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#56 No Man’s Land

 昨夜のフジテレビ系(関西テレビ制作)のTVドラマ「アンメット」の中で、「ノーマンズランド」という言葉が出てきた。これは英語のno man’s landであり、医療用語としての「人が触ってはいけない場所」、手術などができない頭蓋底を指している。言葉としては、本来は戦争用語であり、「無人地帯」、お互いの陣営の中間地帯、緩衝地帯のことである。歴史的には第一次世界大戦中に生まれた用語で、塹壕戦が展開された両陣営の中間地帯を「誰も統治していない土地」、「人が立ち入らない土地」と呼ぶようになった。少し身近なところでは、韓国と北朝鮮の国境、北緯38度線(軍事境界線)の南北に4㎞幅の「非武装地帯(DMZ)」が設定されており、原則として人の立ち入りは禁止されている。まさしく現役のノーマンズランドであろう。
 筆者がかかる用語を知ったのは、学生時代、平成14年(2002)公開のボスニア・ヘルツェゴビナ映画「ノー・マンズ・ランド」を見たからであり、ユーゴスラヴィア紛争におけるセルビア軍とボスニア軍の戦争で起こった悲劇をコメディも交えて描いた映画であった。霧の夜、ボスニア軍の交代要員8人は、最前線の両陣営中間の無人地帯(ノー・マンズ・ランド)のセルビア軍寄りに迷い込み、夜明けとともにセルビア軍から一斉射撃を受けるところから始まる。生き残ったボスニア兵二人が主人公なのだが、うち一人は気絶している間に身体の下に対人地雷を仕掛けられており、ボスニア側の意図を確かめにやってきたセルビア兵二人と、地雷除去にやってきた国連監視団の兵士らの物語となる。地雷除去の専門家をもってしても仕掛けられた対人地雷の精巧な作りは絶望的であり、「これを作ったやつは、人間じゃない」の台詞が印象的であった。対人地雷が「悪魔の兵器」と呼ばれる所以である。
 なお、ノー・マンズ・ランドには、「未踏の荒野」という意味合いもあり、人跡未踏ゆえに新たな挑戦の舞台ともなりうるわけだ。

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