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夢日記・短編 「死角」

ある日の夢

荷造りを急ぐ。チェックアウトしないとならない。
時計代わりに付けていたテレビ。海で女の子が亡くなったと伝えている。
これから行く場所だ、と思った。

駅。
山に挟まれているだけで何もない。
海へ行く列車を待っていると、遠く反対側のプラットホームに薄桃色の貨物列車が停まった。所々錆びていて古い感じがした。
なんとなく俯いた人たちの列が貨物へゆっくりと近づく。亡くなった女の子の一家かもな、と思った。

さっきのニュースを見てもなお、現地であの一家を見てもなお、海へと向かう人たちに自分と同じような「死」の覚悟があるのかと考えた。
線路までの谷底はやけに深い。
そうやって覗き込んでいると強い風が吹いてくる。線路に吸い込まれそうで、咄嗟に柱にしがみつく。

線路の谷底に吸い込まれる覚悟はできていない。

海の近くの終点駅は既に暗闇と化していた。
何時間乗っただろう。不思議と疲れていなかった。波の轟音が四方から響いている。湿度を感じる風が吹く方角に黒い海を察知した。
今いる場所は、芦か葦が茂る沼地か。
ずっと木の板の上を歩かされている。舗装されていないからこうして木道にされている。そろそろ目が慣れてきた。この先に見える平屋の簡素な建物が宿だろう。
拓けた場所と言えど、背丈を超える草の塊の死角に怖いものが潜んでいる気がした。見つかってはならない。あまりその奥をじっと見てもいけない気がした。

ふと、あの女の子は誰かに殺されたんじゃないかと脳裏によぎる。
しかしここで一泊せねばならない。誰にも見つかってはいけない。辺りを警戒しながら進む。

宿へ入ると落ち着いた灯りに包まれ安心した。部屋までの案内を受ける。ドアを開けてもらい、鍵を受け取る。
「鍵は、締めてください」
と小さい声で忠告を受ける。
なにがとは言わないが、察してくださいという顔をしていた。今も解決できないなにかが起きているのか?この土地はやけに静かだなと思った。それ以上は言わずに案内人は去っていった。
無垢材とダークブルーの壁紙が合わさって小綺麗な玄関。奥のドアをもうひとつ開けると、ベッドルームがあった。一つだけある大きな窓は、さっきの芦や葦の暗闇を向いていた。
向こうから銃を向けられている。そんな気がした。
そちらを薄目で警戒しながら、恐る恐る手探りで鍵を確かめ、ブラインドをそっと下ろす。


明朝、なにごともなく港へ向かう。晴れている。
昨日の怪しい雰囲気が嘘のようだ。小型のフェリーが光っている。乗り込むと、ブロンドの髪の外国人カップルが3組。それと黒髪のアジア人が1組と、私が一人。皆同じ宿に泊まっていたらしい。
聞いていたよりも空席が目立つなと思った。
昨晩の不安を思い出す。おそらく昨日のニュースのせいでキャンセルが出たのだろう。具体的になにがあったのかは知らない。海難事故かと思っていたが多分そうではないのだろう。

定刻になり、波しぶきを上げて進んでいく。





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