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#一万円分本を買う

感染症だとかなんだとか、なかなか人心おちつかぬきょうこのごろ、みなさまいかがお過ごしですか。
わたしはまあまあひとなみというか、家と仕事の往復くらいという日々を過ごしております。
ともだちにももう何年会ってないかしら、オンラインやなんやではちょっとお話もしたりするけれど、という感じでいるのでだれかと遊びたいなー呑みにいったりしたいなー顔をあわせるのは職場のひとくらいなんだよなーというわりと世間によくある程度の心情をかかえているわけでありますが。
そんな折、おともだちがこんな企画をされるということで飛びついた次第。
#一万円分本を買う
ルールの詳細はこちらのnoteに。

大型書店にゆき一万円分の図書カードで本を買いましょうという企画、おもしろそうなのでやりたいですと不肖わたくしめも名乗りをあげてみることに。
そうしてお話しているうちになんなら我ら生きる場所は違えど同月同日同刻に戦いに挑もうではないかと桃園の誓いみたいなコンセプトまで追加され、さらにおたがい誕生月が今月ということで図書カードをプレゼントしあった態で戦いに挑もうではないかということになりました。
実際送りましょうかという話にもなりかけたのですが結局「概念で」ということになり、つみもとさんの話の早さ、好き……とおもったことは秘密です。
あとなぜ現金一万円ではなく図書カード一万円分かというと図書カードにした時点で本しか買えないというあともどりができない感、つまるところそこにはある種の「赦し」があるのだというのも先方の弁でありましてこういうのなんていうか、わたし知ってる。ネットスラングのあれでしょ。「わかりみが深い」。知ってる知ってる。深いね。
つみもとさん、企画の開催3日まえには「ハッピーバースデートゥーユー」のお言葉とともにプレゼント(概念)の画像も送ってくださる念の入れようです。
ということでこっそりつみもとさんへの好感度をうなぎのぼりにあげつつ、さてさてではでは企画スタート。
ちなみにうちの近所には本屋さんがないのでわたしが誕生日プレゼント(概念)をお送りしたのは当日でした。
当日大型書店に向かう途中にあるちいさめの本屋さんで図書カード一万円分を買い、それをもってつみもとさんへのプレゼント(概念)としました。
お送りしたのは開始30分まえ。
プレゼントが間に合わなければあやうくつみもとさんが企画に参加できないところでしたね。あぶないあぶない。間に合ってよかった。
ところで本屋さんAで一万円の図書カードを買い、本屋さんBでその図書カード一万円分を買った場合利益ってどうなるんだろう……本屋さんAおよびBともに一万円の売上げになるのか……わからん……とおもったこの問いに答えはあるんだろうか。
経済のことはよくわからない。なんなら算数のこともよくわからない。
まあそれはさておきこの企画、おともだちに会える(概念)ひさびさの機会ということでわたくしそれはそれは気合いをいれてのぞみました。
どれくらい気合いを入れたかというとものすごくひさしぶりにわりとちゃんとお化粧をした。
ふだんほんとに気合いの気の字もない体裁で仕事にいっているのでね、だってマスクで隠れるしなーていうちょっとアレな言い訳は置いておくとして。
せっかくなので今回のセルフテーマも決めてみよう、「秋、新しい自分に出会う」ってことでふだん読まない本を買ってみよう! 新しい扉を開こう! っていう意気込みもプラスで。
とにかく楽しみでしかたない。
定刻間近に舞台となる大型書店に到着し、実況タグをつけてはいスタート。
ということで下記に買った本をば。


須永朝彦小説選』(ちくま文庫)
こちらは今回絶対買うぞーと決めていた一冊。
須永先生のご本はたぶん20年くらいまえからすこしずつ読んでいました。
ぜんぶはなかなか読めていないのだけれど、『美少年日本史』などの研究や、詩、アンソロジーなどいろいろ。
あるときツイッターに須永先生のアカウントがあることにびっくりして、おそるおそるフォローして、自分のTLに須永先生の言葉がリアルタイムで流れてくることにいつまで経っても慣れなくてなんだかとってもふしぎだなあとおもっていました。
いろいろな作家さんのツイートを読んだり見たりしているけれど、須永先生の「つぶやき」を目にするときのようないつでも新鮮な驚きというか戸惑いというか、言葉がうまれてくるところを目にしている不思議さというのはこのさきもう味わえないのかもしれないなとおもいます。
そんな思いとともに購入した一冊。
山尾悠子選というのもまた。

斎藤美奈子『挑発する少女小説』(河出新書)
こちらも事前にチェックしていた一冊。
なんせ近所に本屋さんがないのでなかなかほしい本が買えない。
こちらももう20年くらいまえになりますか、斎藤美奈子さんのご本を片っ端から読んでた時期がありました。『妊娠小説』とか『紅一点論』とか。ということでこちらは絶対に読みたかった。ゲットできてうれしい。読むぞー。

若竹七海『パラダイス・ガーデンの喪失』(光文社)
こちらはもっと古い、中学生のときからだいすき若竹七海さん。
若竹先生の新刊は絶対に買うと決めている。……近くに本屋さんないからまたこのタイミングだけども! 本屋さんがないって不便だなー。

とりあえずこの3冊は事前の購入予定にいれておりました。
全部ちゃんとあってよかった。

てことで次からはいきあたりばったり。

麓慎一『近代日本とアイヌ社会』(山川出版社)
ところでみなさま、先日「ゴールデンカムイ」電子版全話無料開放キャンペーンがあったのをご存じでしょうか。
という前フリだけで大抵のひとは察しちゃうよね察しててもまあとりあえず聞いてください。お察しのとおりのことを言います。
数年前ともだちが「2冊買っちゃったから」ということで1冊くれた6巻のみの知識しかなかったゴールデンカムイ。
くわしく申し上げると家永さんというホテルの女将でセクシー美女がじつはけっこう年配でじつは美女でもなかったらしいという程度の知識のみしかなかったゴールデンカムイ。
あと牛山さんが強いっていうことも覚えてる。表紙にいるし。
で、すごい人気作品が無料なんてせっかくだから読んでみようと気軽なきもちで開いてみたらあっさりはまりましたとさ、ということでここ数日わたしはゴールデンカムイに夢中です。
熱意さめやらない。
で、漫画を読みながら、このあたりの時代背景よくわかってないなということに気づいたのでこちらを買いました。
大昔に読んだ『知里幸恵物語』、もしくはちょっとだけ仕事でふれた『知里真志保全集』で知里姉弟がすごいということは知っている、程度の知識しかないから……うんちょっと違うけどね時代背景とはちょっと別だけどね……。
そういえばこのあいだも大正時代の北海道の地誌かなんかをぱら読みしてたら真志保さんといっしょにフィールドワークしてたひとが真志保さんのファンになったという文章を読んだばかりなので知里姉弟についてももうちょっと評伝など読んでみたいなとか、まあそれはさておき。
あとそういえばむかし石森延男『コタンの口笛』を読んだはず、あれどういう話だっけっていう、いやまあとりあえずまずはこの本で勉強します。


で、ここまできて合計のお値段が5000円くらいになったわけです。

あとなに買おうかなー人文系いってみようかなーいやでも新しい自分に出会うならふだん買わない本をさーと「漢方」(知らない)「手芸」(知らない)などをブラウジングしつつ、芸術のコーナーにさしかかったところ。
みつけてしまった、矢内原伊作とアルベルト・ジャコメッティ『アルバム』(みすず書房)の2014年の限定復刻版! 
が! 
まだ棚にある!
7年も経ってるのに!
福永武彦『草の花』(好き)の登場人物のモデルとなった某さんの友人として「草の花の頃」などの文章を著し『若き日の日記』では『草の花』の別側面を描いた矢内原伊作、東大総長矢内原忠雄の息子でありながら京都にいった伊作、ジャコメッティとの交情が世に知られる伊作、と、ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』に描かれたジャコメッティのアトリエの写真! 映画『ジャコメッティ』でアミハマ演じるロードが見た景色そのままみたいな写真!
が、なんとお値段4620円(税込み)!
えっこれ買う……?
ふだんならお値段に臆してちょっと遠慮するけどいまのわたしの手には一万円の図書カード(暫定残金5000円)があるよ……? どうする……? 伊作の序文……ジャコメッティのアトリエ……5000円の残金……限定復刻がいまもまだ残っているということはわたしに買われるために待っていてくれたのでは……?


て、わりと長いこと悩んだあげく今回は見送りました。
ネックはお値段でした。
しょうがないんだけどね! この本がこの金額になるのはなんとなくわかるんだけどね! でも今回は大物を買うよりできれば刻んでいきたいからね!
いつかまた夢で会いましょう、しばしの別れよジャコメッティ。

ということで次に手にしたのはこちら。

シャーリー・ジャクスン『日時計』(文遊社)
税込み2900円。
こちらも単行本1冊としてはまあまあなお値段ですよね。知ってる。4620円のあとでは安く見えた。あと「シャーリー・ジャクスンの傑作長編本邦初訳」という帯を見たら買わざるを得なかった。となりに並んでたジャクスン『絞首人』(文遊社)と迷ってこっちに。『絞首人』は『日時計』よりリーズナブルだったのであっちを選んでたらもう一冊本買えたかもしれない。

だんだん値段と内容と本の体裁といろいろなものを勘案するようになってきました。
このへんくらいからようやくエンジンかかりはじめていろいろ見るようになってきたのでしたが一方そのころつみもとさんはといえばSNSを見るにすでに買いものを済まされて休憩にいかれていたのだった……お待たせして申し訳ない……と言いつつおたがい好きなようにできるこのへんの塩梅はけっこういいなとおもいました。本屋さんにかぎらずSNSでいっしょに買い物、楽しさはわかちあいつつたがいの自由度は守られるっていうの、ありですね。って、待たせてる側が言うていいんかな。あかんかったらごめんなさい。でもまあそんな感じで。

じゃあそろそろこまかく刻んでいこうかなということで文庫コーナーへ。

三浦哲郎『盆土産と十七の短編』(中公文庫)
帯に「えびフライ」という文字があったので。
なんで「えびフライ」という文字に惹かれたかというとむかし読んだ菅野彰「『海馬が耳から駆けてゆく』(だったかな)に、菅野先生が教育実習にいったとき三浦哲郎のエビフライの話が教材であり、こどもたちが「えんびふらい」という響きをおもしろがったというエピソードがあったなあとおもいだしたので。
えんびふらいと言いながら掃除用具入れにはいっていくこどもたちという映像が鮮明に脳裏に……というのもさすがにいいかげん三浦先生にも菅野先生にも申し訳ない気がするので元ネタを読んでみようーということで。
ところでわたしのすきな三浦作品は「おろおろ草紙」です。

室生犀星・萩原朔太郎『二魂一体の友』(中公文庫)
こちらはえんびふらいの横にならんでいたご本。
軽井沢の高原とかあれこれのみなさんについてはなんとなく知っているような知らないような感じですがふだん興味があるのはこちらより一個下か二個下の世代なので、、このおふたりの交情をクローズアップしたものは読んだことない気がするなあとおもったので購入。

ここまでで7冊。
あともう1冊くらい買えるかなーということでオーソドックスに新潮文庫の棚でこちらを。

ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』(新潮文庫)
『ねじの回転』、むかしの文字の小さい日焼けした新潮文庫で読もうとして挫折して、南條訳の文字の小ささで挫折して、こちらを開いてみたら文字が大きかったので、これはいけるかな……とおもいました……いやまだたぶん老眼じゃないよ……たぶん。

以上でしめくくり。

レジに向かったところお会計は10087円。
消費税は切り捨てていいってつみもとさんがおっしゃってたので87円はお財布から。
これもまた赦し。

最初に立てたテーマはどこに消えたのかしらというくらい自分のすきなものばかり。
新しき自分は古き自分をたずねてこそだよね!
というテーマの掘り下げをおこないました。
ふだん出会わないくらいたくさんの選択肢にかこまれるとかえって自分の嗜好が浮き彫りになるのだなあということがわかるという点でもすばらしいこの企画。
あと日常圏内に本屋さんがあるかないかというのも企画参加者のふるまいにだいぶ関わってくるんじゃないかなとほかのひとのnoteを拝見して得た感想。
わたしここぞとばかりに欲しい本買っちゃった。
現物見たいタイプ。

そしてごはんを食べながら買った本のお話をしましょうねということで、事前に調べていた気になる店に向かいます。
気になるお店、おいしいし穴場でひとがすくないといろいんなサイトに書かれているので土曜日の繁華街でも大丈夫かなー本屋さんからも近いしなーとおもって行ってみたらなんということでしょう、そこは地下街でした。
地下街。
たぶん昭和のころからここは地下街。
黒字や赤字で「利用上の注意」とかが刻まれてる白いプラスチック板、が、壁に貼ってあるタイプの地下街。
半分以上のお店がアルコールを提供するタイプの、だからこそいまのご時世しかたのないことだけれどどのお店もほとんどシャッターがおりてる地下街。
わたしこういうところ見たことある。大阪の梅田とか京都の木屋町のはしっこあたりで見たことある。あと神戸のモトコー。
そして梅田や四条よりひとどおりがすくない、というか、ない、この地下街……!
まあでもとりあえずものはためしにいってみるかということでめあてのレストランに向かう道すがら、シャッターが両脇を埋めつくす道すがら、一軒だけ開いてる居酒屋があり、換気はしないとねということでしょうか引き戸全開にされてる、のでなかの様子は外からよくわかる、カウンターでおしゃべりをしているご店主らしい年配の男女と目が合い、そして言われた
「ねえちゃんかわいいなあ、三十代に見えるわ! 寄ってって!」
聞いた? かわいいですって! そうよわたし数年ぶりにお化粧したの、ほめてくれてありがとうご店主。
よそから見ても三十代うちがわからでも三十代、実質とイメージが合ってるってことよねやったねうれしい、ところでおふたりとも地下街でサングラスしてるのなんで?
とはいえほめられるままお誘いに乗ってお店にはいったらそれこそ孤独のグルメだとかハネタ酒どころか店主とマダムと差し向かいの密な居酒屋探訪~本を買ったよツイートなんてする暇も余裕もない2時間ぶっちゃけトーク~がはじまることは必定、それはちょっとまた別の企画になるなということで今回はお見送り。
もしかしていまの会話、職場以外でひさびさにひとさまと話したことになるのでは? という衝撃の事実におくればせながら気がつきつつ地下街のはずれにたどりつき、おめあてのレストランでランチをいただきました。
おいしかったです。おすすめだよ。
ところでこれからこちらの企画に参加される方にアドバイスすることがあるとすれば、アフターは地上でやったほうがいい。
ひとごこちついてさて本の紹介しようとしたらスマホの電波が入らなかったよ。
びっくりした。


という、#一万円分本を買う のレポートでございました。

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