐさま彼女はファンに向けて配信をした。
張り裂けんばかりの思いはあっただろうに、彼女はファンをいたわる言葉に終始し、10月20日までと、それからに向けて、大事に生きていくこと、その大切さを説いた。そして彼女はアイドルをもう続けないことを告げた。

体たらくな失業者となった私が星宮さんにまた会えたのは9月26日、Zirco東京の対バン。同じ新宿のKey Stuio以来、またもや4か月ぶりだったが、そんなに時間が経ったとは思えないくらいに特典会のトークで接してくれた。
卒業(事実上の解散)がとても残念だという話からはじまったが、驚きの事実が発覚した。

まず、星宮さんはアイドルをはじめたのはutataneが最初で1年あまりしか経っていないとのこと。それまで芸能活動はもちろん、歌やダンスのレッスンなどはしたことがなかった、と。「うそだろ〜」と大きな声を出しそうになった。絶対、以前にどっかでアイドル経験があると信じていた…。
∑(((゚д゚;ノ)ノ
歌はトレーニングしなくても元からできることはあるけれど、アイドルになって数か月で、あの最初に見たときのように周りを鼓舞するようなダンスができるか?そして今も一個一個の決めがバッチリの動き、これが一年ちょっとでできるなんて!

そして、以前病気をしていたとツイートしていたのでお腹の傷のことを聞いてみると、ためらいもなく、がんの手術の痕だと。幸い再発なくもう少しで5年、いわゆる治癒となるとのこと。妻が治療をはじめたことを話すととても慈愛に満ちた共感をしてくれた。

その話を聞いたときは「ストイック」とコピーされた星宮さんのアイドルとしての姿勢はこのためか、と納得した。命がけで治療をしてきた彼女にしてみれば、アイドル活動の障害など、大したことではなかっただろう。他のメンバーのように腐ることなく、救われた命を燃やすことに微塵の迷いもなく向かっていく強さはこのためだと、そう思えた。

それから20日までの間、2度ライブを見に行けた。Colorsという、ほとんどステージの段差もない、スタジオのようなライブハウスでは観客との距離のない異様なライブにいささか気おされているのを察して、言葉をかけてくれたのが忘れられない。

そして10月20日を迎えた。職場が変わったばかりなので有給休暇がとれない。しかも終業間際にめんどうな仕事が舞い込んだ。それを片づけ、職場から1時間かけてライブハウスについたときは最後の枠の1曲目が終わっていた。
これからのグループの発展を疑いもしなかった5月の主催ライブ。そのときと同じ五反田の会場にいっぱいの観客が押し寄せていた。しかし、その熱気とは裏腹に、最後のステージを目に焼き付けようとする悲壮感を隠し切れなかった。
それでも容赦なくステージは進んでいく。
最後まで曲を覚えきれなかったが代表曲の「glow」

“痛い痛い辛い辛い辞めたい消えたい
その苦しみさえも僕たちなら愛してあげよう
さあ夜明け待つ暗闇の世界をこの光で打ち抜くよ
もし君が今そこにいなくても僕が一番光っていよう”

glow

この夏、人生のなかで一番の危機ともいえる時期、彼女のアイドル人生も思わぬ展開になったが、そのときでも彼女はこの歌詞のように私に光を与えてくれた。本当に救われた思いだった。

最後の曲は「no return」

”アスファルトの上咲いた花たちは
どんな過去を乗り越えた?”

no return

パフォーマンスが終わってからメンバーの全員が「本当にいろんなことがあった」と語っていた。それを代弁しているこの曲が最後に選ばれたのだろう。

”思い出たちに今別れ告げた
君と出会った季節を忘れるため
これから何が始まってゆくの
僕らは何も知らない”

no return

思い出は我々のほうに、彼女たちはなんと言ってもまだまだ若い。「これから」に向かっていく。

最後の特典会ではファンに向けて書いてくれた手紙のお礼をした。272本のライブのうち、指折り数えるほどしか訪れていない私にも言葉を残してくれたの感無量だった。これだけパフォーマンスができるのに、アイドルをやめてしまうのは惜しいけれど、それを受け入れて、これからの彼女を応援していこうという気持ちになっている、と伝えた。
そして最初に決めていた「ありがとう」とはっきり感謝の言葉を残こすことをやり遂げて、その場を後にした。

星宮ほたるさんはアイドルを卒業した。そう、彼女はアイドルという枠にはまっている必要はもうないのだと感じた。
1年余りでパフォーマンスをあっという間に習得して、
こんなにも短い時間で観客に喜びを与えてくれた。
私の苦しい時期の励みとなってくれた。
これ以上アイドルになにが望めるだろうか?
CDも出さず、Zeppも武道館もやっていないが、それらをやったトップアイドルとなんら遜色のないアイドルの素養を習得している。
すべてを身につけたから、もう卒業なのだ。
彼女はなにも失ってはいない。アイドルのすべてを手に入れていたのだ。

星宮さんの凛とした態度に私は母親のような強さと慈愛を感じる。
最初にバトゥールで見たあの強さ。
妻の闘病へ思いを寄せてくれたこと。
Colorsで戸惑う私を導いてくれたこと。
彼女の親の年齢の私にこんなことを言われれるのはいやかもしれないけれど、私はまるで母親に抱(いだ)かれているようだった。
そしてそれが彼女が病気と闘ったからだと最初は思っていたが、それは違うと今は思う。彼女は元々この強さと優しさを持っていたのだ。持っていたから、病気に勝てたのだ、そう確信している。

病気のために子供を持てないだろうと彼女は話していた。しかし、彼女はたくさんの人の母親のとなることができるだろう。私もしかり、彼女の強さと慈愛に触れた人は皆、彼女の子供である。他の誰より多くの子供の母親となるだろう。
星宮さんはなにも失うことなどない。
病気も彼女からなにも奪うことはできない。
これからも彼女はなにも決して失うことはないだろう。

気高さと強さで私を魅了して
アイドル、星宮ほたるは駆け抜けていった。

私のなかの、ファンのなかの星宮ほたるはけっして失われることはない。
アイドル星宮ほたるは失われることはない。
彼女はもうなにも失うことのない、「ろすとみりあ。」なのだから。

卒業ライブとなった「いのせんとしんでれら。〜Eternal Magic 魔法が解けるまで〜」集合写真
卒業ライブのスタンドフラワー
特典のブロマイドとお手紙



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?