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家を、捨てる

友人が、かつて住んでいた家を売るために上京してきたので、久しぶりに3人でその家に集まった。

既にその家は置き捨てられたも同然で、友人は年1回くらい、空気を入れ替えるためだけに1日2日だけ上京するような状態が何年も続いていた。私がこの家に最後に来たのは10年くらい前だったけど、正直あまり変わってなかった。家の空気も、片付いてなさも、また想像してたように朽ちてもなかった。

ただ、これも前と同じなんだけど、子供の手が届く範囲戸棚の扉とかに開閉防止の仕掛けがあるのが目につくと哀しくなった。この家に住んでた頃、友人は結婚していて、でも途中で奥さんは子供を連れて出ていった。つまりは友人より先に家を捨てた。

その後から今日までのこの家しか私は知らないけど、全く変わってないことを考えると、離婚した時点で本質的な意味でこの家は役割を終えてたんだろう。暮らす場所、ということだけが家の役目じゃないんだな、と今回初めて感じた。そして、捨てられた家がどんな風に生気がなくなるのかも。

友人は家を整理してどうする、というようなことは全く言ってなかったけれど、それでも長年気になってたことがひとつ片付くのは、少し気分も落ち着くようだった。

家を出るとき、私は心の中で「お世話になりました」と言った。

#日記 #エッセイ

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