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映画『ナタ転生』レビュー

【『封神演義』が転生してスピーディーでスリリングな3DCG映画になった】

 東京アニメアワードフェスティバル2021を見に池袋まで行ったのだから鉈転生を見て帰ろう。転生したら剣ではなくって鉈になるやつ。違う『ナタ転生』だ。中国のアニメーションでフル3DCGは『白蛇:縁起』と同種。つまりは日本の2Dアニメーションみたいなルックではなく、かといってディズニー/ピクサーが得意とするキッズ向けとも違った大人の雰囲気、例えるなら日本のゲームムービーに近い感じを漂わせる。『ファイナルファンタジーⅦ アドベントチルドレン』だとか『キングスグレイブ FFXV』のような。

 ただし『キングスレイブFFXV』が記憶ではカメラがキャラクターを追い越すような揺れを起こしてとっても見づらく見ていて酔うような印象だったのに対し、『ナタ転生』は最初のバイクレースのシーンこそそうした傾向がちょっとだけ見られたものの、キャラクター芝居に入ってからは安定してキャラクターを画面においてしっかりカメラでとらえる映画のような映像になっていて安定。その中で計算されつくした動きでもって繰り広げられるアクションに存分に酔うことができた。押しては受けてひいては追いつつ殴り蹴って刺し貫くようなアクションを、しっかりとメリハリを効かせて見せる腕はやっぱり中国、考え尽くされている感じ。

 ストーリーについては『封神演義』に『西遊記』あたりで知られている那タクことナタが現代に転生しては『封神演義』で因縁のある東海龍王やら三太子らと戦うというストーリー。転生した東海龍王の側は街を牛耳り水を抑えて圧政を敷いていたけれど、そこに生まれた李雲祥が実はナタの転生で、それと知らず雲祥が乗っていたバイクをほしがった三太子のちょっかいがナタを目覚めさせてしまい、そこから過去の因縁を清算したいと願う三太子の攻撃、そしてナタの復活を阻止したい東海龍王の攻撃が激化していきナタの知り合いの少女や兄や父親に被害が出る。

 憤って復習したいけれども力が乏しいナタ。そこに現れたのがバイクレースの会場で声をかけてきた仮面の人物。いったい何者? といったところからそれこそジャッキー・チェンの映画でもあるような修行があってバトルがあってといった展開が繰り広げられる。凄いのはそうした展開にもしっかりとメリハリがついていて、飽きずにしっかり追っていけるところ。クライマックスには奇跡めいた描写もあって大逆転のカタルシスも味わえる。いやあおもしろい。このストーリーの面白さ、そしてアクションの楽しさを中国のフル3DCGにやられてしまっているところがちょっと悔しい。そして嬉しい。

 ナタは『羅小黒戦記』に出てきた子供のような格好ではなく『鉄拳』シリーズの三島一八系の尖った髪型のイキった青年。父親にどうにも疎まれている意識があるのか素直になれないけれど、父親と和解したい気持ちもあって近づいても受け入れられない苦しさを抱えている描写にジンと来た。歌姫カーシャはレースを観戦している時と、歌を唄っている時の差があって少女といえども女はばけると思わせる。そしてバイク乗りにして女医の蘇君竹。とにかく美しい。そしてりりしい。最後の場面までナタに寄り添い手を尽くす。造形から仕草からもう完璧。その姿態を見に行くだけでも価値がある映画だ。

 決して『封神演義』にも『西遊記』にも詳細まで見知っている訳ではないけれど、なんとなく分かっているからこそ楽しめるところがあって、そんな時にそうした中国の古典も入って来ている日本に生まれ育って良かったと思える。一方で西洋のアニメにも親しんで来られたこの国が、けれども独特のアニメーション文化を生み出した不思議。それが特徴でもあるけれども時に枷となってワールドワイドに展開できるアニメを作れているか迷うところがあることも、同時に考えさせられた作品だった。(タニグチリウイチ)

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