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『AXISには往けない』歌詞解説#1

 ZEONIC HARD CORE(以下、ZHC)プロジェクトの第1弾であり、万願寺卍BURNINGにとって初めてのオリジナル曲でもあります。
 まず手探りながらも歌詞を起こさないと始まらなかったんですが、歌詞を作るやり方として、その曲の主人公というかメインテーマとなるようなキャラクター(ジオン軍人)を決めて、作中に出てくるワードを拾って再構成して、その人物を描写するという大まかなスキームを決めました。なので、歌詞に出てくる一つひとつのワードは殆ど作中からの引用となっていて、台詞だったり人名だったりが多いです。後で気が付いたんですが、勝手に観光協会そっくりの作り方になっています。いざ始めてみると、この曲に限らずですが、書き上げるのは1曲1時間もあれば出来ちゃうということがわかりました。まぁ何せ殆ど引用なんで。通勤中とかに電車の中でiPhoneに書きつけていって、着く頃には初稿が上がるという感じです。

 曲はこちらから聴けます。

憎しみの光 ソーラレイ
Exodus マハル 強制疎開
外人部隊に市民権はない
コロニーすらレーザー

シーマ・ガラハウ中佐

 1曲めのメインテーマに置いたのは、シーマ・ガラハウ中佐、『機動戦士ガンダム0083』(以下、0083)に登場したキャラクターですね。それほどマイナーな存在でもなくて、ときどきある人気女性キャラ投票みたいなところでは、今でもそこそこ上位に喰い込むと思うんですが、ロリコンが多いガンダムでは珍しい熟女キャラでもあります(作中の年齢設定は35歳。『機動戦士ガンダム』(以下、ファースト)でのキシリア・ザビ少将の設定が24歳だったことを思えば、シーマ様の35歳は相当な熟女設定と言えるでしょう。そういえば安彦良和のTHE ORIGIN版ではキシリア少将は35歳に上方修正されたので、この辺りが宇宙世紀の熟女上限なんでしょうか)。

 とはいえ、ご存知ない方もいらっしゃると思うんで、簡単に作中のアウトラインを補足しておくと、0083は一年戦争終結から3年後のデラーズ紛争という事件を描いた作品で、ジオン公国軍残党のデラーズ・フリートが、地球連邦軍によって開発を進められていた戦術核搭載ガンダムRX78-GP02サイサリスを強奪し、“星の屑作戦“と呼ぶテロ計画を実行すると、そんな筋立てになっています。

 シーマ・ガラハウ中佐は指揮下のシーマ艦隊とともに戦後は海賊として潜伏していたんですが、デラーズ・フリートの蹶起に呼応して合流、共闘して“星の屑作戦“を進めるはずだったんですが、実は彼女はいわゆる狂言回しで、裏では連邦軍に内通していて、作戦の最終段階で離反してデラーズ・フリートを投降させることで保身を図ることを目論んでいた。ところが指導者エギーユ・デラーズ中将が暗殺されてもデラーズ・フリートは投降に応じず、シーマ中佐は連邦軍との板挟みになり、周囲の状況全てに裏切られ孤立して最後は戦死すると、そういう末路を辿った人物です。

 と、まぁこう書くと狡猾な悪役という印象を当然与えるし、実際作中での描写も露悪的な態度が目立ち、いわゆる毒婦という表現が似合う人物として描かれていますが、彼女が如何にしてこういう悲惨な袋小路に陥っていったかというドラマが恐らくこの曲の主旋律で、一年戦争という人類規模の歴史的事象のなかで、個々人の意志ではどうにもならない巻き込まれ方をしながら、生存を賭けて抗って力尽きた女性の悲劇としてシーマ中佐を描き直してみたいなという、そんな想いで書いた詞だといま気づきました。彼女の露悪的で毒婦めいた表情さえ、自らが犠牲者となることを拒んで、状況から強いられた汚名を敢えて被ることで、それに抗おうとした彼女の闘争の形態だったんじゃないかなと。少し話が先走りましたが、ここからは歌詞に沿って、シーマ・ガラハウという悲劇を読み解いてみようと思います。

マハル

 ソーラレイとは、一年戦争末期の宇宙世紀0079年12月20日に、ア・バオア・クーに侵攻するレビル大将麾下の地球連邦宇宙軍第1大隊に対して使用された、直径6.5kmの巨大レーザー兵器です。同時刻に近傍の宙域にいたアムロ・レイはニュータイプっぽい能力でこれを感得し「あれは憎しみの光だ」と表現しました。
 なぜ0083の登場人物であるシーマ・ガラハウの歌をここから始めたかというと、ソーラレイはスペースコロニーを丸ごと改修して建造した決戦兵器で、そのために徴用されたサイド3の第3バンチ“マハル”はシーマ中佐が居住していたコロニーだったからです。

 一般にガンダムで描かれるシリンダー型のスペースコロニー(島3号型)は長軸に沿った側面に“川”と呼ばれる採光部があり、自転しながら太陽光を取り込むことで擬似的に昼と夜を生み出すわけですが、ジオン・ズム・ダイクンによる独立宣言以降、一時的に他のサイドからの移民流入が盛んになり人口が増大したサイド3では、この“川”の部分を埋め立ててシリンダー内部に人工太陽を設置し、1バンチあたりの収容キャパシティを拡張することで対応しました。この“川”を埋め立てたタイプのコロニーを密閉型と呼び、マハルはそうした密閉型コロニーに改修されたものの一つでした。
 ソーラレイはシリンダー型の密閉された円筒内にヘリウム・窒素・二酸化炭素などの混合気体を充填し、内部をアルミニウムで鏡面化して、人工太陽を転用した電界発生装置で励起することで巨大レーザーを照射する兵器なので、密閉型コロニーを徴用して転用することでコストを大幅に圧縮できたわけです。ただし一年戦争初頭のブリティッシュ作戦におけるコロニー落としに続き、スペースノイドにとって最も根源的な生活インフラであるスペースコロニーを大量殺戮兵器に転用することに、ジオンのデギン・ソド・ザビ公王は嫌悪感を隠そうとはしませんでした。地球に替わる宇宙世紀の大地であるスペースコロニーの兵器転用は、軍事的妥当性はともかく倫理的にはスペースノイドにとって大きな矛盾を孕む行為だったわけです。

 ソーラレイに転用されるまでは当然マハルには人が住んでいたわけで、徴用が決まると住人たちは強制的に他のバンチに疎開させられることになりました。一説には疎開は12月22日から始まったと言われますが、いくらなんでも本番まで時間が少なすぎるので、実際にはもっと以前から疎開と建造は進められていたんだと思います。デギン公王が嫌悪感を示したのには、自国民を強制的に疎開させてまでスペースコロニーを兵器転用せねばならないという戦争指導への不信という要素もあったと思います。そしてここにマハルが選ばれたもう一つの要因があります。

 それはマハルがジオン公国における“外国人労働者”が多く居住するコロニーだったことによります。ここでいう“外国人労働者“とは、主にコロニー公社に雇用されたコロニー建設作業員とその家族を指します。
 スペースコロニーの建造やメンテナンスは、それが最も根源的な生活インフラであるが故に、中立的な公益法人であるコロニー公社によって一括して請け負われていました。これは地球連邦の側からすればスペースノイド90億人の生存に関わる倫理的な問題であると同時に、コロニー建造やメンテナンスのための技術を中立化することで、スペースノイドの技術的自立を妨げるという意図もあったと思います。
 いずれにしてもダイクンによる独立宣言によってジオンと連邦が実質的な断交状態となって以降も、コロニー公社から派遣される労働者はサイド3に留まってコロニー建設やメンテナンスといった仕事に携わり、その主要な居住地がマハルで、そのなかには公国への戸籍登録もされていない者も多かったということです。これはジオン側からみれば、マハルの住民の多くは国内に居住はしているが公国国民ではなく、相対的には強制的な立ち退きといった措置をとりやすい、諸々の基本的人権について自国民ほど配慮する必要がない人々だった、ということだと思います。マハルの住民は極めて消極的な形ながら、コロニーの兵器転用というスペースノイドにとって倫理的な問題を孕む行為に協力させられることとなったという言い方もできます。

 そしてシーマ・ガラハウはこのマハルの出身であり、コロニー公社の労働者でもありました。軍籍に入る以前のシーマ・ガラハウについて詳しいことはわかっていませんが、連邦との開戦が現実味を帯びてくると、実はコロニー公社の労働者の多くが徴兵されMSパイロットとして従軍しています。それはコロニー建設現場で利用される作業用重機モビルワーカーの軍事転用からMSという兵器の開発が始まっており、建設作業員の多くがMSパイロットとして早期錬成できたことが背景にあります。また彼らはジオン国籍を持たない“外国人”として、徴兵に応じて戦争遂行に協力しなければ国内での人権も保障されず、軍籍に入っても“外人部隊”として差別的待遇を受けるという過酷な条件下にありました。
 シーマ・ガラハウは階級は中佐(一年戦争当時少佐の説もあり)、職は突撃機動軍海兵上陸部隊(いわゆるシーマ艦隊)司令代行という高級将校でありながら撃墜数MS67機というトップエース並みのスコアを誇るMSパイロットでもあり、またシーマ艦隊の多くがシーマ中佐と同じマハル出身者で占められていたとも言われています。いわばシーマ艦隊自体が恐らくジオン公国軍最大の“外人部隊”であり、マハルという底流を媒介してソーラレイという一年戦争の暗部と地続きになっているとも思います。0083ではマハルというのはほぼ登場しませんが、シーマ・ガラハウの物語をここから始めたのは、ここがそもそもの発端に思えたからです。もっともシーマ中佐が関わる一年戦争の暗部はそれで終わらなかったわけですが。

だいぶ長文になったので、今回はこの辺りで。Siek ZEON.

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