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大学全入時代と高等教育の将来像(1/3)

はじめに

 昨年末「社会保障・人口問題研究所」から発表された2022年度の出生者数は80万人に達せず、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(2018年発表、以下「グランドデザイン」と略記)が予測した2040年の18歳人口88万人を大きく下回る見込みとなった(2022年は、112万人)。
 その結果、大学進学者が現状の60万人前後で推移すると仮定すると、大学進学率は、75%に達することとなる(文科省の推計では、進学率は2017年をピークに減少局面に入り、2040年の大学進学者は51万人とされているが、その根拠は明示されていない)。
 他方、私学事業団に報告された598の私立大学の入学定員未充足の大学は2022年度46%(275大学)、更に充足率8割未満のものが20%(116校)に及んでいる。
 1991年の大学設置基準の大綱化並びに2003年の大学設置審査の準則化に伴う有力大学の学部新増設、大小各種大学の新設によって生じた「大学受験市場」の節操なき膨張のつけが表れようとしている。

Society5.0社会とは?

 その一方では、Society5.0社会の到来により、AIを始めとする社会のデジタル化により、雇用市場からはじき出される人口が大量に発生するとともに、この新たな社会が必要とするデジタル・リテラシーを基本知識として保有する人財の極端な不足が産業社会はもとより地域社会のねじれもしくは崩壊現象を現出することは論を待つことなく明らかであろう。この社会的なひずみの解消こそ、地球環境問題、グローバリゼーションvsリージョナリズムの解決と並んで、人財育成・供給機関として高等教育に課せられた喫緊の課題である。
 1960年代中葉、厚生省(今の厚生労働省)のもとに、「人口問題研究所」(今の「社会保障・人口問題研究所」)が設置され、我が国の長期的な人口動向に関する調査研究が行われ、遠からず到来する人口減少社会を予見していたにもかかわらず、それに対する多岐にわたる戦略的政策の立案と実行は、単年度主義の悪しき伝統とその折々のポピュリズム的な政策対応により、圧殺され、無残な現実を目の当たりにすることとなった。
 2018年、ひとりの母親の「保育園落ちた。日本死ね!」の投稿が大きな社会的うねりを引き起こし、認可、未認可を問わず全国各地で保育園の増設を実現してきたことは、我が国の政策決定の場当たり主義をまざまざと浮き彫りにした。その結果、政策的手段の発動により保育園の収容数の数合わせはできたけれども、小学校入学後の学童保育の整備は後手に回されたままである。労働人口の補填を目的としたに過ぎない「男女共同参画社会」も、その掛け声だけが先行し、セクハラ、パワハラの横行、男女の雇用機会の格差、賃金格差の顕在化、一部の大学で露見した男女の入学者数の意図的な操作に象徴される「共同参画社会」とは裏腹の事態が多発している。
 今後の労働人口の減少を見越して、その実現を阻んでいる既存の各種政策・制度の矛盾、混乱を大胆に整理して、Society5.0社会が必要とする人財の育成・確保は、精力的に進めることが肝要であることは言うまでもないが、そもそもSociety5.0社会とは、どのような社会であるのか、その社会をリードする産業ないし人財はどのようなものであるのか? そこでの暮らしは? SDGsとの関わりは?
 「AI神話」が蔓延りつつある現在、AIを使って未来社会の見取り図を描くのはさほど困難なことではあるまい。しかしながら、IoT家電、ロボティックス、空飛ぶ自動車等々、断片的なテクノロジーが飛び交っているけれども、総合的な産業社会の将来ビジョンの検討をもとに、何を糧に暮らし、何を豊かさとして味わっていくことができる社会が到来するのか、その社会がどのようなロードマップを経て実現されるのか等についての議論は、残念ながらいまだ十分になされているとは言い難い。  


「大学全入時代と高等教育の将来像」は、2022年10月に開催されたシンポジウム危機の時代の大学経営2022 ~少子化時代の大学経営と入試広報の現在』の内容を網羅した報告書から抜粋したものです。 (3回に分けてnoteに掲載します)

シンポジウム2022報告書


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