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【声劇】死なずの鳥


【登場人物】
須山みのり  主人公。インコを飼っている。
西濱理香   みのりの幼馴染で隣の家に住んでいる。
国見大祐   かつてみのりの家庭教師をしていた。

開幕。
みのりと理香のいるところに国見がやってくる。

みのり あ、国見先生! お久しぶりです。
理香  あ、どうも。
国見  ああ、久しぶりだね。
みのり 父の時以来だから…
国見  1年ぶりかな。また会うなんてね。
理香  そうですね。あまり嬉しくない再会ですね。
みのり もう理香、そんなこと言わないの。国見先生、覚えてますか? 私        の幼馴染の…
理香  西濱理香です。
国見  覚えてるよ。僕はみのりちゃんの家庭教師をしてた、
理香  国見先生。
国見  もう先生ではないけどね。
みのり 先生は先生ですよ。
国見  ……晴れて、良かったね。昨日まで雨だったから心配してたけど。
みのり そうですね、気持ちのいいお天気。
理香  ……あの、突然変なこと言うようですけど、偶然だと思いますか?
みのり また始まった。先生、話半分で聞いてくださいよ。
国見  うーん、そう、だね…。立て続けだなとは思うけど。
みのり 理香の考えすぎだよ。
理香  だって、もうずっとそうなんですよ。昔から。
国見  昔から?
みのり 昔から怖がりなんだから理香ってば。ただの偶然だって。
理香  偶然とは思えない。
国見  何があったの?
みのり 私からお話しします。先生、うちにインコがいたの覚えてますか? 胸のところに黒い斑点が3つならんでてボタンをしてるみたいだからボタンちゃんって言うんです。よく懐いてて可愛くて。でも私達が中学生の時に。


《1回目》
みのりの家に遊びに来た理香。

みのり  理香! どうしよう、ボタンちゃんが動かないの。
理香   死んじゃったの?
みのり  最近全然エサ食べなくて弱ってたの。朝起きたらもう、冷たくなってて。
理香   インコの寿命は5~10年くらいっていうからね。ボタンちゃんはみのりの元で過ごせて幸せだったと思うよ?
みのり  うん…。
理香   お墓つくるの手伝うから。
みのり  ありがとう。

翌日。
SE鳥のさえずり

みのり 理香! 見て! すごいの!
理香  え、なんで? もう別のインコ買ってきたの?
みのり 違うよ、ボタンちゃんだよ。胸にボタンあるもん。ね、ボタンちゃ   ん。ほら、呼んだら応えるでしょ。
理香  本当だ。でも、昨日埋めたじゃん。あそこに。
みのり そうなんだけど、朝起きたら鳥かごにいたの! 生き返ったんだよ!
理香  そうなの…? おじさんが似た鳥を買ってきたんじゃないの?
みのり 違うよー。
理香  あれ、おじさんは?
みのり んー、なんかおじいちゃんが亡くなったって連絡があってそっちに行ってる。
理香  え! 大変じゃん! みのりは行かなくていいの?
みのり もちろんお葬式は行くけど、別に慌てなくて大丈夫だってお父さん言ってたよ。90歳の大往生だから。特に病気もしてないし、寿命だったんだろうねーって。
理香  そう、なんだ。


理香  …………それが最初でした。
国見  最初?
みのり そうなんですよ。そのあと何度も同じことが、
理香  同じことが起こったんです。


《2回目》
理香の家にみのりが駆け込んでくる。

みのり 理香! おばさんいる!? 車出してほしいの!
理香  どうしたの!?
みのり ボタンちゃんがお父さんのタバコ食べちゃったみたいなの! 出しっぱなしにしてて。苦しそうにびくびくしてるの。病院、病院行かなきゃ。
理香  おじさんは?
みのり 仕事でいなくて。だから動物病院まで連れてって!
理香  ごめん、うちもお母さん出かけてるの。
みのり うそ、どうしよう…! 私、走って…
理香  みのり、もう、だめだと思う。静かに見守ってあげようよ…。
みのり ボタンちゃん! ボタンちゃん! せっかく生き返ったのに、ごめんね、ボタンちゃん……。
理香  そうしてまた二人でボタンちゃんを埋めたんです。お互いに意識したのかどうかわからないけれど、前に埋めた場所とは違うところに。そしたら。

翌日。
SE鳥のさえずり

理香  また?
みのり そうなの、ボタンちゃん大復活! 
理香  不思議な鳥だね。
みのり もしかして不死鳥なのかな?
理香  だいぶイメージと違うけど、そうなのかもね。
みのり でももう絶対死なせないから。お父さんには禁煙を申し付けておいた!
理香  そうだね、おじさんはちょっと吸いすぎかも。おじさん今日も仕事?
みのり ううん、叔母さんが亡くなってそっちに行ってる。
理香  え。
みのり 食中毒だって。叔母さん苦しかっただろうな。かわいそうに。
理香  そうなんだ…。


国見  うーん、不思議な話だね。その二つの墓の下には、何もいなかったのかな。
理香  私もそれはちょっと気になったけど、でも。
みのり 掘り返せって言うんですか? ボタンちゃんはここにいるのに?
国見  そうだね、ごめん、無責任な発言だった。それで生き返ったのは2回だけ?
理香  ううん、まだ、続くんです。


《3回目》
みのりの家に理香がやってくる。

理香  みのりー? いる?
みのり いるよー。
理香  辞書貸してくれない? 私学校に置きっぱなしで。
みのり いいよ。でも、今手が離せないから入ってきて。
理香  はーい、お邪魔します。何やって……っきゃぁ!! ………どうしたの、これ、なに、血…?
みのり 野良猫がね、ちょっと開けてた窓から入ったみたいなの。
理香  じゃこれ、ボタンちゃん…?
みのり うん。
理香  ひどい。
みのり すごいよね、羽毛布団みたい。
理香  片付け、手伝うよ。
みのり ごめんね、ありがとう。あーあー、もうべたべた。このカーペットは捨てなきゃだめかなぁ。
理香  みのり、なんか、大丈夫?
みのり なにが?
理香  悲しくない?
みのり なんで?
理香  だってボタンちゃん死んじゃったんでしょ。
みのり 大丈夫だよ。明日には生き返るもん。
理香  …そう、だね。
みのり 今回は埋めなくていいか。もうぐちゃぐちゃだし。これ生ごみでいいのかな?
理香  いや、埋めようよ。
みのり そう?
理香  それが生き返る条件かもしれないじゃん。
みのり そうだね、理香、頭いいね。じゃあ3つめのお墓つくろうか。

翌日。
SE鳥のさえずり

みのり ありがとう理香。ちゃんと戻ってきたよ。
理香  やっぱり不死鳥なんだ。
みのり そうみたい。ねぇ今日粗大ごみの日だよね。カーペット、運ぶの手伝ってくれる?
理香  またおじさんいないの?
みのり うん、病院。
理香  どこか悪いの?
みのり 違う違う、お父さんじゃなくて。昨日埼玉で通り魔あったの知ってる?
理香  なんかニュースで見たかも。女子大生が刺されたって。
みのり そう、被害に遭ったの、うちの従姉だったの。
理香  うそ!?
みのり 今、集中治療室で……

SE電話の着信音

みのり もしもし、お父さん? うん、うん、そっか、残念だったね。お葬式はいつになる? わかった。こっちは大丈夫。うん、気を付けて。
理香  亡くなったの…?
みのり 人間も生き返ったらいいのにね。
理香  …うん。


国見  それは僕も聞いたよ。痛ましい事件だったね。確か、犯人はまだ…。
みのり 捕まってないみたいですね。
理香  私、その頃から薄々気付いていて。ボタンちゃんが生き返るたびに、みのりの周りで人が亡くなってるってこと。
みのり それは偶然だよ。
理香  ただの偶然じゃない。その証拠に、4回目が。


《4回目》
みのりの家、風呂場。
水を張った湯船にみのりはインコを沈めている。

理香  みのり、何してるの…。
みのり あ、今ボタンちゃんをね。
理香  何してるの!?
みのり なに、どうしたの?
理香  なんで水に、何やってるの!?
みのり 沈めてるの。もうそろそろ死んだかな?
理香  なんでそんなことしてるの…。
みのり 助けてるんだよ。
理香  は?
みのり なんか体に悪性の腫瘍があって、手の施しようがないんだって。この前病院で言われたの。このまま痛くて苦しい思いをさせるより、すぐに生き返らせた方がいいでしょ?
理香  なんか、なんか違くない、それ?
みのり え、だって殺してあげれば明日には元気になるんだよ?
理香  でも、そういうのって、命ってそういうものじゃないじゃん。
みのり ごめん、言ってることが全然わかんないんだけど。なんか私、間違ってる?


理香  それが1年前。
みのり 案の定、次の日には元気なボタンちゃんに戻っていました。そして、この先は先生も知ってますよね?
国見  その後、みのりちゃんのお父さんが亡くなったんだね。
みのり そうです。
国見  大丈夫?
みのり いやだな、大丈夫ですよ。もう1年も経ってるんだから立ち直ってますって。
理香  私はみのりのことが心配だった。
みのり ありがとね理香。理香がいてくれたから私寂しくなかったんだよ。
理香  みのり…。
国見  ……ごめん、不躾なことを聞くけど、お父さんの死因はなんだったっけ。
理香  たしか海で溺れて亡くなったって。
みのり うーん、それが不思議なんだよね。お父さん泳ぎはうまかったはずなのに。
国見  そのインコを水に沈めた時は溺死。猫にやられた時は通り魔。タバコの誤飲の時は中毒死か。
みのり え?
理香  そういえば最初は寿命だった。あの時はおじいちゃんが大往生だったって。
みのり え、なに。どうしたの二人とも。
理香  やっぱりおかしくないですか。
国見  確かに、気になるね。死に方まで同じなんて。
理香  あれは不死鳥じゃなくて、命を奪う死神なんじゃないかって、私言ったんですよ。
みのり それは理香の考えすぎだよ。
理香  だっておじさんが死んじゃって、もうみのりはひとりぼっちで、次に死んじゃうのはみのりなんじゃないかって私、怖くなって。だからもうその鳥は捨ててって言ったのに。
国見  そうしなかったんだ。
みのり そんなことできないよ。家族だもん。大丈夫。私は一人じゃないよ。みんな私を置いていっちゃったけど、ボタンちゃんだけはずっと一緒にいてくれるんだから。だから、理香泣かないで。理香の気持ちすごく嬉しいよ。
理香  うっ…うっ…
みのり 本当に心配しないで、ボタンちゃんの不死鳥パワーはすごいんだから。先週だってまた生き返ったんだよ。部屋に放してて、気付いた時には冷たくなってたの。びっくりしたよ。ブラインドの紐のところにちょうど頭がはまっちゃって、首がしまって死んじゃったの。でも翌日には全部ちゃんと元通り。ボタンちゃんがいてくれるから私、いなくなったみんなの分までちゃんと生きて行こうと思えるんだから。
理香  うう…っ
みのり だからそんなに泣かないでよ。今日は、私のために泣く日じゃないでしょ。ところで、今日は誰のお葬式なの?
理香  みのり…!
国見  本当に、首をつって自殺なんて、そんなことするような子じゃなかったのに。みのりちゃん。
みのり なに言ってるの二人とも。ねぇ、無視しないでよ…こっち見てよ…ねぇ…ねぇ…なんで? なんで私の写真が遺影みたいに飾られてるの…? 

SE鳥のさえずり
閉幕

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