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ドーナツを買った私と夫


今日も疲れたなぁと連休明けの仕事帰り。電車を降り改札を出ていつもは一目散に左側にある長いエスカレーターを降りて地上に出る。その日はなんとなく右側を一瞥するとミスタードーナツの出張販売がきているのが目に入り、思わず私の足は右側へ向かい、少しできていた列の最後尾に並んだ。

私の住む街には甘いものを買えるお店がスーパーかコンビニくらいしかない。お年寄りが多い街だからか和菓子屋はあるのに洋菓子屋もハンバーガーショップのようなものもない。だからミスタードーナツの出張販売は貴重で駅を降りた人々がポツポツと列を成していく。

貴重とは言っても結構な頻度で販売に来るので、いつもはたまに買う程度。その日はなんとなく買わなきゃという使命感に駆られた。
先週私は突然「久しぶりにエンゼルクリームが食べたいな」と発言し、夫も同調して週末の休みに買いに行こうと言っていたのだがタイミングが合わず買いに行けなかったからだ。ちょうどいい時に出張販売に来てくれた!と喜んで並んだ。

さて何個買おうかと悩みながら離れたところにあるショーケースの中を目を凝らして見る。甘党ではない30女の私の胃袋からしたらドーナツを美味しく食べられる限界は2個だ。2人だから4個でいいかと思った私の視界に入ってきた『6個以上で1個108円』の文字。
1個160円を超えるドーナツが存在する中で1個108円となると4個買うより安くなる可能性も出てくるんじゃないかと考えた。「ええい!3つ食べてやろうじゃない!」と損得勘定に抗えず6個買うことに決めた。

6個選ぶのも大変だ。
「エンゼルクリームは2人共好きだから2個だな」
「夫は確かこれが好きなはず」
「チョコのクランチ美味しそう、私も食べたいけれど夫も食べたいかな...でもポンデリングの方がいいのかな」
「私の好きなハニーチュロもあるけれど今はなんとなくそんな気分でもないような気がする」
順番が来るまでの間10種類くらいあるドーナツの前で一人で脳内会議を繰り広げて選ばれた6個のドーナツが入った紙袋を片手に家路に着いた。

家に帰り、持っていた紙袋をキッチンのカウンターに置いて犬猫のお世話をしてお弁当を作り簡単な晩御飯の準備をした。

ちょうど片付けが終わったところで夫が帰ってきた。かなり疲れた声で「ただいま」という声が聞こえてきた。「おかえり」と返し、扉を開けて入ってくる夫を見た。その夫の手にはどこかで見た、いやついさっき見た紙袋が。私は固まった。気づけば夫もキッチンのカウンターを見つめたままピタと身体が固まっている。

そう、まごうことなきミスタードーナツの紙袋だ。

夫「何個買った?」

私「6個。何個買った?」

夫「6個」

損得勘定は確実に夫にも存在した。

突如二人暮らしの家に現れた12個のドーナツ。12個のドーナツはもはやパーティーだ。2個、いや3個が限界と思っていた私に与えられた1人6個のドーナツ。

とりあえず一旦ドーナツの事は忘れて晩御飯を食べた。片付けをしてリビングでまったりする夫に「ドーナツ食べる?」と聞くと「食べよう」というのでそれぞれが購入した紙袋を手に取った。

夫「何買った?1個ずつ出していく?」

なんだかノリノリの夫。すぐ食べないのに手で触るのは衛生的に良くないからと拒否する私。

結局、そのまま紙袋の中を同時に見せ合う事にした。

全く同じだった。

こんな事ある?と変に盛り上がる2人。確かに10種類しかないし、相手の好みもそれなりに知っているとはいえ、私だって結構悩み抜いて選んだ6個だったので全て同じものを選んだ事に驚いた。

ある程度盛り上がってドーナツを食べ始める。今日で全て食べるのはさすがに無理だったけれど、その日のうちに食べるのが1番美味しいとわかっている。私はなんとか夕食後にも関わらず4個のドーナツをたいらげた。4個はさすがにきつかったけれど、エンゼルクリームを一口噛んだら幸せになる甘さだった。

それでもやはり2個が限界だなと思いながらコップに入ったそこまで甘くないアイスティーを啜った。


12個のドーナツ。
同じ日にドーナツを買ってくるなんてなんだか勿体ないことをした気分になった。けれども同じ日に同じ数、そして同じ種類のドーナツを買ってきた事がおかしくてなかなか楽しい時間にもなった。

ドーナツに関わらずお互いがちゃんと相手の好きなものを知りつつ、その中でこれの方がいいだろうかあれの方がいいだろうかと考えて買ったものがパズルのようにピッタリハマるのはなんとも嬉しい気分だ。
そこにちゃんと相手のことを思って考えたっていう事実があるから余計に嬉しいのかもしれない。

夫は今度はどちらかが買ったら連絡する事にしようなんて言ったけれど、こうやってバッタリ被ってしまうのも楽しくて私は黙っておきたいなぁなんて思いながらまたドーナツを買おうと思った。

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