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短編小説など

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短編小説をまとめたものです。
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記事一覧

誰も知らない国から

 転校生の天野君は、なんだか不思議な人だった。 有泉は、一緒に掃除当番をしながら、彼に興…

高田朔実
4か月前
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さつきのこと 後半

 夏美はB4のノートに、日記らしきものをつける習慣があった。いろいろあったときにはすらす…

高田朔実
1年前
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さつきのこと 前半

 一番近いのは親友という単語なのかもしれないけれど、今となってはそれも微妙に違う気がする…

高田朔実
1年前
2

七草がゆ (後)

 出されたお茶は、どくだみとはとむぎが入っているという、今まで見たことのないものだった。…

高田朔実
1年前

七草がゆ (中)

 知り会う前からその子のことは知っていた。  中学校一年生のとき、まだ慣れない制服を着な…

高田朔実
1年前

七草がゆ (前)

 どうやら明日は雪になるらしい、職場の人達がそんな話をしているのを聞いて、反射的に窓のほ…

高田朔実
1年前
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水の記憶 後半

「すみません、僕、人の顔をあまり覚えられないんです。どこかでお会いしたんでしたっけ」  相手に不快な印象を与えないよう配慮した様子に、祥子はますます慌てた。 「もしかして、この間一緒に調査に行った学生さんですか?」 「違います、あの、この間、一年前くらい、夏の暑い日に、講演されてましたよね。森林内の水循環をテーマに。あのとき会場にいたんです。だから、あの時の方かなと思って、ついじっと見てしまったんです。失礼しました」  祥子はしどろもどろになりながら、どうにか返答した

水の記憶 前半

 十月に入り、台風も収まってきたある日のことだった。  祥子がその人を目にしたのは、それ…

高田朔実
2年前

アルルの女 最終話

 青野君がちらちら私を見ていることに気づき、 「難しいね、言葉にするのって」 とわざとら…

高田朔実
2年前

アルルの女 5

「あの話って、本当に、一貫してフレデリの葛藤だけを書いてる気がするんだよね。女の人の反応…

高田朔実
2年前

アルルの女 4

 一瞬、なんの話かわからず戸惑った。自分から持ち出した話題だったことを思い出す。 「私は…

高田朔実
2年前

アルルの女 3

「ありがちな話だな。現実の世界では、いちいち失恋したくらいで死んでらんないから、そういう…

高田朔実
2年前
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アルルの女 2

 青野君はバックパッカーをしていた。日本でお金を貯めて、海外を旅して、お金が尽きるころま…

高田朔実
2年前
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アルルの女 1

 何度も一緒に通った喫茶店だったけど、ここに来るのは今日が最後だった。  五日も経てば仕事に戻らないといけないので、私は明日の朝空港を出て帰国することになっている。ここ数年の間、雇用先の都合で、毎年四月になるといったん退職して二十日間ほど離職しする、そんなことが続いている。離職期間は、自然と海外のどこかで過ごすのが習慣になりつつあり、今年訪れたのは、南米にあるボリビアという国だった。  今までで一番遠いところに来たというのに、ほとんど動きのない旅行だった。日本でこじらせて