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限定pSSR樋口円香『ギンコ・ビローバ』Trueコミュ「銀」の感想と考察 ~本音と建前~

 このコミュをクリアした私の胸に去来したのは、途方もない虚脱感だった。


 迷宮の出口に辿り着いたと思った途端、後ろから落とし穴に突き飛ばされたかのような。私は樋口円香という人間を理解したつもりになっていたが、それがとんでもない傲慢と思い違いであったことを突き付けられた。

 ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまった私の精神をなんとか繋ぎ合わせるべく、ここにこうして駄文を書き殴らせていただく。こういった文章を書くのは初めてなのでお見苦しい点があればご容赦いただきたい。




 ※以下には樋口円香のWing編コミュ、pSSR『ギンコ・ビローバ』コミュのネタバレを含みますのでご注意下さい。




 さて、早速問題のTrueコミュ「銀」についての話だ。

 むろん、最も考察すべきなのはラストを飾るこのセリフ。

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「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」


 この衝撃的な文言が、一体どのような心境から吐き出されたものなのか。

 まず先に私なりの結論を述べさせていただくと、これは

円香がシャニPと対等でありたいと願ったが故の恨み言


 なのだと解釈するに至った。ここからは、そう感じた理由について記していく。

 この駄文はTrueコミュの考察だが、まず「銀」について語る前には一つ前のコミュである「偽」に触れる必要があるだろう。

 「偽」では円香が他のアイドルを慰め、励ます様子が描写されている。

 この中で円香は「願いは叶う」「願い続けることが大事」と優しい声をかける。

 しかし彼女のプロデューサーに対する言い分はこうだ。

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 この「適当に生きる方が楽」というのは「高望みしない、変化を求めない」という円香の価値観に即したものであり、そう教えることこそが優しさだったと語る。

 つまり円香は落ち込んだアイドルに対して、彼女自身の本音ではなく耳障りの良い建前を口にして慰めたということだ。これは「偽」というタイトルからも察せられる。

 ここで「円香は優しいよ」の選択肢を選ぶと、シャニPの返答はこうだ。

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 私も円香がアイドルにかけた言葉が丸っきり嘘だったとは思っていない。けれども、心からの言葉ではなかったはずだ。

 重要なのは、ここでシャニPが「円香は優しいよ」と答える部分にある。

 つまり「円香にとっての優しさ」=「本心を伝えてあげること」だが

 「シャニPにとっての優しさ」=「建前で慰めてあげたこと」という図式になる

 ここで二人の価値観の間に齟齬が生じているのだ。

 このことを踏まえて、「銀」のコミュに触れていこう。



 さて、「銀」の中ではシャニPのミスター好青年っぷりがこれでもかと描かれている。

 それに対する円香の反応はというと、

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 ご覧の通り。円香はシャニPを褒め称えているようで、しかし信用出来ないと言う。この”信じられない” ”騙そうとしている”という言葉は信頼度セリフや「天塵」の中でもたびたび登場するものだ。

 では逆に、彼女にとって信用に足る人物とはどのような人間なのか。

 実はそのヒントはWing編の「心臓を握る」にて示唆されている。

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 円香の信用を勝ち得るには、行動をもって示すしかない。しかし彼女はこうも言っている。「甘いだけの人は頼れない」と。

 私はここに円香の本質があると思っている。さきほど述べた「偽」でシャニPは円香の建前を「優しい」と称した。

 「シャニPの優しさ」=「建前」という図式が成り立つならば。

 円香の価値観からすれば、逆説的に「本音ではなく建前で接しているからこそ」「シャニPは自分に優しい」と邪推出来てしまう。

 プロデューサーだから。仕事だから。大人だから。

 そういった建前があるからこそ、辛辣な言葉を言う自分に甘いのではないか? と。

 きっと、円香からすればシャニPが本心や本音で接しているとは思えないのだろう。彼はあまりにも人が良すぎて、だからこそ甘いだけの人間は円香にとって信用ならない。

 なぜなら円香は本音を伝えることこそが優しさだと感じていたからだ。この価値観の相違こそが、ラストであのセリフを吐いた原因なのではないか。

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 つまりこれは、シャニPを”プロデューサー”たらしめる「建前」――その象徴であるスーツをぐちゃぐちゃに引き裂いて、その中に潜んでいる本音を暴いてやりたいという意味なのだと感じた。

 どんな聖人君子であれ、薄皮一枚剥いでしまえば中身はグロテスクな臓物が詰まっているはずだ、と。

 スーツという文字通りの”着飾った言葉”ではなく。その裏側にある本心を。仮面の奥にある素の顔を。裸になった本性を。

 円香が「心臓を握る」で弱音を吐きだしたように、愛嬌でカバーしきれない欠点をお前も見せてみろ、と。

「小娘に生意気な口を叩かれて、内心ホントはムカついてるでしょ?」という挑発が聞こえてくるようだった。

 しかしこれは、見方を変えれば――「アイドルとプロデューサー」という建前の、表面上の関係ではなく。「樋口円香とシャニP」という個人として本心で向き合って欲しい、という意味にも捉えられる。

 甘いだけの優しさではなく。八つ当たりしたらちゃんと注意してくれるような、対等な関係でありたい、と。

 だからこそ。その邪魔な虚飾が――折り目正しい”スーツ”が引き裂かれてしまえばいい。きっと、彼女はそう願ったのだ。

 以上が、「円香がシャニPと対等でありたいと願ったが故の恨み言」だと感じた理由だ。

 もちろん例のセリフにはシャニPや自己に対する強烈なコンプレックスや嫉妬の感情も含まれているだろう。しかし、私は円香がドス黒い負の感情をぶつけてくれて良かったと思っている。

 これから円香やノクチルの皆がどのようなアイドルになっていくのか。先の想像が膨らむ素晴らしいコミュだった。





 ところで、ここからは蛇足の話。

 カードのタイトルになっている『ギンコ・ビローバ』とはゲーテの恋愛詩「銀杏の葉」 Gingo bilobaから取ったものだと思われる。

 もう一度言おう。

恋 愛 詩

 である。

 あっ、ふーん……そうなんだぁ……ふぅーん……


 最後に。イチョウの種子には毒性があるのをご存じだろうか。

 この『ギンコ・ビローバ』が我々プロデューサーにとってとんでもない猛毒であり、「円香中毒」を引き起こすには十分過ぎる代物だったことをここに記しておきたい。

 

 

 

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