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「ガード利用限度額引き上げ」に四苦八苦~デフォルト危機のアメリカ

カードが使えなくなるアメリカ連邦政府

アメリカ国債が、デフォルトの危機に陥っている。

連邦政府の債務が上限に到達していて、国債の償還財源が捻出できないというのだ。
この問題を考えていると、苦い思い出が蘇ってきた。
社会人生活を始めて間もない頃、まだまだ給料が少なく、クレジットカードを多用することでしのいでいた。しかし、お金があるわけではなく、カードの決済をするために、カードローンで補って急場をしのぐという、自転車操業状態となってしまったのだ。
そして、ついにはカードが利用限度額に到達、カードローンも増やせないことから、決済不能の状態が近づいてきた。
追い詰められた私は、カード会社に限度額の引き上げを申請した。結果はもちろん『ノー』。決済を乗り切るべく、食費を減らしたり、取っていた新聞を一時停止したりしたものの焼け石に水で、決済不能、つまりデフォルトに陥ることが確実な情勢となってしまったのだ。

当時の私と同じ状況に陥っているのが、アメリカの連邦政府だ。
増え続ける財政支出を、借金である国債増発で補ってきた連邦政府。
ところが、債務には上限が設定されていて、債務額がこの水準に到達してしまったのである。
かつての私同様、カードの利用限度額一杯にお金を使ってしまった連邦政府。このままでは国債の償還ができなくなり、デフォルトを引き起こしてしまうというわけである。

難航する「利用限度額」の引き上げ

当然、連邦政府も債務の上限引き上げを図っているのだが、これが難航を極めている。債務の上限引き上げには、カード会社ならぬ、連邦議会の承認が必要となる。
ところが現在。上院を与党の民主党が、下院を野党の共和党が多数派となる『ねじれ状態』にある。
民主党が無条件の上限引き下げを求めているのに対して、共和党は支出の削減を条件としている。
果てしない債務増加を食い止める上では、当然のことともいえるが、問題はその中身。バイデン政権の看板政策である低所得層への支援や気候変動対策の削減などを求めているのだ。バイデン政権としては、到底受け入れられない内容であり、上限引き上げの承認が得られない状況にあるのである。
 バイデン大統領は「共和党がアメリカ国民と経済を『人質』にとっている」と批判しているが、共和党、とりわけ一部の強硬派は妥協の気配を見せていない。
 こうした中、タイムリミットは刻々と迫っている。連邦政府は、一部の支出を後回しにするなど、必死にお金のやりくりをしているが、とても追いつく状況にはない。イエレン財務長官は6月1日にも、連邦政府の資金が枯渇するとして、早く対応するように議会に求めている。
カードが使えず、支出を削っても間に合わず、ついには決済ができなくなる。かつての私と同じような状況に、世界一の経済大国アメリカの連邦政府が陥っているというわけである。 

デフォルトは回避できるのか?

このまま上限が引き下げられなければ、どうなるのか。国債のデフォルトはなんとしても避けなければならない。したがって、償還資金の捻出するために、連邦政府の支出の一部を執行停止にすることになる。公務員を一時帰休させ、支出を抑えるという措置が行われるかもしれない。この場合、行政サービスの一部がストップすることにもなる。飲まず食わず、仕事も休んでひたすら耐えて、カードの決済代金を確保しよういうわけだ。

民主、共和両党が妥協する可能性はあるのだろうか?多くの専門家は、ギリギリになって、歩み寄りが行われるとみている。もし、行政サービスが停止し、最悪の場合、デフォルトが起こったりすれば、民主党はその責任を共和党に押しつけるだろう。共和党が徹底抗戦した場合のリスクも大きいのだ。
 しかし、最後まで合意に至らず、政府機関の閉鎖につながったこともある。クリントン政権時代の1995年、債務上限の引き上げ交渉が難航する。この時、クリントン大統領は大阪で開催されたAPECの出席をドタキャンしてまで、交渉にあたったのだ。
 私は経済部記者として、このAPECの取材をしていた。大阪の街は『クリントン大統領が来る!』と、大いに盛り上がっていて、そんな様子を事前取材して、来日を待っていた。ところがキャンセルとなり、事前の取材は全てお蔵入り、とてもがっかりしたことを覚えている。
 この時は、懸命に支出を絞ったことで、国債のデフォルトは回避できたが、政府機関の一部が21日間も閉鎖される事態になったのである。
 したがって、今回も最終的には妥協が成立すると考えるのは危険だ。特に気になるのが、共和党下院の強硬派「フリーダム・コーカス」の存在だ。
下院議長の選出に際して、身内のマッカーシー候補に「ノー」を突きつけ、その結果として、実に15回も選挙がやり直されたことは記憶に新しい。今回も彼らが徹底抗戦をすれば、事態の長期化は避けられず、デフォルトが発生することもあり得るのではないだろうか。

 カード決済に窮していた私は、父親に助けを求めた。幸いにもお金を借りられたことで、窮地を脱したが、父親からは『社会人としての自覚が足りない!」と、厳しく叱責されることになった。
 しかしながら連邦政府には、私の父親のように、お金を貸してくれる人など存在しない。仮にデフォルトとなれば、国債市場は機能停止、株価は下落し、ドルへの信認低下で、円高・ドル安が一気に進むというシナリオが想定されている。もちろん、デフォルトといっても、返済原資がないわけではなく、行政手続き上の問題による『テクニカル・デフォルト』。影響は限定的だとの見方もあるが、予断を許さない状況にあるのである。

 いずれにしても、民主、共和両党の駆け引きはギリギリまで続くだろう。
この状況下にもかかわらず、バイデン大統領は広島G7サミットに来るといっているが、クリントン大統領のように、ドタキャンもあり得るだろう。
カードの利用限度額を、引き上げることはできるのか?
タイムリミットとされる6月上旬までは、目が離せない状況が続くことになる。

 しかし、アメリカ国債以上に心配な銘柄ががある。
 政府がカードを無制限に使いまくり、その決済資金を中央銀行が無制限に提供し続けている国の国債だ。本当のデフォルトが起こるとすれば、そちらの方が先だろう。
 日本国債である。

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