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武器を奏でる

我々の”守る”によって誰かを救えただろうか。

「守る」

を全うできたのだろうか。

演奏が終わり、戦地へ向かう列車のなかでボーッと考える。

客席を見回すとみんな寝静まっていた。

やはり緊張していたのだろう。

寝顔が死にいく人間にしてはとても穏やかだ。

演奏前のセリフもっとかっこつけたらよかったかな。

いまから話すのは、ちょうど30分ほど前のことだ。


3

戦争が始まった。というかいつの間にか始まっていた。

手塩にかけて育てた僕の息子とその友人らは徴兵され

どこ行きかもわからない機関車によってどっかに行ってしまった。

対する僕はというと、息子達が旅立っても音楽家をしていた。

もう意味などはないと思っていたが、家族との約束だ。

「お父さんの仕事はこの世になくてはならないのよ」

この年になっても夢を応援されるとときめくもんだ。

いつか大金を稼いで子供にスーツでも買いたかったが

そう思い続けた結果がこれだ。父親失格も甚だしい。

古びたバイオリンを片手に、

今日も今日とて仲間と公園で音を奏でた。


「あの…まだ演奏中ですので、そこを退いてもらえますか?」

いつも通り、駅前の朝に赤いシートを敷き、

仲間と演奏をしていると、観客を押し除けて

軍服を纏った人が五人ほどやってきて、私たちの前に立った

極力笑みを浮かべ私がそう言うと、

彼らは無言で我々の楽器を奪い、破壊した。

無論、我々の、そして観衆の目の前でだ。

「国が貴様らを守るために頑張っているのに、

 貴様らは何故、無価値な事ができようか。この愚民どもめ。」

というと観客に銃を突きつけたりなどをし、この集まりを解散させた。

「貴様ら老害も少しは民を守るような行動を取れないのか」

「まぁじきに貴様らにも声がかかる。その時まで備えておけ」

彼らが去ってようやく我に返った。

…楽器が無くなったのだ。


「しっかし、我々から楽器を奪われるといよいよただの老害だな」

うちのピアノ弾きがそう言うと

「…まったくだ。といっても遊んでいたことに変わりはないなぁ」

トランペット吹きが言った。

「仕方ないさ。どれ、セガレたちのために走り込みでもしようか」

楽器は遊びだということはなんとなく気付いていた。

これはいいきっかけだ。

数日後、彼らの予言通り、我々”老害”向けに訓練が始まった。

槍や銃、剣などが支給され、人の殺し方を学んだ。

…いわゆる”守る”努力をしはじめた。


「なぁ、俺らは何を守るんだと思う」

「民、ってあいつらはいってるが」

「笑わせるぜ。こんな腐り切った街に守るもんってなんだよ」

「こんなんだったら、前の方が守ってた気がするよなぁ」

それもそのはず、直接的な原因が我々の消失

とは判断し難いが、音楽の代わりに銃声が響くようになったこの街は

間違いなく死んでいた。

出兵の1週間前。我々三人はそんなことを酒場で話していた。

「…どうせ死ぬなら、守って死にたくないか。」

私の提案に二人は無言でうなずいた。

「でも、武器しかないぜ。何を鳴らすんだよ」

「…それを鳴らすんだよ」

二人はゲラゲラ笑うと乾杯しようと提案した。

「ぜったい成功させるぞ」


武器は思いの外よく音が鳴った。

銃に穴をあけ息を吹き込むとフルートのような音がして

槍は先っぽにガラクタをつけ地面を叩くとこれまた面白い音がなった。

剣は鞘に入れ箱を叩くと太鼓に。

弓は少し無理はあるが弦楽器そのものだ。

隠れて準備しているとちら「一緒にやりたい!」との声がちらほら上がった。

聞けば絵描きさんや料理人も道具を奪われて、やるせ無い気持ちに苛まれてたそうで。

それからと言うものの、訓練後夜な夜な集まって練習。

楽譜も何もないので苦労するとおもったが

表現者特有の無言による意思疎通が功を奏したのだろうか

案外、練習はうまく進んだ。

発表会は徴兵当日の朝。見送りにくる民に音を捧げるのだ。


そうして、徴兵当日、及び、発表会当日。

駅前の会場はとても面白い雰囲気に包まれていた。

厳しい顔をした教官達と、困惑した家族

そして派手な装いに身を包んだ兵隊。

教官が何かを叫んでいたが聞こえない。

「全員、配置につけ!」

僕の声と共にみんなは雄叫びを上げると

40人の楽団は、

教官と家族の前に立ちはだかった。

そして指揮者の僕は彼らの一歩前に出て

こういった


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あなたは我々が守ります。


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