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僕と、警備員。

当たり前だが、人がそこにいるのなら、そこには物語がある。

もちろん、それは波瀾万丈だったり、穏やかだったり、いろいろなのだが、僕が伝えたいのは「そこ人がいるのなら、そこには物語がある」というエグさである。

なんというか、そんな当たり前のことを「当たり前だよなぁ」って感じたって話だ。

警備員と友達になったよ。


1ヶ月ほど、とあるイベントでアルバイトをしていて、週末になると足繁くその会場に出向いては、お客さんを案内をしたり、スタッフさんの状況確認だったり備品を担いでえっさほいさしたり。

そこで仲良くなったのが警備員さん。

イベントの警備ではなく、会場となるビルの警備員さんたち。

年齢は僕と同じ22歳の人もいれば、50を超えるベテランも在籍していて。本来ならビルの警備が彼らの仕事なのに、気づけば僕らのイベントの手伝いもしてくれた。いい兄貴たち。

恥ずかしながら、僕は警備員さんと仲良くなる人生ではなかったため、どうしても警備員さんという人間は僕の意識の外にある存在だった。

なので、彼らとの関わりは、僕をとても広くしてくれる。イベントの仕事をしながら、持ち場が重なれば彼らと与太話をするのが僕にとって小さな楽しみであった。

「よーひょん!!元気か!!笑」

そのうちの一人に、みるからにヤンキー上がりな兄貴がいる。茶髪で焼けた肌、こてこての関西弁で家族の話をする彼は、まさに僕の憧れの大人そのものでして。

彼は初恋の相手と結婚し、現在三人の子供を持つ父親。彼との話はもっぱら仕事か家族の話だったのだが愚痴とかそういう類いは一切なく、ひたすらに愛で溢れていた。

とはいえ、警備員は夜勤や当直が当たり前な仕事。やっぱり子供に会えないのは寂しいし、奥さんとのコミュニケーションも難しいみたいで。

「それでも俺、がんばらないとな!!笑」

話の途中でお客さんが通ると、すかさず敬礼。
彼の発する「ありがとうございました」には全部濁点がついているのでは??と感じるくらいの気迫があった。

好きを仕事に!!とかいう腐った価値に汚されたこのご時世、世のため家族のためと仕事を全うする彼は間違いなくかっこいい。

キャリア迷子な僕は彼の生き様にとても惹かれてしまっていた。



そんなある日、明らかに彼が元気ない日があった。


明らかに寝れていない顔。





「何か、あったんですか」





「きいて〜、不倫されちまったぁ(笑)」



…怖いと思ってしまった。


仕事とか家族とか、不倫の是非とかそういう事ではなく「誰しも物語がある」ということに、なんとも言えない迫力と納得を感じてしまったのである。

「法律がなかったら、俺はあいつを殺してたかもしれへんわ(笑)」

彼も人だ。警備員である前に、父親である前に、人だ。

どうしようもなく、人なのだ。

そんな当たり前を、怖いくらいに、感じた。



もうそのバイトは終わり、僕も彼ももうしばらく会わない関係になってしまった。あれからどうなっただろう。シンゴジラのラストシーンを見た後のようなモヤモヤ感を抱え、こうして文章にしている。

まぁ、なんとかしているのだろう。

…当たり前だが、人がそこに存在しているのなら、そこには必ず物語がある。

それを貶すも尊敬するも、正直自由だ。いちいち人の物語を気にかけるほど僕らの物語も暇じゃない。

でも、物語がある、ということをそっと覚えてほしいのだ。

それはどんな人でも、だ。

少なくとも僕は警備員さんという人生を意識していなかった。なので、警備員さんも不倫をされてしまうということに、殺意を抱いてしまうということに、とっても驚いたのだ。

みんなそれぞれの物語がある。その上でみんな仕事をしていたり何かしらをしている。

…彼の敬礼は、今日もあのビルを守っている。


それはとても素晴らしいことで、とても残虐だなと僕は思うわけである。




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