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#31 カタクリの花は群れて咲く

 すでに季節も過ぎて久しいが、3月~4月初めの花に片栗(カタクリ)がある。我が国原産のユリ科の多年草で、春先の山林に群生し、可憐な紫の花を咲かせる。地域によってはもっと花期が遅いが、関東地方では年々早くなっているようだ。カタクリの花茎はせいぜい10~15㎝程度であり、早春に咲くのは周囲の草木が芽吹く前に大きな葉を広げて、日差しを独占するためである。「春の妖精」の異名があるように、地上に葉や花を見せるのは春の数週間だけである。花期が終わるとすぐに枯れてしまい、地下で休眠する。土中の鱗茎は4~5㎝に成長し、デンプンを蓄えている。一年のうち数週間しか光合成しないため、蓄えられる栄養分が少なく、発芽から開花までは8~9年ほどかかるという。草本でありながら平均寿命は40~50年と長いが、鱗茎(球根)は分球しないため、繁殖力は弱い。一度消えた群生はなかなか復活できず、全国各地で絶滅危惧種に指定され、天然記念物となっている。
 筆者は青森市に住んでいた頃に浅虫温泉の沖合にある湯ノ島へ船で渡り、カタクリの群生を見たことがある。小さな島全体にカタクリの花が咲いており、4月にはカタクリ祭りが開催される。実は湯ノ島には遺跡があり、その際も平安時代の土師器片を拾った。現在の近所では相模原市緑区に「城山カタクリの里」がある。古来より日本人に愛されてきた植物であり、万葉集には「堅香子(かたかご)」と詠まれている。
 鱗茎に良質のデンプンがあり、もともとは片栗粉の原料であった。採取できる数量に限りがあるため、現在売られている片栗粉のほとんどは、ジャガイモかサツマイモのデンプンを原料としている。本来のカタクリから作られた片栗粉は生薬としても知られ、滋養に富み、腹痛や下痢止めにもなったとされる。葛湯のようにお湯を注ぐとやわらかく固まり、砂糖を混ぜて弱った老人・子供に食べさせたりした。筆者も子供の頃、風邪をひいて扁桃腺が腫れた際、祖母が片栗粉で葛湯を作ってくれた記憶がある。ただし、カタクリ由来ではない片栗粉に薬効はないらしい。鱗茎をそのまま食べる地域もあるそうだが、保護のために採りすぎないよう注意喚起されている。
 ところで、筆者が卒業した青森市立戸山中学校には、「表現活動」という課外授業の伝統があり、演劇のようなダンスのようなパフォーマンスをやっていた。いま思えば新劇に似たようなものだったのかもしれない。学年全員で演じるのだが、「カタクリの花」という演目があり、数人だけに台詞が与えられ、他の生徒は体全体で自由にカタクリの群生を表現するのである。最近調べてみたら、いまだにこの表現活動の伝統が生きていた。学年別でそれぞれ異なる演目をやっていたともいうが、そこまでの記憶はない。当時はやりたくなかったが、芸術に関する経験ができたことはいい思い出である。

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