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黎の軌跡Ⅱクリア後感想①~失楽園で果たす贖罪とは~

 日本ファルコムが送る、大人気ストーリーRPG《軌跡シリーズ》の最新作、《英雄伝説 黎の軌跡Ⅱ -CRIMSON SiN-》。
 共和国編第二作であり、裏解決屋ヴァンに巻き起こるさらなる激動が予測される物語。この文章を書いている10月20日頃、無料DLCも含めクリアすることができました。

 一年前、《黎の軌跡発売前考察》《黎の軌跡クリア後感想》などと称してあることないこと色々語りました。今回は黎の軌跡の直接の続編で新規登場人物も少なく、発売前後の考察や感想含め、心理描写に関して大きく変わった妄想はありません。しかし体験したストーリー。解き明かされ、ばらまかれた伏線。そういったものを前にして、やはり考察厨として筆を動かさずにはいられなかったのです。

 本稿は《英雄伝説 黎の軌跡Ⅱ -CRIMSON SiN-》について、自由にプレイ後の感想や考察を書いていったものの前半になります。駄文ですし、黎の軌跡Ⅱを含めた軌跡シリーズのネタバレが全開ですのでご注意が必要ですが、よろしくお願いします。

1.発売前の考察などなど

 今回、諸事情などもあって本当は書きたかった発売前考察を書けなかったのですが、一応少なからず予想などはしていました。せっかくの機会なので、簡単に羅列していこうと思います。
 え、発売後の予想なんてずるいって? 私の手元には赤い原型導力器が、頭上には半透明の赤い美少女AIがいるのだ……!

・変わらずテーマで有り続ける悪夢。
 →PV時点の描写からも、悪夢=IF世界なのかなぁ……。

・PVの描写からも、すーなーって別離するんじゃない?
 →だって3時(東)と9時(西)になってるから……。

・罪《キセキ》って、七つの大罪とは違うよな?
 →ゲネシスは8つだし、なぜか軌跡シリーズでクローズアップされる7(七の至宝・七耀・Ⅶ組)と違い、他のゲネシスの現象も大罪とは違う気がする……。

・黎Ⅱのタイトルロゴについて。
 →黎Ⅰの色合いは純粋に「あおぐろさ」が全面に出ています(深夜黎明)。対し、黎Ⅱは《Ⅱ》に由来する文字や背景ロゴが「あかぐろい」一方、《黎の軌跡》そのものは「しろい」んだよな……(黎明→朝やけの白?)

2.執筆時のクリア時状況

・ナイトメアにて1周クリア、イベントのみ見るために2週目クリア
・お伽の庭城のボスも討伐済
・4spgは全て達成、ランクは最終評価でAAA。
・会話マラソンは主要人物を中心に8割くらい
・コネクトは3ヒロイン(アニエレシズ)・すーなーを優先的に
・でも面白かったのはルネとカトルのコネクト……!
・映画・雑誌は全てコレクター済み。

3.考察の指針

 黎Ⅱをプレイした方はご存知だと思いますが、今回のストーリーラインは「第8のゲネシス」を主軸とし、それと展開的に絡みつつも、個人の心の変化は別個で動いています。例えば「グレンデル・ゾルガの正体」を解き明かすにあたって主要人物の葛藤は(少なくとも今作で明らかになった部分では)直接に絡まず、利用される過程で幾人かの葛藤が描かれている。
 よって、

①(本稿)幾人かの人物の正体と絡めた考察

・カトル・サリシオン
・フェリーダ・アルファイド
・レン・ブライト
・ツァオ・リー
・イクス&ヨルダ

②(後編)伏線や展開、謎などの考察

・《もろびとこぞりて》
・終わりの聖女
・宇宙軍とハミルトン博士
・原型導力器がもたらす物語の抑揚
・タイムリープの時間と認識について
・原型導力器がもたらす罪の観測

 あたりに焦点を当てて好き勝手に語っていきたいと思います。

4.天使と偶像~カトル・サリシオン~

 黎Ⅰを終えた際の感想考察で、筆者はこのような考えを持っていました。

「カトルの正体は恐らく『男か? 女か?』に関わる。けれどその色はカトル自身が決められる」

 黎Ⅱで明かされた彼の半生。D∴G教団内の男女の間に生まれ、神を降ろす器である天使として扱われた。
 自分の考察やファンの間での考察と大きな違いはなかったように思います。
 結論から言えばカトルは男であり女であった。成長過程で「僕」と自称し「男湯」に入り、素敵な女性に頬を赤らめるようになっても、「男であり女である」以上は女性性を消し切ることはできないのだと思います。
 黎Ⅰの発売後考察をセルフオマージュするなら、『僕は男と女の体を持っていて、今は男だと自己認識していて、女を恋愛対象として見ていて、だから男としての権利を求める』といったところでしょうか。

 自分のアイデンティティが他者のそれと圧倒的に異なると不安を覚えるのは、本編のストーリー特に断章を見れば明らか。その上で仲間たちに知られるという辛い体験を経たカトル。
 でも、ハミルトン一門や裏解決屋、自分を許容してくれ、また頼れる存在ができた。ネメス島の一件以降、カトルは自分の殻を破れたように思えます。
 片一方どちらかではなく、両方を受け入れる、あるいは追い求める。まだまだ「自分は何者か」で悩んでる仲間たちを、導力技術のみならずその精神性で支えていってほしいものです。

追伸。
 科学少女カトレアとは、恐れいったぜ……。危うく筆者の中の何かが音をたてて崩れ落ちるところだったよ。終章、余ったコネクトポイント1つを裏解決屋初期メンバーの誰に当てるか、直感でカトルを選んだ俺の判断は正しかったのだ……!
 とりあえずファンの中に「君のせいで俺は……俺は普通だったのに……君のせいで大変なんだから……」という人が現れないことを願います。今日も頑張れ、科学少女カトレア!☆

かとれあかわいい

5.焔の色は何色か?~フェリーダ・アルファイド~

 第Ⅱ部でヴァンたちと合流してから、終始何か迷いを抱えていたフェリ。それはクルガの使命──巫女に込められたものによる迷いだった。
 同時に、猟兵として生きてきた少女が大事なもの──アイーダを自らの手で殺すことを命じられ、そこで初めて黎Ⅰにおける彼女の模索の道が始まった。あまり意識はしていませんでしたが、黎Ⅱ第三部のイベントを見てハッとさせられたものです。
 (恐らく)クルガとノルドが同じ血脈であるという情報や、そして何か大きな使命が里全体にあるという伏線になりそうな情報もあります。フェリ自身どこまで理解できているのか……というのはプレイヤーにはわかりません。しかし、巫女としての使命と責任・猟兵としての使命と責任に彼女が押しつぶされそうだった、というのは当たらずとも遠からずではないでしょうか。

 年齢についても外すことはできません。クルガの里は14歳で成人とみなされる……ちょうど成人となるわずか半年程度前に、クレイユで姉殺しを迫られたフェリの精神は筆舌しがたいものがあった。
 思えば、フェリを黎Ⅰ考察で「立場として何者か揺れる人間」に該当する、と言った筆者ですが、そこに新たな見解を加えることになりました。
 まず、身体が成熟する前の状態で成人とみなされる重責。そして里全体で猟兵という生き方が(例え高潔な精神であっても)目に入る環境。東ゼムリアという過酷な環境に近い場所で育った背景。加えて、そうした生き方を当たり前とすることができず、共和国という多様な価値観がぶつかるカルバード共和国に来たこと。
 原始的な価値観で閉鎖されていれば考える必要のなかった価値観を、迷わされる状態になったのです(そりゃ猟兵だから色々な場所には行ってるだろうけどね?)。成人一歩手前でありながら、子供として見られるのもジレンマだったのかも知れない。

 今回、フェリはある種の自身の罪と向き合うことになった。それらはほかならないアイーダの残滓と仲間たちによって、乗り越えるきっかけを得ることができました。成人となり、使命の重みを知ったフェリは、2作をかけてようやく立ち向かう力を得た。きっとこれからは仲間から学ぶばかりではなく、得た力と経験を仲間たちのために振るってくれといいな、と思います。時に激しく、時に優しく、様々な色に変わる焔として。

ふぇりかわいい

6.楽園の終わる時~レン・ブライト~

 物語を終えて、黎Ⅱで成し遂げたことには、以降の作品で取り上げきれない、けれど取り上げなければならない軌跡シリーズの要衝を解きほぐしたもののように感じています。
 それは黎Ⅰの直後であるための8つ目のゲネシスに始まり、カトルの正体、アルマータの残り香、《庭園》の残党であるイクスとヨルダ、後述するツァオ。そしてレンと《楽園》もその要だったのではないでしょうか。
 今作にて明らかとなった、D∴G教団、わけても最低最悪のロッジだった《楽園》。破戒のオッサンが島をおまるごと買い取ったことも、楽園が島にあったことも仰天でした。

 レン自身については、その半生は軌跡の全作品を通して描かれているので、この場で大きく語ることもないと思います。本人も執行者時代からエステルに絆され、そしてクロスベルの故郷でロイドに岩を取り除いてもらい、リィンたちの手助けをするまでの過程。その中でヘイワース家とも別の形の絆を作れた。新たにできた関係性と新たな関係を守るために行動するレン・ブライトは、プレイヤーと同じく軌跡の目撃者なのかもしれません。
 そんなレンでも、凶悪で冷や汗をかく過去の出来事を前にして平静でいられるはずがない。理解できて歩み寄れたとしても、もう一度出会いたくないからトラウマなわけでしょうし。

 軌跡の目撃者であるレンが、作品世界ゼムリア大陸全体に蔓延るトラウマ──D∴G教団の一つのロッジに踏み入れ、それを乗り越えた事実。それはカルバード編を見ても明らかなように、登場人物も、プレイヤーも、製作者ファルコムですら、ここから先は別種の喜劇や試練や困難を目撃することになるということでしょうか。
 D∴Gがいたから、クロスベルの闇が生まれ、レニからレンが生まれ、ティオが特務支援課に入り、エンネアが鋼の聖女の下へたどり着くきっかけを作った。カトルがハミルトン博士の下へ行き、ヴァンが裏解決屋となる遠因となった。そんな、諸悪の根源としての役割も終わりに来ているのではないか。

 なぜなら、『帝国と共和国の争い』に端を発する物語は閃シリーズで終わり、『教団の悪夢』も黎2作で(恐らく)概ね描かれ……そして黎2作の物語の端々に、『世界そのもの』の謎や『東の歴史』による闇が見えているからです。ヴァンの正体しかり、アーロンと大君しかり、フェリの使命然り。今作では触れられなかったイスカ神聖皇国や九耀衆、東の大地の不毛化然り。
 何も知らなかったレン・プレイヤー・製作者たちは、西の物語を経てゼムリア大陸に対し無知ではなくなった。その代わりに、得た知識によってたくさんのいいことも悪いことも考えることができるようになりました。
 最低最悪な《楽園》を抜け出した先は、現実が、最高最良な《煉獄》が待っているのかもしれません。

7.再興の野望とこれから~ツァオ・リー~

随分とおいしいとこかっさらっていきやがったな眼鏡!

零の軌跡から登場し、ずっと共和国の流儀(敵味方が曖昧な世界観)を演じてきたツァオ。黎Ⅱで、初めて彼の野望の一旦が暴かれたのではないかと思います。
 クロスベル──西側の権力を掌握しつつ、元々長老家であったリー家を再興する。それは一見して単純な成り上がりですが、創の軌跡までの物語と黎Ⅰで描かれたルウ家との繋がりがあって初めてできたことなのでしょう。

そんなこんなで弟ガウランも引き入れ、新たに長老家に連なったツァオ。気になるのは、彼本来の野望と、そして「黒月の一角となった彼が、新しく何を望むのか?」ということです。
 黒月のことも東側のこともほとんど知らない以上、プレイヤーにこれ以上彼の野望を推論する余地はない……だとしても、黒月が共和国シンジケートのトップであり、東方に由来する組織である以上、ツァオは物語上の役目を終えたわけではなく、まだまだその辣腕を発揮する機会はあると思います。しかし、その時ツァオが主人公の敵なのか味方なのかはわからない。
 まだまだ、ツァオには腹黒としていてほしい。そんなことを思った、煌都動乱編でした。

8.蠱毒≒相克の果て~イクス&ヨルダ~

閃あたりから相手もリンクを繋いだりしたけど、Wエスクラは予想外でした……

 黎Ⅱにおける数少ない完全新規キャラクターである《洸弾のイクス》と《影喰みのヨルダ》。彼らの素性は最低最悪の教団の子、《四の庭園》の最後の生き残りの双子。
 ただの1作で超絶悪役として傷跡を残した棘のメルキオルが、庭園に残した《最後になるまで殺しあえ》という命令によって生まれた超絶危険双子。しかも、そのまま破戒によって執行者にさえなってしまった。
 今回の物語としては、二人の役割は顔見せ程度のものでしかありません。他にはレンの項目で話したように、教団や庭園の残り香、3と9の対比としての意味もあったと思います。しかしカルバード旧王家の血筋を持ち、反応兵器の起爆剤でもあり、執行者でもある。登場した以上は、今後も何かしら物語を引っ掻き回してくれるのでしょう。

 イクスとヨルダの《最後の殺し合い》の経歴を聴いて、アーロンだか誰かも《蠱毒》を思い浮かべていたと思います。蠱毒に似ているということで、閃シリーズの《相克》を思い出すことになりました。
 相克の方は敗者側の能力が勝者に移るというシステマチックなもので、庭園の場合は(後々新事実が明らかにならなければ)単なる精神的なものではあります。ですが、ただでさえ凶悪な庭園のメンバーの中で殺し合い、そうして生き残ってしまった最後の双子の精神性はさらにヤバイところまで煮詰まっているので、どんな毒をばらまくのかなぁ……と戦々恐々してしまいます。
 また、洸弾と影というそれぞれ質の違う異能を持っていますが、彼らは血筋的には単なる王家の人間というだけなので、それがD∴Gの実験の賜物なのか、武器による能力なのか、それとも庭園の教育の結果なのか、はてさて別に原因があるのか。それも気になるところではありますね。

 以降は後編です。キャラクターについてではなく物語の伏線について、語っていきたいと思います。


記事を最後までお読みいただきありがとうございます。 創作分析や経験談を問わず、何か誰かの糧とできるような「生きた物語」を話せればと思います。これからも、読んでいただけると嬉しいです。