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水本ゆかりと《エルドラドの蝶》



今回の考察は、モバゲー版シンデレラガールズにおける水本ゆかりの到達点ーーもっと徹底的な言い方をするなら、水本ゆかりの最長不倒距離としてのSR[サプライズ・テンポ]+について、あれこれ述べてみたいと思います。

本来ならRêve Pur『Secret Mirage』考察における注のひとつに収めるつもりの内容だったのですが、「ちょっと話が膨らみすぎた……」というアレな理由から、単独記事として公開することにしました。

この考察はそこそこ長文なわりに結論は驚くほど単純でして、要約すると、[サプライズテンポ]水本ゆかり+のドレスに輝く黄金の刺繍はエルドラドの蝶であり、その目撃者がエルドラドにいることを証すだろうーーという感じになります。

その根拠を述べ終えて後、もう一度このフレーズを反復することが許される段取りがつくまで、お時間ございましたらよろしくお付き合いください。


1,黄金の蝶


ぷちコレ上位報酬として登場したSR[サプライズ・テンポ]+の表現を読み解く上で、最大の謎にして最大のヒントになりうるものーーそれがゆかりのドレス背面に輝く黄金の蝶です。

金糸は蝶と渦巻く(=helix)気流を象っているようです

背中がぱっくり開いたドレス風の装いは、Cygamesが好む定番の表現と言えて、グラブルでも「エルーンといえば背中丸出しデザインだよね」みたいなところがあります。
その一方でシンデレラガールズの場合、そこまで背中率(?)は高くないような気がしないでもありません。敢えてそのあたりの事情を探ってみたところ、次のようなベテラントレーナーさんのお言葉をみつけることができました。

しんげきワイド第549話より。特別講義で教壇に立つ天才・池袋ちゃんは
板書するタイミングでどうしても「客に背中を向ける」ことになるのですが……
ぷちコレは初回からずっとランウェイを歩むファッションショーなのですから、
その上位報酬[サプライズ・テンポ]水本ゆかり+もやはり「客に背中を向け」ざるをえません

「撮れ高」。うーん、業界用語ですよねコレ。
温泉SRの志希にゃんやマキノンは「たぶん仕事風景ではないだろう。……入浴中だし」ということで除外させていただきますと、個人的に「客に背中を向けてなお撮れ高のあるSR特訓後」といえば[インスペクトコンコルディア]高峯のあ+や[甘い聖域]神崎蘭子+、[ストイック・ロワイヤル]相馬夏美+などが印象に残っています。
ベテトレさん(もしくは青木四姉妹の皆さん)は、ゆかりにもそういう水準に到達させるべく教え、また鍛えたに違いないと思うのです。

モバゲー版において強デバフCoSRとして時代を席巻した一枚、
それが[インスペクトコンコルディア]高峯のあ+です。
特訓前は走り込みのシーンで「理想の肉体」作りに励むのあさんの姿が……
そして[サプライズ・テンポ]+もまた「日々のレッスンで磨かれた身体」をアピールします。

ハードル高いお仕事ですよ、これは……! ゆかりPとベテトレさんの間でも「背中の撮れ高会議」みたいなのがあったんでしょうか?
ともあれ、[サプライズ・テンポ]+における撮れ高のひとつは「ゆかりちゃんの肩から背中、腰にかけての曲線美」であり、もうひとつが「黄金の蝶のデザイン」であるーーという点に関しては、おおよそ意見の一致がみられるのではないかと思われます。
その背中の美しさについては画像を御覧いただくに尽きるところがありますが、もしも私が例の撮れ高会議においてベテトレさんを説得しなければならないとしたら、「今まさに羽化しつつある蝶や蝉のような」という鮮烈な印象についてプレゼンするはずです。
しかしベテトレさんは動じず冷静に、「蝉ではなく、アゲハ蝶や紋白蝶でもなく、なぜ彼女のために架空の生物ーーそれも黄金の蝶を選ぶのですか?」と重ねてお訊ねになることでしょう。

イエリリ妖精さんの紋白蝶っぽいかわいさも捨てがたい…!

「無意味でも美しければそれでよい」という立場は尊重したいのですが、ここで回答できなければ私は撮れ高会議ごっこをうまくロールプレイできず、したがってゆかりPとしての私の前に[サプライズ・テンポ]水本ゆかり+が大きく翅を広げることもありません。
加えて、同時に描かれている小物類や鏡、そして暗いサロン(SSR[影に揺れる光]服部瞳子+や『Pretty liar』3DMVのようなドレッサーが置かれた空間)というシチュエーションを見るに、どうも、描かれたものの総体によって語られることを待つ水本ゆかりの秘密が、そこにはあるような……。

部屋の明暗を問わなければ、サプライズテンポのヒントはこの空間にも残されています。
[サプライズ・テンポ]が上位報酬となったぷちコレはランウェイを歩むイベントで、
KmMdも「きっと街中がランウェイ」と歌うのです。


詳しくは追々述べていくつもりですが、「その秘密は、Rêve Purの表現をソロ活動用に最適化したものでもある」という仮説を立てることができます。「どちらかの謎が解ければ、双方の真意が把握できる仕掛けになっている」のか、それとも「双方の真意を汲めなければ、いずれの謎もいつまでも解けない」のかは、この段階の私にはまだわからないことですがーーそのあたりはまあ、躓いたときに考えればよいでしょう。まずは一歩、進んでみようと思います。

水本ゆかりを取り巻く《七対》の不思議……!
それがソネットやストロペー/アンティストロペーにみられる七対でもあるとしたら?

画像にまとめてみた通り、問題はまず《七対》という形式に現れます。
たとえば麻雀に七対子チートイツという役がありますが、私が言うのもそれと同じ意味で、要はペアが七つ揃っているということです(黄金がワンペア含まれているので、少なくともチートイツ・ドラ2ですね)。

具体的には、ランタンと燭台、天秤とイヤリングスタンドが一対一対応しており、そこから百合とフルール・ド・リス(フラ・ダ・リとも。サプライズテンポ特訓後の壁紙にパターン印刷されているデザインのことです)の対応が意識の俎上にのぼるはずです。

フラダリの正体については百合、菖蒲、蛙、蜜蜂、槍など諸説あります

さらには芋づる式に『Secret mirage』のガラス瓶と[サプライズ・テンポ]+の宝石箱、ベゴニアのつると二の腕から流れ落ちるような宝石類のチェインが対応していることも察されるに違いありません。
すると黄金の蝶は、『Secret Mirage』2DリッチMVの紗枝はんをガラス瓶と百合の異界に招いた、あの光の粒子でもあるのでしょうか?

Rêve Pur(ゆかさえ)にとっての試練/褒賞が『Secret Mirage』であるならば、
[サプライズ・テンポ]はゆかりとPにとっての試練/褒賞にあたる……はず?

……ここはひとつ、答えを急がず慎重にいきましょう。
色や対応関係だけでなく、蝶という形にも、なにかしら予想しづらい意味や背景があるかもしれません。

さて、蝶それ自体は、シンデレラガールズの中に何度も登場してきた、馴染み深いモチーフです。
ここでは、14の分類にアイドル個人またはユニットでのお仕事を実例として割り振ってみましょう。
個人的な興味から、アイドル自身が蝶として描かれた場合は【蝶】、アイドルが花として描かれてそこに蝶がいる場合は【花】という印をつけてみました(両方という場合もありまして、こちらも重要です)。

1)初期R 岸部彩華+【蝶】クラブのホステスさんのシンボル
 初期R 月宮雅【花/蝶】私から見た母/母から見た私
  実在する憧れの人物・職業のシンボル
2)SR[ゆるふわ乙女]高森藍子+【花】
 SR[涼風のミンストレル]梅木音葉【?】
  日常と非日常をつなぐ「行きつけの森」
3)R[お花見]中野有香+ アイドルサバイバルinフラワーガーデン【花/蝶】
  「強く優しい花の発見」と、それに伴う世界崩壊(ライブ中断)
4)一ノ瀬志希『秘密のトワレ』【蝶】
 SR[花舞うトポロジー]一ノ瀬志希+【蝶/花】
   プシュケーの不滅、迷宮の案内人/仕掛人
5)SSR[運命の待ち人]神崎蘭子+【花】 ※のちモバゲーにも登場
   喪に服する理想、輪廻
6)ゲーセンSR[牡丹に蝶]兵藤レナ【花/蝶】 ※のちデレステにも登場
   強運の訪れ
7)SSR[祝福のまなざし]クラリス+【蝶】※のちモバゲーにも登場
   教会から飛び立つ奉仕のこころプシュケー
8)ミステリアスアイズ『Pretty liar』3DMV【花/蝶】
   手の届かない「綺麗なもの」
9)SR[うららか夢心地]西園寺琴歌+【蝶】
   蜜を舐める喜びと、花が実を結ぶ手助け
 SSR[うるわしブロッサム]西園寺琴歌+【花】
   「翅を休めて安らげる場所」としての花
10)SSR[影に揺れる光]服部瞳子+【蝶/花】
   彼女が熱帯魚をみつめてきた理由(蝶は熱帯魚やアイドルと互換)
 SSR[此岸の逢瀬]黒埼ちとせ+【花/蝶】
   「本当の死」を死ぬための復活(蝶は蝙蝠や病室の自分と互換)
11)Sonoritia『太陽の絵の具箱』3DMV【花】
   見えない保護者の予感
12)ラピエサージュ『ストリート・ランウェイ』【蝶】
   無個性の繭からの脱出
13)Festa Felice『メモリーブロッサム』【花】
   まっすぐ進める一本道(花のトンネル)への導き
14)SR[サプライズ・テンポ]水本ゆかり+【???】
   ???

備考a)本田未央(ゲーセン『こいこいシンデレラ』の《牡丹と蝶》)【?】
   乙倉悠貴『Butter-fly』(デジモンコラボ曲)【蝶】
     楽しい道草
備考b)SSR[蝶のはなむけ]塩見周子+【花】※サプライズテンポ実装後に登場
    ナルメアさん(グラブル)の奥義とか瞬間移動エフェクトとか
     形を変える夢、変幻自在
備考c)シルフ様(グラブル)【蝶】
     愛を追う蝶((1)から(14)までの要素が複合している?)


このメモはゆかりちゃんと同じイエリリ妖精の加奈ちゃんに倣って、「わからないことがあったらメモを見直してみよう」ぐらいのつもりで、私が私自身のために作成したものです。この記事でグラブルの話はしませんが、P空士さんと共通の理解を得やすくなりそうな気がするので、備考にだけ載せてみました。
言い訳は抜きにしてもなんというか……担当アイドルのことが一番よくわかってないと露見してしまっているあたり、流石にどうにかしたいですよね。
……あと、[水辺のティターニア]三村かな子+は、「真っ向からティターニアと書いてあるものを蝶に還元するのも違うかなー……」という理由で、メモに載せていません。でもちょっとだけ、夏島アイプロにヒントをもらった部分がこの記事の中盤あたりにあります。


飛躍を避けて誰の目から見ても明らかな事実から仕切り直しますと、黒衣の花嫁(ウールリッチみたい……)として現れて黒い蝶(ジャコウアゲハ?)とともに描かれたアイドルは、私の知る限りSSR[運命の待ち人]神崎蘭子+だけです。

「比翼連理」は鳥や樹木だけではなく、蝶や花にもあてはまるようです

この蝶の意味するところについては、アイドルとPは「夢を漂う蝶の両翼」なのであって、どちらかが欠ければ蝶は飛び続けられないのだと、蘭子ちゃん自身が大発表しています。
彼女はこの時、既にシンデレラガールになっていましたが、むしろそれゆえに「もしもPと出会えていなかったら/Pを喪ったら」という想いはあったのかもしれません。そのような運命を乗り越えてもう一度改めて会いに来るような蘭子Pさんの魂の色と形を思い描くなら、彼/彼女はおそらく黒い蝶の姿をしているだろうーーと蘭子ちゃんは想像するわけです。

この黒い蝶は……蘭子P! あんた蘭子Pさんなのかい!?(ゆかりP目線)

輪廻を繰り返すたび深まる絆というのも、彼女を未知に誘う理想のひとつなのでしょう(全てのSSRはそこに描かれたアイドルの理想のひとつを突き詰めたものであるはずだと、私は考えています)。そういえば、ローディング画面で蘭子ちゃんが調べていた語彙は、《邂逅》でありました。

コツコツ育んだ理想が明確な美のイメージを写しとるなら、それは冥利に尽きることでしょう

ゆかりの場合は、白楽天の『長恨歌』から「比翼連理」の四字を引きました。やはり花嫁のお仕事中のことです。鳥か蝶かの違いはありますが、ふたりの思惑に通ずるところはあるように思われます。

思い当たる節として、幻想公演でユカリ・フェアヘイレンにかけられた黒薔薇の呪いは、そもそも魔王蘭子の墓からはじまったものでした。
ゆかりがフェアヘイレンさんを真面目に演じようとするなら、この黒薔薇の呪いとはどういうものなのかを考えなければならず、その答えは蘭子ちゃんの黒い蝶の秘密と繋がっているのです。共演回数は少なく芸風も違いますが、水本ゆかりもまた神崎蘭子の隠れた理解者であると考えられるでしょう(※この見方によると、アニメ放映最終話やラスト・シンデレラストーリーで同じ舞台に立つシーンが感慨深くなるので、オススメです)。
その一方で、蘭子ちゃんが黒い蝶に託したものは、ゆかりにとっては既に白楽天の漢詩や黒薔薇と関係を持ったものなのですから、ゆかりの黄金の蝶に秘められた意味はこれと丸かぶりしてはいないだろうーーとも言えてしまいます。
あえて挙げるなら、この路線を受け継いだゆかりの仕事にあたるのは、ウェディングSSR[さざ波の花嫁]なのでしょう。

しかし人が理想を育てるのか、理想が人を育むのかは、一概に言えることではなさそうです。
このあたりのイメージの幅が志希にゃんの「迷宮の仕掛人」としての蝶や、ラピエサージュの「無個性の繭を破って生まれ変わる個性(私らしさ)」としての蝶にわかれたりするのかもしれません。

《標本》は興味深い分析対象、すなわちカリスマでもあるようで、
ショーウィンドウや《額縁》の連想を呼びこむことがあります

私にとって重大に思われることといえば、いずれの例においても蝶に付随する分析要素ーー「迷宮/標本箱」が現れる点です。
「迷宮であり標本箱であるもの」の例としては、とりあえずアリの巣の観察キットや博物館などを思い浮かべてみてください。

カントールの対角線論法や西洋の造園作法(ゆかりちゃんの場合は西園寺邸で迷子になったことがデレぽで確認できます)を参考に「迷宮は一本道で出来ている(一筆書きできる)」と考えるなら、無限が迷宮であるようにランウェイも迷宮ですし、その道程は『メモリーブロッサム』Full ver.の白い蝶が誘う花のトンネルとも重なりあうものでしょう。

花のトンネルは『ほほえみDiary』のMVにも出てくるので、藍子ちゃんとご縁がありますね。
考えようによっては、数多の「連理」が人に道を示す時にとる姿なのかもしれません。

このような迷宮はまた、森という形をとることもあります。
たとえば「エルフが棲むという帰らずの森」みたいな表現がファンタジー小説に出てくることがありますし、泉鏡花にも『草迷宮』という名作がありましたが、シンデレラガールズの場合も一風変わった呼び方をされています。
つまり、音葉さんが言うところの「行きつけの森」です。

水色の蝶や鹿などを見る限り、どちらも同じ森かと思われます

[ゆるふわ乙女]+の藍子ちゃんは明確に「たんぽぽ娘」に扮した花の表現なのですが、音葉さんの白い水着姿が水面を流れゆく花なのか、それとも川を渡る蝶なのかは、判別に悩まされるところがあります(特訓前なので未分化…という説も立てられなくはありません)。

また乙倉ちゃんの蝶は、作品という壁を越えたコラボで人々の目を喜ばせるものとして現れて、歌い手自身が蝶(の気持ち)になって歌う例です。
これは有香ちゃんにみられたような「髪にとまった蝶」が、彼女こそ(今まで暮らしていた場所を離れることになっても探しに行きたい)強く優しい花であることを示すケースと好対照になっていて、しかもいずれも虚偽ではありません。
彼女たちの証言(?)を信じるなら、アイドルは蝶であり花でもあるようで、しかも自然界には擬態というものがありますから、花に見えるものが蝶だったり、その逆もあるとなれば、真の姿を見抜くのも一仕事です。
たとえば、初期Rみやびぃの場合は大好きなママの影響で蝶柄の服を着ているのですが、ならば「みやびぃママ=蝶」という図式が固定的なものなのかといえばそうでもなく、ママが花であってその周りをアクティブに動き回るみやびぃの姿が蝶であるようにも見えることでしょう。

ゆかりは有香ちゃん・音葉さんから多くのことを学んでおり、デレステでの乙倉ちゃんとゆかりは河川敷仲間だったりしますね。

「ストレート」のよさは、ゆかりが有香ちゃんから学んだことのひとつ。
しんげきでは、なぜかタックルを練習する流れになったりもするんですが……

藍子ちゃんとゆかりは『メモリーブロッサム』が初共演だったと思いますが、「花のトンネル」「たんぽぽの綿毛」といったモチーフをフェスタ・フェリーチェで共有できたことは、ゆかりにとって得難い経験でした。
「花のトンネル」に近いモチーフといえばイチョウ並木や花吹雪(桜吹雪)がありまして、花吹雪なら可惜夜月の『義勇忍侠花吹雪』、イチョウ並木なら忍ちゃんのSR[ノスタルジッククォーツ]を思い浮かべることができます。
ゆかりは『HARURUNRUN』、藍子ちゃんは『ミライコンパス』、響子ちゃんは『桜の風』、紗枝はんは『薄紅』や『桜の頃』でこの表現に挑んだと言えそうです(よしのんも大活躍)。


確実に「蝶であり花であるもの」の典型例としては、瞳子さんのSSR[影に揺れる光]+が挙げられるでしょう。
上半身に花を配し、スカートを蝶の翅に模したことの視覚効果は抜群です。しかもこの表現はただ美しいだけではなくて、「蝶でも花でもないのになぜかそれを思わせるもの」として、瞳子さんにとってのアイドルや熱帯魚という憧れの焦点について述べるための換喩でもありました。

SSR[此岸の逢瀬]黒埼ちとせ+に見られる黒い蝶の群れは、それがコウモリと互換性を持つかのように描かれていること、黒百合が実はユリ科バイモ属の高山植物であって狭義の百合(=サッフォーの死を見届けたような存在)ではないこと、そして蝶が一羽ではなく多数いることなどから「今ここで死ぬのではないかと幾度も感じたその時々の私」や「同じ病院で過ごして私より先に亡くなってしまったあの人々」の比喩的表現と思われます。そういうものが、アイドルとして花である現在のちとせ嬢に、何事かを成すための再起を促しているのでしょう。
これは、VelvetRoseの時にちとせ嬢が述べた「胸に灯った消えない炎」に近しいもので、考えようによっては「蝶は炎である」とも解釈できるのです。
おそらく厳密には「蝶でも炎でもないのになぜかそれを思わせるもの」が、ちとせ嬢に具わっているということなのでしょう。
その答えを私自身はみつけたつもりでいますが、VelvetRose考察もやはりこの記事と似たような文章量を必要とするものです。ご縁がありましたら、また別の機会にお目にかけたいと思います。

ちなみにゆかりと瞳子さんの接点としては、琴歌さんと薫ちゃんが主役の空想公演『おえかき勇者と凍れるお姫さま』を挙げることができます(同一ユニットではありませんが、同じ舞台に立ったという意味で)。
ちとせ嬢とは『Fascinate』のCDにメロイエの『YELLOW YELLOW HAPPY』が併録されていましたね。

智絵里ちゃん(Sonoritia)や琴歌さんは、その培ってきた趣味から、お花畑と蝶をワンセットにした発想をする傾向があるようです。
ですから蝶はお花畑に現れるもの、もっと突き詰めるなら「四つ葉のクローバー探しを見守ってくれる存在」であるとか、「蜜を舐める喜びと花の交配のお手伝いを両立させる存在」という性格を強調されるように思われます。また、同じSonoritiaでも、雪美ちゃんの場合は「日だまりにまどろむペロの遊び相手」のような印象を持ったかもしれませんし、こずえちゃんやよしのんは空を鏡に見立てたかもしれません。

※蝶が巨大なのではなく四人が妖精さんサイズなのです

ところが、「ここはお花畑だから蝶がいる」という事実を一旦分解して「蝶が現れればそこがお花畑である」という新たな命題を作成したいと願う人々も世に珍しくはないらしく、彼/彼女たちはその命題の真偽を問われることがあります。
このような人々にとっての花や蝶は、琴歌さんやSonoritiaにとっての「現実に自分がお花畑でみかけてきたような蝶」とは全く異なるデザイン(数学的とか幾何学的、形而上学的、神学的とでも評したくなるような)を獲得する傾向にあるようです。

このような推理のスイッチバックは数学者の常套手段であって、通常は「AはBなり」という命題を逆転して「BはAなり」という命題に移るという形式をとることが多い。

遠山啓『無限と連続』

シンデレラガールズにおいては、クラリスさんこそがまさにこの表現の先陣を切った人ではないかと私は考えているのですが、……SSR[祝福のまなざし]+のデザインに取り入れられた美しくも抽象的な蝶は、ステンドグラスの一部であったかのようにも見えて、「教会から飛び出した奉仕のこころ」をイメージしているに違いありません。
いや、このような言葉遊びは、時にすっとんきょうに見えても、案外非常識なことではないのです。
たとえば「あなたさえいればそこが天国だ」のような使い古された口説き文句でも、それに見合うだけの熱意をお互いで注ぎあうなら、ふたりは幸せカップルになれそうな気がしてこないでしょうか? 
一方、「ここは天国だからあなたがいる」的な表現は「エンジェルちゃん、エンジェルくん!」の呼び掛けでお馴染みの伊集院北斗さん(SideM)に特徴的なものです。個人的にはポプマスでお世話になりました。
まあ、北斗さんとの共演経験はともかくとして、ゆかりとクラリスさんが共演したお仕事といえば、やはり2019年9月に開催された第一回ミュージックJAMラスト・シンデレラストーリー第四話ということになりましょう。
そこでクラリスさんはノーブルセレブリティのライブを評して「教会や美術館にいる時のような」とおっしゃるのですが、この比喩は建築様式の精密さや荘厳さについて成立する以上に、そこにあるこころプシュケーーーなにかしら安堵を感じさせるものについての比喩でもあったのです。

クラリスさんが教会で育んできた奉仕のこころと共通する部分のあるなにか(必ずしも同一であるとは申しません)が、ノーブルセレブリティやゆかりにも具わっているのでした。

モバゲー版でも[素顔のお嬢様]+に「心癒せる存在になれたら…」という台詞がありまして、
この願いを突き詰める過程が[クラシカルハーモニー]だったのかもしれません

私見ですが、ゆかりの場合、Rêve Pur『Secret Mirage』で演じた劇の時代背景から、法学畑のお雇いフランス人・ボワソナードが日本に伝えた自然法の影響をみることができそうです。
鹿鳴館時代の日本は不平等条約改正のための法整備に勤しんでおり、ボワソナードはこのために招かれて「拷問による自白」を強く諌め、禁止せしめるに至った人物です。キリスト教の精神を伝えるものとしては、以下のような内容を司法省法学校で講義した記録が残っています。

《各人に彼のものを帰すべし、何人をも害するなかれ》、これらこそ、それらが守られなければ、社会が貪欲と私利私欲と暴力とに任され、間違いなく滅びる、そういう格率である。したがって、これらこそ、自然法の二つの格率である。

大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』

「机上の空論では?」という目で見られてもおかしくはない一方、どっこいボワソナードがこういう姿勢でもって台湾出兵問題にも取り組んで、大久保利通の信任を得たことも確かなのです。国際間の紛争解決のためにも、日本人は自然法の理解を深めるべきだというのですね。
そういえば「カエサルのものはカエサルに」みたいな話があったなーと私は思ったのですが、しかしボワソナードはこの言葉を聖書や『神学大全』やナポレオン法典からではなく、ローマ法からーーわけてもユスティニアヌス法典のうち『学説彙纂』のおよそ1/3を占めたというウルピアヌスの言葉から引用したのでした。
当時の日本は普仏戦争の結果を見て「戦勝国ドイツが採用したパンデクテン方式」に興味をもち、その採用の意思を固めつつありました。フランス人のボワソナードとしては、「パンデクテン方式は起源をローマ法に遡るもので、別にドイツ法学の専売特許ではない」ことを示すため、あえてこういう説明をしたのではないかというのが、私の個人的な勘繰りです。
しかしウルピアヌスが軍人皇帝時代のはじまりを告げるクーデターで殺害された近衛長官でもあったせいか、そこには正義の女神アストライアの物語が見え隠れしています。
というのも、「自然法の二つの格率」とは要するに廉恥アイドース義憤ネメシスなのであって、それらが失われた時にこそ正義ディケーの女神は地上から去ってしまうのだーーと捉えるならば、これはヘシオドスの『仕事と日』に謳われている内容そのものなのです(詳しくは『Secret Mirage』考察で)。
「拙速でもよいからフランス民法を日本語訳したもの」を献じるではなく、東方の未開人にキリスト教精神を叩き込むため聖書を振り回すのでもなく、世のためによいと信じたことを我々に伝えるべく、彼は励んだと言えるでしょう。カルチェ・ラタンの丘の上には、日本から贈呈した彼の胸像が、今もあるそうです。
フランス民法や聖書は楽譜、ボワソナード民法は彼の解釈にかかる演奏であると見立てるなら、そこからSR[HARURUNRUN]水本ゆかりの親愛度台詞を連想することも難しくはありません。

これは、モバゲー版『ラスト・シンデレラストーリー』の文脈でいえば、「ラブをこめた」「未来のメロディー」が導く先の「さらなる高み」とはどういう景色なのかーーということに関わってくるお話であるともとれます。

ラスト・シンデレラストーリー第四話より。

ちょっと先を急ぎすぎたような気もしますが、それで、この考察が本来もっぱら取り扱うはずだったゆかりの黄金の蝶は、どんな意味を秘めているのでしょうか。
私が思うにそれは、おそらく『メモリーブロッサム』のFull ver.に登場する「白い蝶」やRêve Purの「真っ白な私たち」、『Secret Mirage』における「銀の星座」と対になるものではないかと思います。

ある分野においてーーあまりに制限された視野(兜や毛皮を被っていたり、夜間で暗かったり霧が出たり、片眼が使えなかったり)から、なおかつ遠く隔たった距離からでも見分けがつくデザインを要求される紋章や旗を対象とする学術的分野においてーー金と銀は特殊な色として設定されているようです。
この金と銀は、塗料や染料や予算の都合から、それぞれ黄と白で代替されることも多くありました(たとえば金閣寺を写生するとしたら、おそらく黄色の濃淡をつけてそれっぽく塗る人がほとんどで、クリムトのように金箔を用いる人は稀でしょう)。
したがって、水本ゆかりが黄金と関わったきっかけについては「イエローリリーの頃から実はそうだった」とも言えますし、「それが広く誰の目にも明らかになったのは、SR[素顔のお嬢様]+やSSR[エアリアルメロディア+]の黄金に輝く装身具からだ」とも言えますし、「実はSR[清純令嬢]特訓前に描かれたフルートケースには金のフルートが収納されていたかもしれないのだが、SR[サプライズ・テンポ]が上位報酬のぷちコレで【金色のフルート】が実装されるまで、そう考える材料はほとんどなかった」とも言えます。

「金色のフルート」のケースは、[清純令嬢]のものと同じ?

デレステでも、[クラシカルハーモニー]ゆかりが上位報酬だったイベントで獲得した【金のフルートのトロフィー】をお持ちの方がいらっしゃるはずですね。ルームには飾っておいでですか?

金は色の純にして濃きものである。富貴を愛するものは必ずこの色を好む。栄誉を冀うものは必ずこの色を撰む。盛名を致すものは必ずこの色を飾る。磁石の鉄を吸う如く、この色は凡ての黒き頭を吸う。この色に平身せざるものは、弾力なき護謨ゴムである。一個の人として世間に通用せぬ。

夏目漱石『虞美人草』

うーん。唐突に引用しましたけど、おっかないこと言いますね夏目先生。しかもあなたの本名は金之助で、まさにその色を名前に戴いているではありませんか。
……いやまあ、ゆかりちゃんがもっぱら富貴を愛しているかというとそうでもないんですけれども、金のフルートのトロフィーを獲得したPさんはすごいなあと思いますし、今回の[サプライズテンポ]+についてもたしかに「盛名を致すものは必ずこの色を飾る」と言えそうな気がする私なのです。
「盛名を致す」というのは見栄坊の世間体が云々という手狭な話に限らなくて、たとえばゆかりちゃんのように「名乗りをあげ」たり、晴れの衣裳に図案化したモノグラムが刺繍してあったりする人にとっては【そこを訪れた証スーベニア】と関わる一大事であると申せましょう(※このスーベニアというのは私が持ち出した概念ではなく、凪ちゃんのソロ曲『14平米にスーベニア』からでも引用できるものです。同じく八城雄太さんが作詞したKmMdでいうと、ゆかゆかのりこにとっての《お揃いのアクセサリー》も、やはりスーベニアなのでした。発想を転換するなら、アイドルたちがスーベニアを持ち帰ったことが傍目にも明らかだからこそ、そこは《アイドルゆかりの地》だと噂されるのです)。

SSR[音色を抱きしめて]+のスカートに刺繍されたモノグラム。
ウェディングアイチャレやエアリアルメロディアの頃から、
ゆかりちゃんには刺繍を美しく尊いものと見る傾向がありました。

ここでちょっと思いきった話を打ち明けますとーーこのような刺繍もまた「迷宮であり標本箱であるもの」のように、私には思われるのです。
なぜならば、迷宮が一本道であることはアリアドネの糸が描く図像によって示されるもので、「糸によって描かれた図像を美しく洗練して飾り、受け継ぎたい」という願いの結晶がタペストリーや刺繍ではないかと考えるからです。グラブルでいうと『俺たちのレンジャーサイン』もまた、このようなテーマに挑んで好評を博しましたね。
さらに連想を続けるなら、「刺繍の施された晴れ着」は「紋章の描かれた盾」に似たもので、私がこちらの表現の起源に遡ろうとすると、どうしても『イリアス』第18歌に謳われたアキレウスの盾に突き当たってしまうのでした。
状況によっては、それが死地に赴かんとする者への餞になることもあるということです。実際、古代ギリシアにおいて、盾は戦死者を父母や妻子の待つ故国に送り届けるための担架や火葬台でもありました。
私なりに表現するなら、「盾は舟であり墓でもある」ことになります。
貴婦人の墓に刺繍入りのドレスが納められる理由も、そこに求めうるのかもしれません。

これは「特攻服に名前と肩書きを刺繍しておいて、それでヘタレたことをやらかしたら先代に顔向けできねえぞ」というたくみん風の覚悟が試される物語要素でもありますし、レナさんのSR[牡丹に蝶]にしても「勝負師の名にかけて」という前置きあってこそ「めぐってきた強運(Pくんのこと)を逃さない」という決意に説得力が生まれるわけです。
ゆかりちゃんの場合は、SSR[さざ波の花嫁]のデレステのライブ開始前に「あなたの名前に恥じない私、お見せします」と頼もしく宣言してくれたりもして、こういう時のゆかりは本当にイケメンのイケボです。北斗さんとも勝負できそうです。私なりに誉めると、イケ本ゆかりなんですね。
私自身、ゆかりPとして「シンデレラガールズの世界に水本ゆかりあり」と心の底から感じたいがために、解かずともよい謎を勝手に見つけ出しては長文を書いている部分がないわけではありません。

いやいや、自分の話は脇に置きまして。
ここまで前半部分の内容を改めて三点にまで要約してみますと、まず私の第一の主張は【アイドルの衣装や持ち歌、ライブ会場などに蝶が登場した場面が、私の知る限りでは14例前後あり、[サプライズテンポ]水本ゆかり+もそのひとつ】です。
抜けのあるなしを別にすれば、これは単に事実についての指摘ですね。

次に第二の主張は、【蝶の果たす役割は、14例すべてがひとつのことを述べながらも、それぞれで切り口や着眼点が異なり、結果として黄金の蝶は[サプライズテンポ]+に特有の価値を付与している】です。
私はツアー公演イベントの考察で「ひとりで何役を演じてもよいし、何人がかりでひとつの役を演じてもよい」と書いたことがありましたが、その拡張版みたいなものです。蝶にもこのルールを適用することができるというか。

そして第三の主張が【蝶の担っている役割には、アイドル各自の経験や個性が反映されている】です。
なんでも「バタフライ効果」というのがあって、一見どうということもない蝶のはばたきのひとつが遠い外国の気象を左右しているかもしれないというのですが、私の主張だと「そこに至るまでのアイドルの一挙手一投足によって、アイドルとともにある蝶の姿や、そこに籠められた表現の内容は変わってしまう」わけです。
不思議なようでもありますが、もしも「我夢に胡蝶となり、胡蝶夢に我となる」ならば、そういうこともありましょう。蘭子Pさんが黒い蝶になってしまったという実例も挙げさせていただきました。

シンデレラガールズにはいろんなアイドルがいますが、お互いの仕事が全くかけはなれていて仕事のアドバイスもできないーーということはなかなかありません。
思い出深い共演経験があるアイドル同士となれば、なおさら一方のアイドルの表現が、他方のアイドルの表現を読み解くヒントになりうるでしょう。


2,地の泡、ガラスの花


全体の構成を鑑みましたところ、ここからが中盤です。引き続きよろしくお願いします。

「黄金の蝶」というゆかり自身に由来する謎を解くヒントとして、特に私が注目したのは、蝶そのものではありませんでした。なぜなら、私自身が蝶を「どんな状況に誰と共にあるか次第で、微妙に意味を変えてしまう存在」として定義したからです。
「アイドルは蝶であり花である」とは申しましたが、ならばアイドルにはそれぞれが「花になりたいか、蝶になりたいか」を判断する材料があってよさそうなものです。
それで、自分なりに花と蝶の違いについて考えてみたのですが……。
花言葉なら、赤い薔薇を何本用意したかで検索すれば、ある程度決まった内容が出てきます。現代の花言葉はほとんどオフィシャルなものです。
私が思うに、花言葉よりももっと自分自身の素の部分に近いプライベートな内容を表現したい時、言葉にしてしまえば嘘になるかもしれない本当の気持ちを伝えたいその時、彼女たちは蝶になるのではないでしょうか。
……たとえるなら、人魚姫が泡になるのと同じように。

人の想いは地の泡である一方、天にあげられると花火や星になります。

この線を突き詰めた結果として現れるのが花、蝶に続く第三のファクター、すなわち宝石です。「宝石とは、消えずに残った地の泡なのだ」と私は申し上げましょう。これは比喩というより、事実に近いはずです。
甘くてふわふわしたホイップクリームやソフトクリームも地の泡なのでしょうけれども、こちらはかな子ちゃん、とときん、志保さん、さとみんやスイーツ5の得意分野に関わるもので、食べるとなくなってしまいます(なくなったらまた作ってくれる人がいるのは、ありがたいことですね。大切にしましょう)。

ソフトクリームといえば、ありがとう夏島アイプロ!
ちなみに高級マスクメロンボウルももらえて、そちらのフレイバーテキストには
「まるでフルーツのジュエリーボックス」とあります

夏島アイプロは宝石を題材にしてゆかりをルビーになぞらえ、[サプライズテンポ]ゆかり+は「自分がジュエリーになった気分です」と述べました。
紗枝はんも最近では「花か宝石か」の二択を持ち出すことがあります。

いわばアイドルは花であり、蝶であり、宝石でもあるようなのです。
さらに『咲いてJewel』を聴くと宝石は炎や唇にも姿を変えてゆきますし、はたまた法子ちゃんにとってのアイドルはドーナツであり、みちるちゃんにとってのアイドルはパンなのでしょうから、事態は混乱の一途をたどります。
そして「アイドルとは一体……」とわからなくなってしまった私にとって、それは泡のようでもあるし、ひとつの謎でもあるわけです。
この調子で行くと、アイドルの可能性は無限なのではないかとも、想像が膨らみますね。

……無限。
そう、無限なのかもしれません。
彼女たちが「永遠に超えんとするもの」であるならば、可能性は。

聖霊は必ずしも「聖なるもの」ではない。ただ「永遠に超えんとするもの」である。

芥川龍之介『西方の人』

シンデレラガールズにおける宝石という表現は「花であり蝶であるもの(プライベートな自分の想いが、オフィシャルな場での確定した意味を伴う行動に結び付いた状態)」なのではないかと、私には思われました。
そして宝石は、クール属性のシンボルマークにも採用されています。
現状のゆかさえは、キュート属性アイドルのままクール属性の表現力をも身に付けつつあります。
私などは「ゆかりちゃんってCuPa寄りのアイドルよね」と思っていた時期もあったのですが、実のところはCuCoPa全属性について融通無礙でありえたわけですね。

ゆかりちゃんkawaii!(語彙消滅)

そしてまた、向日葵の花は太陽(パッション属性のシンボルマーク)を追いかけるでしょう。それら(太陽/向日葵)は、アイドルがPやファンたちにプライベートな想いを伝えたい気持ちであったり、そういう打ち明けごとを可能にするアイドルたちの勇気を意味しているのかもしれません。

ただなんと申しますか、太陽には「夜空を探してもみつからない」という特徴がありますね。そういう時に向日葵だとかその他、我々の知る地上の花のかわりになって太陽を追いかける地下の花が咲いていてくれたらーーという発想が、世に形を結ばないとも限らないように、私には思われます。

さすがの向日葵も、太陽のほうを向こうとしても、思うようになりませんな。無理もない。今は夜だもの。夜の空に太陽を探しだすのはむずかしい。

三島由紀夫『夜の向日葵』

『Secret Mirage』のFull.verにも登場する【ガラスの花】は、こういう地下の花のことなのだろうと、私は推測しています。
その根拠のひとつをシンデレラガールズ内に求めるなら、相葉ちゃんと琴歌さんのユニット・フィオレンティナが重要な考察対象となるでしょう(デレステイベント『さやけき花の生命に』、開催決定おめでとうございます! 今からとても楽しみです)。
ふたりは彼女たちが好む花の表現を追求するうちに、瞳子さんと一緒に夜間ステージにも挑戦して「夜に咲く花とはどういうものか」という課題を発見し、「地下にも太陽はある」という発想を元に仕事を完成させたことがあります。
この夜に咲く花はやはり、この考察で扱っている「夢の蝶」と、ある種の対応を成すのではないでしょうか。
「夜に咲く花といえば月見草かな?」「花火というのはどうでしょう」というような別解もあって、相葉ちゃんのお月見SRや花火アイプロなども引き合いに出せなくもないのですが、花火アイプロなどについては紗枝はんとゆかりのユニット・Rêve Purについての考察で、触れる機会もありましょう。
ともあれ「地下の太陽を追う花」の表現を突き詰めた好例のひとつが、SR[虹色ヴォヤージュ]西園寺琴歌です。

ぷち衣装の説明文によると、彼女の手にあるのは金の茎に咲いたクリスタルの花です。
おおよそはガラスの花の親戚にあたるのではないかと私は思います。
[水辺のティターニア]かな子ちゃん+の翅とも質感が似ている、ような……?

このSRは特訓前後をあわせると「長い夜を徹した後に訪れる太陽の光」「そしていざ、冒険の旅へ!」という喜びに満ちたテーマを提示するものでした。そしてその前提として、琴歌さんのVIA入賞によるボイス付与を祝福するものでもあったのです。

琴歌さんと【ガラスの花】の表現は、このように繰り返されてきた試練/褒賞の一角なのですが、ゆかりもまた空想公演『おえかき勇者と凍れるお姫さま』でコトカ姫にとっての【ガラスの花】そのものを演じています。
ユニット・スノゥメモリーがそれです。

薫ちゃん演じる「おえかき勇者」はまさに太陽の役割を果たして、
コトカ姫の凍えた心を溶かします。そしてその時、スノゥメモリーは……

魔王蘭子の【黒薔薇の呪い】と同様、コトカ姫の【凍れる花(六花=雪)の祝福】もまた、ゆかりが演劇にチャレンジして掴んだ重要きわまりない表現だったと言えるでしょう。
それらをゆかりは、紗枝はんと共有したのです。

同じ星の運命さだめに生まれた
硝子色の花は まるで私たちみたい

Rêve Pur『Secret Mirage』磯谷佳江・作詞


これは個人的な感覚ですが、cupaだと向日葵、cucoだとガラスの花で勇気は象徴される傾向があるような気がします。

『Isosceles』2DリッチMVにも、ガラスの花は登場します

黒薔薇、向日葵、ガラスの花と、いずれの表現も挫けず投げ出さずに取り組んできたゆかりちゃんーー金色の蝶の表現も、このような彼女の数多い挑戦のひとつにして、その精華であったと申せましょう。

今後の出番で、彼女はどのような表現の壁を越えてしまうのでしょうか。
そしてその新たな表現に、私の理解力はついていけるのでしょうか。
このような目配せの往復は、ゆかりちゃんはもちろん私の側でも「無限のなかからただひとつのものを選ぶ」ことを意味していて、それなしでは一歩も進めない(前にせよ左右にせよ後ろにせよ)のです。

いやいや、ついていくに決まってるやん。……という前提で、後半に移ります。



3,コンソール、暗いサロン


……えー、いよいよ後半戦でございます。
改めまして、よろしくお願いします。

黄金蝶の謎を解くには、一度は蝶から目を離して、蝶が誰とどういう状況(時間と空間と動機)に存在するのかを見極めなければならないーーというところまでは、お話しいたしました。
いうなれば私は、【ガン見からの二度見作戦】を採用したのであります。

イメージ・シンボル事典などを開いて蝶の項目を調べるだけでは、個別のケースにおいて「二宮飛鳥がいうエルドラドとはアマゾン川上流、または群馬に広がる黄金郷である」というような珍回答を避けることができません。
これはゆかりちゃん自らお手本となって私に教えてくれたことですから、教訓は活かしたいものです。

ゆかりちゃんの辞書には恋もエルドラドも載っています。
いずれ彼女がそれらを目撃することを予見しているかのように。……

この方法論において「鏡台(ドレッサー)の置かれた暗いサロンに蝶が存在する」という要素はとても重要で、しかもそれは[サプライズテンポ]+だけでなくSSR[影に揺れる光]服部瞳子+や『Pretty liar』にも見られる状況であることがわかります。
[甘い聖域]神崎蘭子+も状況は似ているのですが、この考察における肝心要の蝶が見当たりません。

コンソール、暗いサロン、鏡、美しく粧うための箱、自分には見えない背中、蝶……
ここまでは[サプライズ・テンポ]+と同じです。
では、なぜ蝶のデザインが別のものになったのでしょうか?

私自身、楓さん考察のなかで『Pretty liar』についていろいろ書いたのですが、そこでは蝶についてなにも書きませんでした。
というのも、蝶が奏さんのいう「そうなれないとわかってしまっても憧れた綺麗なもの」であることは、ほとんど疑いようがなかったからです。

このシーンほんとすき

ふたりはこの蝶をとらえることを、ともに夢見るようになりました。
この蝶は彩華さんが憧れた「夜の蝶(クラブで活躍するキラキラしたホステスさんたち)」そのものではなく、「存在しないはずの夢の蝶」です。
SSR瞳子さんの場合は、一度はアイドルを引退したことが「存在しないはずの夢の蝶」となってスカートのデザインにつながっているのですが、そこからPに見いだされて再起した経験が、蝶と花を結びつけたように見えます。

このような解釈に拠ると、[甘い聖域]神崎蘭子+についても「存在しないはずの夢の蝶」が実は存在したのではないかーー【大事なものは目に見えない】というだけのことだったのではないかと考えられます。
「見えないなら存在しないはずだよね……なにを根拠にそんなことを言ってるんだろう?」という疑問は、時宜を得た適切なものです。
対する私の回答はまず第一に、《蝶は画面に映らないこちら側にいるーーつまり、蘭子Pさんその人が蝶に見立ててある》というものです。叙述トリックさながら、つまり私のミステリ趣味の守備範囲ドンピシャと言えますが、しかしこれだけでは完全な回答ではありません。
これと対になる第二の回答は、《蘭子ちゃんは今まさに口紅を塗ろうとするところで、その行為が完了した時の唇がまさに蝶として見立ててあり、彼女の愛の囁きは蝶のはばたきのようなものである》というものです。こちらは私自身の回答でもありますが、それ以上にかつて私があいさんとゆかりの関係に見出だしたものなのでした(詳しくは『水本ゆかりと《情熱の赤》』をご覧ください)。
……両者あわせて完膚なきほどまでにイチャイチャしていますね。私がジョジョ第一部のスピードワゴンに倣うなら、ここはクールに去るべき場面です。

バレンタインSRということで、口紅はチョコレート色です。

夢の蝶が現れるとしたらそれは誰もが寝静まった真夜中Minuitのことに違いなく、しかもその理由は彼女たち自身の美の引力に惹かれるようにしてーーという発想で、暗いサロンがMVの題材に選ばれたのでしょう。

こういうのはどうも、フランス象徴詩のお家芸のようです。
実を言うとボードレールの詩『二重の部屋』の中には"Rêve Pur"という言葉も用いられておりまして、ある程度までのことは改めて『Secret Mirage』考察の方に書くつもりです。

「クワガタやカブトムシを探すなら、明るいうちに裏山の楢の樹を選んで黒蜜を塗り、まだ外が暗い午前4時とかにもう一度出直しましょう」というと、これはもう莉嘉ちゃんや名探偵バロワ(グラブルで虹色クワガタが好きな人。CV武内駿輔さん)っぽくなってしまうのですが、私はどちらも実は同じことだと思うんですね。

立派なカブトムシさんも「森の宝石」と呼ばれることがあるそうですね

ただし、ミステリアスアイズにとっての「夢の蝶」とゆかりの黄金の蝶の間には共通点もあるのですが、大きな違いもあります。

額縁のなかの「夢の蝶」は、花の香に誘われてこそ舞い立つのでしょう

「夢の蝶」は、奏さんの想いが楓さんに伝わったからこそ【そこで生きている証スーベニア】として現れ、額縁から解き放たれたものです。
ですから、ゆかりの黄金蝶が瞳子さんやミステリアスアイズの文脈をほいっとコンビニエンスに拝借することはできないでしょう。
これはたとえば、ゆかりちゃんの部屋と凪ちゃんの部屋が全く同じインテリアで飾られているはずがないのと同じことなのです。
黄金の蝶は、ゆかり自身が人々との間に紡いだ黄金伝説レゲンダ・アウレアに基づくものとしてのみ現れるのに違いありません。

でも「人々」って誰だろう。
Pかな? ファンかな? それとも共演アイドル?
実はですね、どれも正解だと思われます。「水本ゆかりと夢を共有するすべての人たち」の紳士録を作ろうと思っても、それはほぼ不可能ということになりますね。

人々(※ぴにゃこら太、うえきちゃんも含む)

たとえばSR[素顔のお嬢様]でゆかりは裏方のスタッフさんたちへの感謝を表明しますが、この「スタッフさんたち」全員の名前を、私は知りません。ただそこに描かれた会場の規模や作業風景から、人数を大まかに想像するぐらいです。
しかしかといって、「彼らのことは全くわからず想像できない」というわけでもないのが面白いところでもあります。彼らの集団的性質は、[素顔のお嬢様]特訓後のステージが鏡とみまごうほどに磨きあげられながらも無機質ではないことからも、推測することができるでしょう。

背景壁面に浮彫加工された「つる(Stalk)」が、鏡の無機質さを解消しています。
このような組み合わせは、Rêve Purのロゴ(ベゴニアのつる)にも見られますね。
……ただし「つる」だけが蔓延りすぎても黒薔薇が世界を満たしてしまうので
人類滅亡しちゃうみたいなんですけど……(※幻想公演とかノワール志希にゃんみたいに)。
ゆかりは「フルートの冷ややかさが、今はありがたいです」と感じる人でもありました。

ステージの上に立つ者のために、彼らは全く手を抜かないのです。……その心は、ステージの外で自分を見守る人々(P、P以外のスタッフ、ファン)のために懸命なゆかり自身の姿と、合わせ鏡になっています。

このあたりのヒントは、SSR[巡り巡るシンフォニー]+の中にもちりばめられているのですがーー他にアニバーサリーカーニバルでメロイエのクレープ屋さんに来てくれたファン(ゆかりがmissも楽しめる空間なら、彼らも楽しそう)や、水本ゆかり握手会に参加したファン(ゆかりが緊張している時は彼らも緊張してしまう)、ライブ全通で顔を覚えてもらった熱心な人、アイドル学園祭で風船を配るゆかりを人垣で囲った面々、『HARURUNRUN』をスカーフを外して楽しんだ女生徒さんがた、『メモリーブロッサム』のコミュに出てきた商店街のおじさんなど、明確なノリや個性を持つ人々もいます。もちろん、ゆかりのフルートの先生もそのひとりです。

Pやゆかり本人でさえ預かり知らないところで紡がれていた誰かの夢が、
ライブでの演奏を通じて再び浮かび上がってくることもあります。

この「水本ゆかりと夢を共有するすべての人たち」の範囲は、動機さえ一致すればよいのであって、時間と空間をまったく考慮しません。ノワールSSR志希にゃんに言わせると、「ひとつを得るためにふたつを捨てる」のが進化なのだそうです(……マジかよ……!)。

猿から人類への進化は、四足歩行をやめて木から降りるところに始まったのでしたっけ。
位相幾何学も、ユークリッド幾何学から距離と角度を取り払って成立したのだとか。
しかし、時間と空間の束縛を振り切った先に《絶対》はあるのでしょうか?

たとえば今から一年後に初めてシンデレラガールズのことを知り、ゆかりPになった人がいるとしましょう。彼/彼女は「モバマスやらないうちにサービス終わっちゃったな」と残念に思うかもしれませんけれども、彼/彼女はタイミング的に全然遅れてやってきたわけではありません。

ゆかりちゃんはいつか来るべきまだ見ぬあなたを歓迎します

もっと極端な話が、もはや存命ではない、未来に「ゆかりと共有可能な夢(動機)」を託した過去の人々も、そこにいます。
ゆかりとPの出会いで縁あったニールセンや田園幻想曲のドップラー、ハーモニック・クラウドで歌った『第九』のベートーヴェンとシラー、ゆかりに「比翼連理」を伝えた白楽天などは、そういう「偉大な先人達」なのでしょう。

私の妄想ではシャーロック・ホームズも先人達の一員ですが(えー)

それで今回の場合は、「暗いサロン」と関わる先人達の発想を、引用することができるのではないかというわけです。
未公開のままになっている私の『Secret Mirage』考察の中では、ゆかさえが演じた劇の時代の人物から、文学畑ではマラルメや漱石、そして英語教師だったふたりに影響を与えた人々(シェイクスピアやテニスン、ポオなど)にも注目せざるをえなくなりました。

コンソール、暗いサロン。プティックスもない、
殷々たる 無生気の 異形なる器か、
けだし主人は 冥府の河の 水を汲みに
携えたのは、夢が誇る 全ての品々。

マラルメ『彼自身の寓意であるソネ』渡辺守章訳

プティックスというのはマラルメが十四行詩を書く上で必要とした七対の脚韻のために考案された新しい造語"ptyx"のことで、(それ一語では)無意味なものに他ならないのだと、マラルメ自身認めています。
しかしこの無意味は、詩の中に現れるとき「プティックスもないnul ptyx」という形を取りました。無意味なものが否定を伴うという二重否定のうちに、十四行詩そのものはなにを語ろうとするのでしょうか。
私なりに[サプライズ・テンポ]+を意識して言うなら、「存在しないはずのものにこちらを振り向かせようとする時にだけ見える美しい背中」が"nul ptyx"なのであって、「では、この美しい背中を我々に見せてくれたptyxの素顔とは一体?」という問題に、意識は再び帰ってこざるをえないのです。たとえるなら、振り子運動のように。

練習風景もKawaii

マラルメが必要としたような「暗いサロン」には、漱石の『三四郎』や芥川の『河童』とも重なりあう部分があります。描写を抜き出すとざっとこんな具合です。

三四郎は静かな室の中に席を占めた。正面に壁を切り抜いた小さい暖炉がある。その上が横に長い鏡になっていて前に蝋燭立が二本ある。三四郎は左右の蝋燭立の真中に自分の顔を写して見て、又坐った。
 すると奥の方でヴァイオリンの音がした。それが何処からか、風が持って来て捨てて行った様に、すぐ消えてしまった。

夏目漱石『三四郎』

こういう道具立てはおそらく、漱石自身がロンドンで下宿先を探したり、クレイグ先生を訪ねて教えを受けたりする中で、実際目にしたものでしょう。というのは、ほぼ同時代を舞台にしたホームズものの事件現場にある暖炉もこんな感じなのです(※グラナダ版ホームズでいうと『踊る人形』や『ぶなの木屋敷の怪』などに見られる邸宅が典型例です)。
マラルメの火曜会が開かれた部屋でも、やはりマラルメがよく肘をもたせかけていた暖炉の上に、蝋燭立てが二本置いてありました。

19世紀末はまだ電灯が普及しておらず、夜中に胸騒ぎがして起き出した時に頼れるのはもちろんランプやロウソクの灯りなのですが、「でも真っ暗闇だとロウソクに火をつけるのも一苦労ですよね?」という問題を解決してくれるもののひとつが、暖炉に残った燠火だったと思われます。
そしてこの暗いサロンから立ち去るとき、彼/彼女は灯火を息で吹き消すことになるわけです。……仮に魂というものがあるとして、それが人生という舞台から立ち去るとき、肉体という芯から命の火を消してゆくかのように。

その行為の及ぼす心理的影響は決して小さくないものだったらしく、さまざまなジャンルの作品の中で、この種の表現が追究されました。
たとえばハイドンの交響曲《告別》にも蝋燭を吹き消す演出があります。そしてマラルメの場合は『イジチュールまたはエルベノンの狂気』で、この行為を演じることの意味を取り扱っていましたーーそれも、Rêve Purという言葉まで用いて。
ロンドン帰りの漱石も『幻影の盾』において、その境地を「純一無雑」「玲瓏虚無」と呼んでいるように思われます。この「純一無雑」は、白百合を伴って『それから』にも登場しました(詳しくは、やはり『Secret Mirage』考察で扱いたいと思います)。

『三四郎』の劇中は天長節から大晦日の間、11月中旬でしょうか。「戸外は寒い」と書かれもしていますが、どうやら暖炉に火はなく、灰もないのでしょう。三四郎はその点、たいして注意を払いません。
マラルメ風にいえば、「骨壺に不死鳥の灰はなく、プティクスもない」ものと思われますが、漱石はこれについて広田先生の口を借り、サー・トーマス・ブラウンの『壺葬論』を引用しました。
(※この人はポオやボルヘスに引用されたこともあって、『モルグ街の殺人』のエピグラフ「セイレーンがどんな唄を歌ったか、また、アキレウスが女たちのなかに身を隠したときどんな偽名を使ったかは、たしかに難問だが、まったく推測できぬというわけでもない」もまた、彼の手に成る文章でした。私にとってはオタクライフのとっつきからその名をおみかけしていた、無視できない人物です)

「朽ちざる墓に眠り、伝わる事に生き、知らるる名に残り、しからずば滄桑の変に任せて、後の世に存せんと思う事、昔より人の願なり。この願のかなえるとき、人は天国にあり。去れども真なる信仰の教法に視れば、この願もこの満足も無きが如くにはかなきものなり。生きるとは、再び我に帰るの意にして、再びの我に帰るとは、願にもあらず、望にもあらず、気高き信者の見たる明白あからさまなる事実なれば、聖徒インノセントの墓地に横わるは猶埃及エジプトの砂中に埋まるが如し。常住の吾身を観じ悦べば、六尺の狭きもアドリエーナスの大廟と異なる所あらず。成るがままに成るとのみ覚悟せよ」

「再びの我に帰る」ことができたゆかりちゃんは、やはり自然体です。
無理に大人っぽい表情はしません(ワクワクしてますよね)し、お仕着せの衣裳で本来の性格を隠す必要もありません(ドレスは馴染んでいます)。

「大胆さも自分の強み」と自覚したゆかりちゃんは、きっとお強いですよ。

サプライズテンポ+において"ptyx"にあたるものは「日々のレッスンで磨かれた身体」でありましょう(哀しい哉、人が人である以上それが朽ちゆく地の泡であることは、たとえば黒埼ちとせ嬢も能く知るところです。ところがまた喜ばしい哉、妊娠・出産というおめでたい出来事によって身体の線が崩れてしまうこともあります。前向きな意味でも後ろ向きな意味でも、かくいう私自身例外でなく、無数の泡が出来たり弾けたり、ぷくぷく音を立てているようなものなのでしょう)。
それはコンソール上では宝石箱、こちら側ではゆかりの肩から腰にかけての曲線が描くS字カーブ(Shape)によって、具体的に置き換えられます。
この表現は"nul ptyx"、すなわち「(健全な身体に宿る)健全な精神」や「レッスンで流した汗」などと対になるものであって、彼女の自信こそが宝石の輝きであることや、宝石がただ一粒ではなく理想への歩みの足跡であったことを宣言しているのではないでしょうか。

ちなったんのアドバイスが適切すぎる例(感謝)。

マラルメの見るところによると、その宝石の数は14、すなわち七対の脚韻による七重奏で示されるはずだーーというのが十四行詩の存在理由であって、彼はそこに形式美の極致を見ていたわけです。
さらに、蛇行する足跡(Stepといってもよいのでしょうか)は北斗七星の形をとり、不動の一点であるところの北極星ポラリス=詩の理想そのものを指し示すだろう、というのですね。

乙女は 鏡の底に 果てなんとして、
裸形、揺らめき散る と見る間に、縁の内なる
忘却に 繋ぎ留まった煌めきの 
やがて鮮やかに 極北の七重奏。

マラルメ『彼自身の寓意であるソネ』渡辺守章訳

詩作を通じて名を残すことにこだわる人は稀ではありませんが、その矜持を作中で唱える人は、現代ともなるとラッパーぐらいのような気もします。
しかし『変身物語』のオウィディウスはまさにそういう詩人として読者の前に現れましたし、シェイクスピアの『ソネット集』にも自分の名前を地口に用いたとされるものが混じっていました。
マラルメにとっても、このSは十四行詩Sonnetの押韻から導かれる必然的な七重奏SeptuorのSであると同時に、自分の名前Stéphaneのイニシャルだったのです。

センターライン左をモバゲー版初出、右をデレステ初出でまとめてみました。
アルファベットSを鏡に映すと北斗七星が現れますが
両者が揃うと羽衣や蝶の翅のようにも見えます(びっくり)
この《北斗七星とその鏡像》というモチーフの重要性は、
グラブル9周年イベントのシエテと標神の扱いにも現れていますね。

奇遇なことですが、ゆかりのSSRにも、たびたび彼女の名前やイニシャルYMが登場しています。

[エアリアル・メロディア]+に隠された彼女のイニシャルYM。
(※紫色の補助線は私が書き加えました)

ちなみに法子ちゃんの場合はイニシャルというより「一口かじったドーナツを手に持っている形」であるところのCyが重要な意味を持っているようです。

Cyuについての私の言い分は「アスキーアートできたよ!」みたいな感じですね。
ゆかりの場合におけるYMも、組み合わせかたによっては、
やじろべえや天秤のような形にならなくはありません。

たとえば彼女のソロ曲『プライスレスドーナッCyu♥️』がなぜChuではないのかというと、CyuのCyが既に述べた通りの形象を表し、uはドーナツを頬張る嬉しげな口元を写しているのでしょう。

我ながらスクショ貼りすぎじゃないかとも思うのですが
「Kawaiiぶんには何枚貼ってもええじゃないか」
みたいな開き直った気分でもあったりして

また、CyはCygnusひいては白鳥の騎士とも関わって「白い装いの勇者法子」というイメージを生成した可能性があります。

ゆかりにはゆかりの、法子ちゃんには法子ちゃんの黄金伝説があります。
しかし、もしもこの黄金の腕輪が、黄金の蝶と同じ一箇所にあるとすれば……
その地はまさか《黄金郷》と呼ばれていたりはしないでしょうか?

自分のイニシャルYMではないけれど、法子ちゃんにとってのCyと同じぐらい大事なアルファベット、それがゆかりちゃんにとってのSなのではないかと、私は推測するわけです。
ついでにいえば「YMに続いてSが揃うからには、MYSteryの7文字まであと少し……なのでは?」などと、アルファベットチョコを並べて遊ぶ子供のような他愛のないことも考えてしまっていますけれども、これが外れてMYSTUDY(=水本ゆかり自身の研究)という綴りができたとしても、私は素直にそれを受け入れるでしょう。
この場合、YMだけを見ても把握しうるけれども、Sという字形の内にも隠匿された秘密の内容とは、おそらくーー

「父母未生以前本来の面目は何だか、それを一つ考えて見たら善かろう」

夏目漱石『門』

どこからどう見ても禅問答ですよ、これは……。
水本家に生まれてゆかりという名前をつけてもらうよりもっと昔、父母も生まれていない頃に自分がいたとしても、彼女が彼女である以上それを探し求めることになるような光はどこにあるのかーーそしてそれは、今YMが目指している光と一致しているのか……ということのようなのですが。

水本ゆかりにとっての《七重奏》の予感は、SSR[音色を抱きしめて]+に始まったのではないかと、私は考えます。というのも、ト音記号とM(MizumotoやMusic、Mellow、Marriage、Midnight、Mirage、Memoryなどの頭文字)を組み合わせたそのブローチには、七粒の宝石が輝いているように見えたからです。

ブローチのト音記号からM字の谷に降る箇所を、ご確認ください。
小カラットとはいえ宝石が……おそらくは七粒、ちりばめられています。
この7は音階(ドレミファソラシ/CDEFGAB/はにほへといろ)に由来するものでしょう。
アイドルが宝石であり、宝石は音符であるとすれば…

私はこのブローチを《ゆかりが現在の自分と過去の自分を再構成できた証》とみなしているのですが、この発想はもうひとつ、《現在の自分と未来の自分を再構成できた証》の存在を示唆しているようにも思われます。

それはおそらく、ステージ上の彼女の目には入らないけれど我々には見えるかもしれない場所ーーたとえば背中や後頭部に隠されていると予測することも、あながち不可能ではないでしょう。

もっと拡大できればいいのですが……ううむ。

そういえばゆかり自身も、[音色を抱きしめて]のルーム台詞で、電車の音を「過去と未来が溶け合うリズム」と表現していました。

Rêve Purにおいてゆかりが目撃したSは、紗枝はんの頭文字Sであり、Secret MirageのSであり、花やお香の匂いがたなびく一筋の線であり、もしかしたらバイオリンの胴が描くラインでもあったでしょう。最近のネットミームでいうと、もしかしたら百合太極図というのもその範疇に収まるかもしれません。
では、紗枝はんとの共演ではないソロの仕事において、Sはゆかりにとっての何を意味するのでしょうか?

SR[サプライズ・テンポ]においては、まずSurpriseのSShapeのSなのかな、というのが私の見るところです。特訓前のイラストは降りだしたにわか雨(Shower)を避けようとして偶然Pとぶつかった驚きを切り取った一場面ですし、特訓後はレッスンで鍛えた身体の線に焦点が当たっています。

「見入る」ことは[サプライズ・テンポ]+の出現条件なのかもしれません

ところが、この発想を元にしてゆかりのモバゲー版SR特訓前を並べてみると、さらに大きな一枚の絵が、ぼんやり見えてくるのです。
それらのSRで描かれたゆかりは、ソファでお昼寝したり(Sofa,Sleep,Siesta)舞台で足をぶらぶらさせたり(Stage,Swing)、笑顔で床磨きのお掃除をしたり(Smile,Scrab,Sweep)、おうどんを啜ったり(Slurp)、泳いだり(Swim)、雑貨店でお買い物(Sundries,Shopping)をしたり、向日葵畑で歌ったり(Sunflower,Sing)、初めての甘酒をみんなで楽しんだり(Sake,Share)しています。
つまり、「驚く」以外にもS字と縁がありそうな生活風景の数々を確認できるわけです。

この場面では星花さんが「Pから見るとシュール(Surre)」と指摘してくれます。
Pさん次第で、他にもいろんなSがみつけられそうですね。
しかしなんなのでしょう、この褒めてオーラは…(kawaii)

そこで私が立てた仮説は【ゆかりにとってのSは、彼女がPとともに歩んできた曲がりくねった道筋そのものだ】というものでした。
『すべてがFになる』というミステリ作品がありますが、ゆかりちゃんの場合は「すべてがSになる」といったところでしょうか。SFだとレイ・ブラッドベリに『スは宇宙スペースのス(S is for space)』という短編集がありますね。ゆかりちゃんの場合も、一枚一枚のカードが集まって、たった一冊しかない彼女のための本になっているのかもしれません。

Rに背景イラストはありませんが、それでもSが登場することもあります

迷える子羊Stray sheepもまた、ゆかりや三四郎が目撃したSのひとつでした。この羊がたどる道をシンデレラのお城の中のものとみればStairwayになり、船旅とみればSaillingとなり、一冊の本にたとえた場合Storyになるでしょう。
その日々が輝やいてShine、彼女の自信に繋がっているのでしょうか。だとしたら、私にはとても嬉しいことです。

ゆかりのStairwayといえばこの一枚、SR[クラシカルハーモニー]。

あるいは音楽に関する用語を持ち出して、ScoreのSであるとか、SymphonyのSとか、Standing ovationのSとか言ってもよいでしょうし、果てはS字が指揮棒の描く軌跡であると言われても、なんとなく納得させられてしまうでしょう。ひいては蝶がふわりと飛んで、その行路に鱗粉が舞うのかもわかりません。
もしもそれらの解釈が共通して成立しうるトポスがあるとすれば、私はそこを思いきって音楽の生まれるところと言い換えたいのです。

ある偶然性Serendipityの下で、それは白鳥の歌と関わっています。つまり、白鳥乙女の羽衣がS字に曲がった松の枝に掛かっているなら、その時、乙女は裸で水浴びをしていることになるのですね。
マラルメ風にいえば「乙女は 鏡の底に 果てなんとして、裸形、揺らめき散る」のですが、ゆかりの場合はSR[初春の慶び]特訓前の着物に金糸で刺繍された青海波や、特訓後の衣裳に描かれた松、鶴、菊水といった柄が、彼女の受け継いだ伝統を象徴しています。

ありがとうLAWSONプリント……!

そしてまた別の偶然性Serendipityの下で、それはペガサスの蹄の跡から湧いたムーサイのSpringを源としているのでしょう。これまた奇遇なことに、アイドルマスターシンデレラガールズのシンボルマークにも、ペガサスは現れます。
そういえば、ペガサスと同じくメドゥーサから生まれたとされる存在に、黄金の剣を持つクリュサオルというのがおりまして、もしも状況が異なれば、ゆかりは黄金の蝶ではなく黄金の剣と縁を結んでいたかもしれません(もしも「S字を描く黄金の剣ってなーんだ?」とクイズを出されることがあるとしたら、私はドヤ顔で「雷」と答えることでしょう)。

「ペガサスをみるたびに5セントもらってたら、今頃大金持ちだぜ!」


シンデレラガールズのペガサスもゆかりの黄金蝶も、琴歌さんやSonoritiaの蝶のような写実的なものではなく、どちらかといえばSSRクラリスさんのものに近い、理想化された抽象的なデザインでした。
……ここでようやく、私は振り出しに戻って、この黄金蝶の謎を解く鍵をみつけることができた気がします。例によって14項目で箇条書きしてみるとーー


1,金糸で縫いとられた蝶のデザインは、「黄金の蝶」を意味する。
2,黄金の蝶は、渦巻く気流に全体を取り巻かれて、物に固定されていない。
3,つまり、この蝶はまだ、ピンで留められて標本になったことがない。
4,標本になっていないからには図鑑に載っておらず、学名もない。架空のものかもしれない。
5,ただし、この蝶自体に超自然の力はなく、捕らえようと思えば捕らえることができるはずである。
6,にもかかわらず、蝶が今まで捕獲されなかった理由は、それが未踏の地にのみ生息しているからである。
7,「すべてが黄金でできている」と噂される、人跡未踏の土地がある。
8,その地は黄金郷、エルドラドと呼ばれる。
  そこではごく普通の蝶までが黄金色に輝いている。
9,ゆかり自身は、エルドラドがどこにあるのかをまだ知らない。
10,ゆかりは黄金の蝶をみかけた時、初めてそこがエルドラドであることに気付くだろう。
11,[サプライズテンポ]+の鏡に、黄金蝶は映っていない。
12,ただし、[サプライズテンポ]+を目撃したPの瞳には黄金蝶がいる。
13,後ろを振り返ったゆかりは、Pと視線を合わせる。
14,ゆかりはとうとう、ここがエルドラドなのだと気付く。

ちなみに、私が感想に選ぶ一語は"Suitable."です。

冒頭、「この黄金蝶はエルドラドの蝶で、それを目撃した者もそこにいる」と私が書いた根拠は、以上の通りです。
そして「サプライズ・テンポ」とは、目と目があった瞬間に高鳴る胸の鼓動のことを言っているのかもしれないなと、私は思うのでした。

一本道のはずだったランウェイは
最初のNと最後のSRがつながることで
まーるいお月様やドーナツにも見えるのです🍩

一見すると直線Straightという形しかとれないように思われるランウェイが、実は高低差を見ると山あり谷ありの起伏に富んだ道行きで、もっと全体を視野に収めようとするなら、端と端が繋がって円や輪っかにも見えてくるーーそれこそが私が目撃した彼女のステージでした。

ノリとしてはこんな感じです
(稀にものすごくメタいですねゆかりちゃんは…)

その上で「これから」のゆかりちゃんは、この輪をさらにあやとりの紐のようにして、いろんな宇宙をあたらしく描き出してくれるに違いないと、私は期待しているのです。

四角いはずの《額縁》をハート型に変えても、不自然さを感じさせないような世界。
それもやっぱり「ゆかりちゃんみたい」だなー…と、私は思いました。

……そういえば、ちょうちょはあやとりの初歩的な技で、他に天の川なんかも作れたような記憶がぼんやりあります。これは偶然なのでしょうか?

誰にともなく問いかけつつ、今回もやはりあてどない感じの考察は、ここでお開きにしたいと思います。ご読了ありがとうございました!(了)