#私の仕事

私は輪っぱ回しです。雲助と言ったりもしますね。流れる雲のように、あちらこちらへと移動するのがお仕事だからです。つまり運転手です。

一番最初は、高校を卒業して普通免許を取得、若葉マークをつけて4t車に乗っていました。(普通免許で5t未満までOKだった)今から30年前のことです。当時は女性ドライバーを採用している会社がほとんどなく、何軒の運送会社に電話したことか…。けれどそれより、普通免許取得2ヶ月目の初心者をよく採用してくれたものだと、今思えば頭が下がります。

女性ドライバー可だという運送会社に面接に行ったその日、実際に4t車を運転してみるテストをされました。それが!エアブレーキのトラックだったのです。

乗用車のブレーキは油圧ブレーキ。エアブレーキなんて、存在すら知りませんでした。油圧ブレーキのペダルは床から浮いていて、上方から下がったステイの先にお豆腐半丁ほどの面積のペダルが付いています。エアブレーキは筆箱ほどの大きさの縦長板状のペダルで、足を置く踵側は床に着いていて、つま先側が浮いている形状です。見たのも初めて、踏み方もわかりません。

おそるおそる発進し、敷地から道路に出る手前でブレーキを踏むと、 ガン‼︎と思いっきりつんのめりました。えっ⁉︎ なにこれ、どうしたらいいの⁉︎  踏むたびにガン‼︎ ガン‼︎ とつんのめってしまいます。助手席に座った社長の奥さんは何も教えてくれません。敷地から出たところの道路は、少年刑務所に沿った直線道路で、車通りが少ないのは幸いでした。しかし直線道路の先は止まれのT字路です。踏まなければ止まらない、踏めば勢いよくつんのめる。手に汗びっしょり、おそらく泣きそうな顔をしていたでしょう。

エアブレーキは貨物車用ですから、利きは油圧ブレーキの比ではありません。踵を床に着けたまま、じわっと少しだけ踏み込むのが正解です。大型車のエアブレーキなど、足の親指をちょっと押し込むだけで利くくらいです。

なんとか外でのテストを終え、採用してもらえることになりました。後に先輩たちから、根性試しされたんだよと笑われましたが、いやいや、奥さんのほうが根性あるでしょう!よくあの助手席に黙って座っていられたもんだ!

まだ自分の車を持っていなかった私は、雨の日も風の日も自転車で通勤してトラックに乗りました。仕事は手積み手降ろし、朝の7時から夜の7時まで、片道2kmの距離をピストン輸送します。今こうして書いてみると滅茶苦茶ハードだなぁ〜。慣れるまでは、家に帰って喋ることすら出来ないくらいクタクタでした。母が用意してくれた晩ごはんを黙ってもそもそ食べて、その場で倒れるように眠ってしまうこともありました。考えてみれば、3ヶ月前までは、普通の女子高生だったんですよね。

なぜ普通の女子高生が運転手になったのか。車の免許を取ったら車に乗りたい、けれど車を買うお金はない、運送屋に行けば車に乗らせてくれてお金までもらえる!という単純な動機です。

その後、違う会社でまたしばらく4t車に乗り(手積み手降ろしではなくなりました)、24才で大型とけん引の免許を取得、トレーラーの世界に移ります。

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?