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「持家・賃貸論争」をいつまで続けるのか!

■持家・賃貸のメリット・デメリット

 ナンセンスな論争ではありますが「持家か賃貸か」の議論をする際にはそれらのメリット・デメリットから始まります。住宅評論家や住宅メーカー・メディア等が多様な媒体で扱っています。それらをまとめてみると下表のようになります。
 何事にも二面性がありますが、持家・賃貸も同様です。一言で言えば、持家のメリットは老後の居住費軽減と資産です。デメリットはその裏返しとなり、賃貸のメリットは持家のデメリットの解決であり、デメリットはその裏返しです。
 持家はさらにマンションと一戸建てとの比較もされます。これは個々では省略しますがメリットとデメリットが表裏であることは同様です。
 昨今、ライフスタイルや世帯の多様化等に応じて、住宅のあり方、すなわち、所有するか借りるか、何処に住むのか、いつまで住むのか、住宅プランの多様化やその変更等が求められていますし、住宅双六も変化していますので一律にどちらが良い・悪いとは言えない状況にはあります。

<持家・賃貸のメリット・デメリット 

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 コロナ禍以前から、地方への移住、二地域・多地域居住、SOHO、ワーケーション等が話題になり、一定の実例が増加していました。コロナ禍でさらに大都市から地方、都心部から郊外への関心が高まり、その傾向の拡大も期待されましたが、これらの多様な居住形態自体は量的には大きなものにはならないと思います。それでも、地方や郊外そして戸建て住宅等への関心の高まりは良いことですし、新たな需要増大や地方創生にも有用だと思います。
 持家・賃貸の比較は生涯の資金負担額の比較からも行われます。通常は持家の負担である融資返済額と賃貸の場合の家賃とその間の貯金(資金運用含む)の生涯総和の比較になります。融資返済額の方が大きいとの前提ですが、同様の水準の住宅の場合は必ずしもそうだとは限りませんし、景気状況にも左右されます。賃貸料が融資返済額を下回った際にはその差額を貯金したり、運用した場合を想定していますが、実際はそうは上手くいきません。下手すれば運用に失敗するかもしれませんし、貯金もなかなか出来ません。
 この比較議論の一般的な結論は「居住者自身、住宅自体、立地そして景気動向により様々であり、一概には優劣を付け難い。強いて言えば「持家は資産になる可能性があるため有利である」等とされます。

■何故、いつまでも議論になるのか?

 本来、「住宅は資産である」ことが前提ですので、両者の比較自体が成り立たないものであり、持家が有利なことは自明のはずです。それがいつまでも論争になり比較されるのは要するに前提であるはずの「住宅が資産」では無いからです。
 昨今では多大な空家数がようやく一般にも知られて、それが社会問題になってきましたので、例えば、相続した住宅は負の資産(負動産)と認識されるようになりました。もっとも高度成長時代から「土地神話」とは言われてきましたので、住宅という建物自体に資産価値が無いことは潜在意識にはあったはずです。
 一方で、住宅(土地と建物)の内、建物は償却資産だから古くなるほど当然価値が無くなると思いこんでいたため、元々価値が無いが、地価は上昇するため全体として資産価値があると考えてきたのかもしれません。
 考えてみると土地と建物は「一体の不動産」として初めて価値があるので、土地だけが分離して価値があるとするのは不自然ですし、そもそも「住宅という居住空間」は本来償却資産ではありません。住宅を構成する部材、設備等は償却しますので適宜、取り替えたり、補修が必要ですがそれらの集合体である居住空間自体は経年劣化するものでは無いので償却資産ではありません。
 一般の方々は古くなれば劣化して価値が無くなると思いこんでいるようなので、償却資産という概念は無くてもそのような理解をしています。
 戦後しばらくは住宅難の解決が最大の課題であったことは確かでしたので大量供給に傾斜したのは当然ですが、これを何とか凌いだ後、何度か政策転換する機会がありましたが、それを逃して住宅を資産として考えてこなかったことのツケが廻ってきました。

■資産としての住宅づくりへの梶切りを!

 米国は個人の自由を尊重し、個人の権利を出来るだけ阻害しないことが大きな考え方であり、国は個人に極力関与しないことが原則ですが、国民の資産形成については国の大きな責務と任じてきましたし、国民も当然としてきました。その国民の資産形成の手段が持家政策であり、これが「アメリカンドリーム」でした。
 一方、我が国は個人や民間に対して多くの規制等によりコミットしてきましたが、個人の資産形成については関与しないスタンスです。住宅ローン減税は購入負担の軽減、景気対策としてであり、住宅自体の資産化政策ではありません。
 国は国民の安全と生活を守ることが責務ですので、資産形成は本来的には国の重要な責務と考えるべきです。同時に国民自身が住宅を資産として認識すべきであり、国にその責務を実行するように求めるべきです。国民が住宅購入を資産形成と考えることにより、国も関連企業もそれに応じた行動を取ることになるものです。

 住宅の資産化については関連業界人も識者も総論では理解しつつも、現状では無理であると考えているという不思議な状況にあります。それでも、これまで少しずつは性能・機能の向上等による長期優良住宅等に向けての取り組みはしてきました。
 資産化するには住宅が将来に亘って持続的に住みたいと評価されることを意味します。今後、郊外一戸建て住宅地や団地の再生等の課題の解決等の多様な取り組みが同時に必要ですが、まずは将来に亘って定評を得られるデザイン・スタイルが不可欠であり、いわゆる、「ホームプラン集」を作成することが必要です。
 住宅はまだ一定量が供給されていますので、今のうちに資産化を目指したホームプラン集を作っていきたいと思っています。是非、若いチャレンジなぶるな設計者の方々に一緒に取り組んでいただきたいと期待しています。まだまだ、間に合います。
早く「持家・賃貸論争の呪縛」から解き放たれたいものです!




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