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【小説】死なずの鳥

また、会っちゃいましたね。父の時以来だから1年ぶりですか。

ねぇ、うちにインコがいたの覚えてますか?
胸のところに黒い斑点が3つならんでてボタンをしてるみたいだからボタンちゃんって言うんです。よく懐いてて可愛くて。
でも私が中学生の時に、寿命で死んでしまって。庭の隅に泣きながら埋めました。
次の日、起きてきた私は本当に驚きました。鳥籠の中にボタンちゃんがいたんです。父が別の鳥を買ってきたのかと思ったのですが、胸に三つのボタンもあるし、名前を呼べばちゃんと答えるし、どこからどう見てもボタンちゃんなんです。
ボタンちゃんは生き返ったんですよ。私本当に嬉しくて。でもその日祖父が亡くなった連絡があってバタバタしていて、はしゃいじゃいけないかなと思って私は大人しくしてました。
それが最初。

最初って言うのは、そのあと何度も同じことがあったの。
二回目はね、ボタンちゃんが間違って煙草を食べてしまったの。苦しそうに痙攣して、やがて動かなくなるまで私は見ていることしかできませんでした。煙草を出しっぱなしにしていた父をそれはそれは責めたわ。でも次の日にはやっぱりボタンちゃんは元気に飛び回っていたの。
ちょうど叔母さんが食中毒で亡くなって父も憔悴していたから、私はそれ以上責めることはしなかったの。

三回目はちょっと窓を開けていた時に入ってきたネコに襲われて、ボタンちゃんは殺されてしまった。羽毛と血が散乱して部屋は酷いありさまでした。でも私はちっとも心配してなかったの。だって次の日にはちゃんと生き返るって信じていたから。
同じころ、いとこが通り魔に襲われて病院に運ばれて、私そっちの方が心配だったわ。残念ながらいとこはそのまま帰らぬ人になってしまった。犯人はまだ捕まっていないみたい。

そして去年、腫瘍が見つかって、もう手の施しようがないと病院で言われたボタンちゃんを私は水に沈めて殺しました。痛い思いをさせるよりすぐに生き返らせた方がいいと思ったから。案の定、次の日には元気なボタンちゃんに戻っていました。
そして、この先はあなたも知ってるでしょう? 父が増水した川に流されて、私は独りぼっちになっちゃった。

私の家族はボタンちゃんだけ。ボタンちゃんだけはいつまでも私と一緒にいてくれる。
先週だって部屋に放してるときにカーテンのひもにうっかり首を絡ませてしまって気付いた時には冷たくなっていたんだけど、翌日には全部ちゃんと元通り。ボタンちゃんがいてくれるから私、いなくなったみんなの分までちゃんと生きて行こうと思えるの。

ごめんなさい、私ばかり一人で喋ってしまって。

ところで、今日は誰のお葬式なんですか?

ねぇ…なんでみんな無視するんだろう…

(完)

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