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世間の当たり前を受け入れることは、自分に向かない道を歩くことなのかもしれない

最初から違和感には気付いていた。ただそれが何の違和感なのよくかわからなかったのだ。

あれは数週間前のこと。

アメリカの語学学校時代に知り合った古い友人、大林がギターを始めたというので、俺は教えてやろうか?と少しマウント気味に言ってみたのである。なぜなら俺はギタリストだからだ。それも自己顕示欲バリバリのメタル・ギタリストだからだ。

助かる!そう言って喜ぶ大林の隣でもう一人の友人、山上はぎゅっと眉を寄せた。どうしたの?と聞けば、口をとがらせながらこう言った。

「お前さ、俺がギターを始めたときにはそういうこと言わなかったよね?」

「というか俺がうまく弾けないから助けてくれって言ったときにさ、お前は断ったよね?」

そんなことあったっけ?

「あっただろ!3年前のお正月!!!」

山上が曰く、ある年の正月に彼は電話で俺に「ギターをはじめて何週間もたったのにFコードが押さえられない」と泣き言をいったらしい。すると俺は、Fコードくらい普通は10分だろ?やりかた間違ってんじゃない?などと言ってあいつをバカにした挙句、だったら教えてくれと頭を下げる山上に対して忙しいから無理!と言って勢いよく電話を切ったのだという。

ひどいな。

まったく覚えていない。

でもやりかねないな、とは思った。

だって山上ってさ、言われたとおりにできないんだもん。これまでにスノボ、パソ関係いろいろ、バーベル・トレーニング、英会話などなど、こっちががんばって色々教えても、それよりもこのやり方の方が良くない?こっちの方が簡単じゃない?その言い方には賛同できない!などと言っては、ミリ単位で厳密に設計された俺のレクチャーに水を差しまくってきた経歴があるのだ。

言いたかないが、学ぶ態度が根本から間違っている人間のために割く時間など、俺は持ち合わせていないのだ。

記憶にないなあと俺は白を切り、そして結局流れで大林だけではなく山上にもギターを教えることになってしまった。山上は最後までしつこく古い話を蒸し返していたが、俺は「お前のそういうところが駄目なんだよ!」とは言わなかった。もっと面倒くさいことになるのは目に見えていたからだ。

そんなこんなでとにかく俺たちおっさん三人組は週に一回、ビデオ会議で集まってギターを弾くことになった。俺が先生で大林と山上が生徒だ。

山上にはあらかじめ、面倒くさいことを言いはじめたら速攻でグループから追い出すからな!と念を押した。しぶしぶとうなずく姿を見て俺は無性に腹が立ったが、今回は大林も一緒だから少しは自制が効くだろう、と希望的観測で自分を納得させたのだった。まあ後でこの決断は後悔することになるのだが。

ところでだが、俺のギターの腕はどの程度だと思われるだろうか。

白状すると、はっきりいってしょぼちんだ。ぜんぜん大したことない。中学で弾き始めて高校2年くらいまでは本気で取り組んだのだが、それっきり。

今では宅録でたまにギターケースから取り出すくらいで、普段はぜんぜん触らない。触りたいとも思わない。言ってみればペーパー・ギタリストだ。

え、そんなんで他人に教えられるのかって?

余裕だ。だって大林は始めて3カ月ぐらいだというし、山上も合計で3ヵ月も弾いていないはずだから(本人が以前そんなことを言っていた)。つまりどちらも超・超・超初心者なのだ。中級の下を自称する俺にしてみれば楽勝である。

さてさて、話もどって、とある月曜日の夜8時、俺たちはそれぞれギターを持ってパソの前に集まり、そしてビデオをオンにした。

初回のレッスンは平穏無事に終わったといって良いだろう。

流れはこうだ。俺が用意した課題を説明し、例を弾いて見せ、その場で順番に挑戦させ、いくつかアドバイスをする。そして質問があれば答える。終わったら次の課題に移る。最後に次回までの宿題を与える。そしてお開き。

普通の流れ過ぎて問題など起こりようがないでしょ?そして実際、何も起こらなかった。少なくとも俺の頭はそう判断した。

だがしかし、今思えば俺の潜在意識はすでにこのときから警報を鳴らしていたのだ。これといって指はさせないのだが、レクチャー中、ずっ気持ちの悪い違和感を俺は抱いていたのである。

それが見逃せない形として現れたのは、レッスンをはじめて3回目の月曜日、つまりこれを書いている二日前のことだった。

俺たちはいつも通りパソの前に集まり、俺はいつも通り偉そうに喋りはじめた。

「先週出した指板を覚える課題、調子はどう?どこらへんまで覚えた?」

俺は二人に質問した。

「ぜんぜん無理。あんなもん覚えられる気がしない」

不満そうな声で山上が先に答えた。期待通りの返事に俺はほくそ笑んだ。それはそうだろう。覚える箇所は130個以上、俺だって暗記するのに何年もかかったのだ。一週間でどうこうなってしまったら逆に困るぜベイビー。

似たり寄ったりの答えを期待しながら俺は大林はどう?と聞いてみた。すると奴の口からは意外な言葉が返ってきたのである。

「あ、あれ?もうぜんぶ覚えたよ」

俺は数秒無言になり、コードの課題じゃなくて指板の音を覚える方の課題なんだけど?と念を押してみた。

「うん。けっこう完璧に覚えられた気がする」

ええええ、ふざけんじゃねえよ!俺の頭の中で怒りのデスメタル・ボイスが響き渡った。だっておかしいだろ。

はっきり言わせてもらうけどね、俺はギターをはじめて何十年もたつけれど、最初の数十年なんて指板の音、ひとつもわからんかったぞ!!!ほんの数年前にやっと重い腰を上げて覚え始めたけどさ、要はいろんなアプリを使ってやっと8割方覚えたけどさ、いまだにぜんぜん完璧じゃねえぞ!!!それを始めて三カ月の男が完璧に覚えただと?!嘘こくんじゃねえ!!!

もちろん声には出さなかった。だがそれが俺の本音だった。物理的に有り得ない。そんなやつ見たことない。嘘に決まってる。だからテストしてみた。

俺「じゃあテストするよ。パッと答えてね」

山上「俺も?」

俺「お前はすっこんでろ」

山上「おまっ」

俺「大林いくよ?6弦7フレット」

大林「B」

俺「3弦19フレット」

大林「D」

俺「2弦7フレット」

大林「Fシャープ」

俺はCDEFGと口ずさみながら自分のギターで指板を必死に数えた。その結果は、すべて正解であった。

俺は即座に理解した。得体のしれない違和感の正体はずばり、大林の並外れた才能だったのである。

要は俺、山上って本当にどんくせえなと思っていたのだけれど、そしてまあそれはある意味で真実なのだけれど、山上が極度にどんくさいというよりはむしろ一緒に練習をしていた大林が凄すぎたのである。

コードを教えればその場で弾けちゃうし、スケールを教えればその場で覚えちゃうし、フレーズを教えればその場で完コピしちゃうし、音楽理論も一発で理解しちゃうしで、よくよく考えてみたら、とてもじゃないがギターに触って3ヵ月という感じではなかったのだ。そんなやつ見たことない!(幼少のころにピアノをやっていたと後で聞いた)

それだけじゃない。今思えば違和感の元凶は他にもあった。

弾くときに手元をビデオで結構ドアップに映してもらうのだけれど、俺や山上の手がまるで芽が生え散らかしたジャガイモなのに対して、大林の手は雑誌やテレビで見るいわゆるプロのギタリストのそれだったのだ。

要は指が長くてスラーっとしてるやつ。そんでバタバタと無駄に暴れないやつ。

そして俺はその時、大変重要なことに気が付いたのです。

それはこれだ。

人には向き不向きがある!!!

はっきり言って大林はこの調子でどんどん上達していくのだろう。そして半年も経たないうちに俺を知識的にも技術的にも追い抜いていくのである。もうそれ確実。

なぜか。

それは大林がギターに向いているから。

一方、山上の方はというと、俺と同じく何年やってもしょぼちんで終わる確率大だ。まあ1日8時間の練習を5年とかやれば違う未来も絶対に訪れないとは言わないが、少なくともこのペースでいったら120%ダメだろう。

なぜか。

それはジャガイモの俺たちはそもそもギターに向いていないから。

ジャガイモが「指が届かねえ!」「手が破れる!」などと言いながら鼻の穴を膨らませて弾くフレーズを、大林はまるで軽井沢のコテージで紅茶を飲む貴婦人の笑顔のように奏でてしまうのだ。

差は歴然である。

向き不向き。考えてみれば簡単な話であった。俺は何十年も気付かなかったけど。

別の言い方をすれば、大林は体質的にも知能的にもジャガイモとは違う次元の世界に生きているということだ。少なくともギターに関しては。

そしてだ、これ非常に重要だからよく聞いて欲しいのだけれど、これってさこれってさ、俺たちのビジネスでも全く同じことがいえると思わねえか?

向き不向き。

俺は強く思うぞ。

解説しよう。

例えばだ、SEO記事を量産することが重要だと学び、そればっかりずっとやっている自営業者がおるけれど、本当にあなたはそれで日本トップレベルの記事を書けると思っているのだろうか。

要は検索結果の1ページ目に登場するような選りすぐりのトップ記事を、本気で、何年も、ずっと量産し続けられるのだろうか?もしかしてそういう特異体質持っていらっしゃるのだろうか?

俺は無理。そんなのとっくにあきらめた。

制御不能の不特定要素があまりにも多すぎるし、そもそも俺は書く分野でもSEOでも、自分が日本のトップ10に入れる理由が1ミリも思いつかねえからさ。全てを投げ出して必死こけば、もしかしたら0.0001%の確率で達成できるかもしれないけれど、はっきり言ってそんな時間ねえぜ。あなたはどうよ?

あとはYouTubeも同じ。買ってきた本やネットで拾ったノウハウ通りにやるだけで、あなたもさっきの大林みたいにサクサクと頭角を現しちゃうタイプなのだろうか。

要は他の仕事もやりながら、YouTubeだけに集中して取り組んでるやつらと同じレベルのビデオをじゃぶじゃぶ量産できちゃうような、そんな異能力の持ち主なのだろうか。

あるいは大好きなYouTuberのやり方を1から10まで真似するだけで、きっちり同じ結果が得られちゃうラッキーな体質の持ち主なのだろうか。

普通は無理だろ。少なくとも俺は不可。理由は同じ。世間で学べるやり方が自分にまったく合わないから。要は向いてないから。努力するにしても過剰な時間がかかって効率が悪すぎる。

あとはSNSもメルマガも顧客対応も発送業務もぜんぶ同じだぜ。みんながやってる「正しいやり方」をそのままがんばって模倣すれば、どういうわけか自分だけがその他大勢をまんまと出し抜くことができちゃう!そう本気で思っていらっしゃるのだろうか。

もっと言うと、そもそも自営業が自分に向いているか否かという究極の問題を、あなたは真剣に自問自答したことはあるだろうか

要はすべての責任を自分で背負ったり、出る杭になるために周りと違うことをわざわざ厳選して実践したり、なにもない所にゼロから道を切り開いたり......といった非常に辛く厳しい作業を毎日続けるよりは、与えられた仕事を何も考えずにきっちりこなすことの方が断然得意な人はいるわけだろ?

あなたは本当はどっちなの?自営業に向いてんの?向いてないの?これは重要な質問だと思うぜ。

要は雇われるのが嫌だ!って気持ちだけで自営業を始めてもさ、そもそも向いてなかったら地獄だからね。

要は本来なら自分の頭で考えなきゃダメなところで他人の猿真似をしたり、一攫千金系のノウハウに溺れたり、口のうまいコンサルにひと財産むしり取られたり、俺はそういう人を何人も見てきたけどさ、向いてない人間はそういうことをずっとやり続けちゃうんだよ。何年も何年もさ。そして残るのはでっかい借金だけ。悲しすぎない?

向いているのか、向いていないのか。

その分野、そのやり方、そのノウハウ、その教材は、本当にあなたに合っているのか。

同じ努力で結果が10倍とか100倍とか出ちゃう他の内容が、そして他のやり方が、別のところに存在するのではないか。

これは本当によく考えるべき問題だぜ。

世間の当たり前や常識、そして流行を何も考えずに受け入れちまうと、自分にぜんぜん向いていない道を歩くことになっちまうからさ。

そして、汗水たらして的外れなことをし続けるジャガイモなんて、ただの喜劇だからさ。

オッケー?

まとめ:

  • 何年やっても駄目なら、恐らくそれは向いていない

  • 苦しみから逃れたいなら、まずは自分に向いている場所、そして自分に向いているやり方をを探せ

  • 常識や流行りに惑わされるな

追伸:

趣味に関してとやかく言うつもりはないし、言う権利もないこたわかっている。

俺はジャガイモだが、今後もときどきギターを弾くだろうし、思い出したように教則本を開くかもしれない。ジャガイモにはジャガイモなりの楽しみ方があるのだ。

でも金を稼いで家族を幸せにしたいと考えるなら別の視点もあるぜ!という話だ。限られたリソースで、なおかつ最短で、家族のために成功したいと願うなら、ぜひ自分に向いた場所、自分に向いたやり方を見つけ出してくれ。

応援してるぜ!


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