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【新感覚小説】夢、みたい。(③最終回)

【あらすじ】
「昨日見た夢を覚えていない」という現象は、実は漠の仕業。
漠というと鼻が長く少し怖い印象を受けるが、そんな姿は誰かの想像上の形で。
実際の漠はあなたの友達…かもしれない。
信じられないような現実味のない不思議な話。

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悪夢は何味かと、聞かれても困る。

だって、悪夢は悪夢味なのだから。

君だって、『お好み焼きって何味?』と外国人に聞かれたら、『お好み焼き味』としか言えないだろ。

それと同じなんだ。

ただ言えるのは、悪夢は言葉によらず、意外と美味しい。

無味かと思ったのと同時にぼんやりと甘い味がする。

…な?ぼんやり甘い味なんて、例えようがないんだ。

僕しか知らない味。

僕は、特技を活かして、悪夢を食べてあげる事に決めた。

しかし、なかなか友達の口からは"悪夢"という単語は出ないし、僕もなかなか悪夢を見れなかった。

だからといって、いきなり『最近、悪夢見た?』と聞くのは気持ち悪いし、その話題を盛り上げられるようなコミュ力は、特技として持ち合わせてない。

食べてあげたい気持ちはあるのに、全然行動に移せない。

しかし、そんな思い悩み続けたある夜。

悪夢は突然やってきた。

"どこ見回しても真っ暗でお化け屋敷みたいな空間"。

…間違いない。

あの子の悪夢だ。

こんなに真っ暗な夢なんて、あの子くらいしか思いつかない。

早く食べてあげなきゃ。

するすると食べていく。

最後の1口を飲み込もうとした。

『 』。

おかしい。

飲み込めない。

喉の入口を悪夢に通せんぼされているみたいだ。

自分の姿がじわじわと真っ暗になっていく。

まるで自分が、夢に馴染んでいくようだ。

姿の見えないあの子の声が、見えない壁を伝って、伝って、伝って、最後は夢に馴染む僕の耳元ではっきりと聞こえた。

『『起きて。』』


その声と同時に僕は空に飛ばされた。

空も、きっと僕の顔もこれまでに見た事がないくらい真っ青だったと思う。

"本当にこれは夢の中なんだろうか "今まで、夢を見る度に思ってきた。

何度も何度も思ってきた。

ぶわっと飛んで、水に沈んでいくように落ちていく。

ゆっくりとゆっくりと落ちていく。

あの子はどこにもいない。

空しか見えない。

ただ、オレンジ色の朝日がずっと僕のことを見守っていた。

僕は3秒間目を瞑った。

1…2…3『』。

目を開けると、オレンジ色の朝日は白い電球に変わっているし、真っ青だった空は白い天井に変わっている。

『夢…。』

いつも通り学校に行くと、隣の席だったはずのあの子とは別の人が座っていた。

そう言えば、あの子の名前も分からなければ、顔も思い出せない。

まさか、あの子は夢の中の人物だったのか…?

しかし、やっぱり信じられないくらい、リアルなんだ。

僕が今日の朝まで見ていた夢は、僕の夢だったのだろうか、それともあの子の夢だったのだろうか…。

時間が1時間、2時間と経つにつれ、あの子の記憶も分厚く切り取られていく。

…やっぱり、夢だったんだ。

いずれ、この夢を見ていた事も忘れてしまうのだろう。

しかし、あの出来事以降、僕はそんな夢を見る頻度がかなり減った。

もしかして…

『獏に夢を食べられた?』

今日も僕は新しい夢を見る。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
これからの投稿もお楽しみに!

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