映画『映画 さよなら私のクラマー First Touch』レビュー
【超満員の国立競技場で女子サッカーの試合が行われる日へ続け】
ちゃんとサッカーシューズの靴紐が描かれていたのがまずは良かった長編アニメーション『映画 さよなら私のクラマー First Touch』。ストーリーはテレビシリーズ『さよなら私のクラマー』の前日譚に当たるというか、もともとは先に描かれていた漫画『さよならフットボール』の映画化で、テレビシリーズを知らない人が見てもそこはちゃんと分かるようになっている。
藤第一中学に通う恩田希は、サッカー部員だけれどひとりだけ女子。テクニックは抜群で、サッカー少年団の頃からずば抜けた実力を見せていたけれど、いかんせん女子だけあって筋力が男子に比べて弱く当たり負けをしてしまう。小学生の頃は、女子の方が早く成長することもあって無双を誇っていたものの、中学に入ってぐんぐんと成長する周りに取り残される形になっていた。
1年生の時、テクニックを認められて公式戦の新人戦に出してもらえた希は、そこでパワー負する様を見られて以降、監督から公式戦に出してもらえなくなった。意地悪とか男尊女卑とかではなく純粋に、発育過程にある女子の体で男子と競り負けるようにして怪我をしたら、アスリートとして取り返しが付かなくなるからという配慮の結果。練習試合のような場にはちゃんと出してもらってはいたけれど、恩田はそれが我慢がならなかった。
自分の方が巧いのに。自分の方が優れているのに。弟までもがチームでレギュラーをもらうようになって苛立つ恩田の前に、かつて少年団で一緒にプレーをしていて、その時は背も低く気も弱くて恩田のことを親分と呼んでついてまわっていたナメックこと谷安昭が、敵チームの主将として現れる。高身長で頑健なセンターバックとして。
決して体力負けなんてしないと嘯く恩田に対して、残酷なまでに体力の差を見せつけるナメックに、どうしてもタイマンで泡を吹かせたいと思った恩田はある決断をする。それは……。
といった展開で、だいだいの予想はつく展開が待っているけれど、それを語るのは野暮なので続きは映画を見るなり、原作を読んで知って欲しい。言えるのは、やはり体力差というのは残酷だとうことで、それは男子スポーツと女子スポーツが混交にはなっていない状況が表している。野球もサッカーも女子野球や女子サッカーがあって男子の野球やサッカーがある。別々にリーグもあって試合も行っている。
決して女子に男子が混ざれないわけでは無く、アイラ・ボーダーズのようにアメリカのプロリーグでプレーした野球選手もいるし、サッカーではなでしこジャパンでエースを張った永里優季選手が、神奈川県リーグ2部のはやぶさイレブンに加入し、試合に出たこともあるから許されていない訳ではない。ただ、現実として決定的な体力差の前にテクニックやスピードだけではいかんともしがたいということ。
逆にいうなら、突出したテクニックと突出したスピードで体力を補うことができれば、プロの試合にだって代表にだって女子が入って悪いということはない。その意味では平等だ。
『映画 さよなら私のクラマー First Touch』はだから、女子の体力のなさを残酷なまでに描くのではなく、体力をカバーするテクニックでありそしてチームとちった周辺が大切なことを知らせるようなストーリーになっている。読んで不快になる女子はいないだろうし、悦に入る男子もいない。いつの日にか女子が男子に混じってカンプノウに立つ日だって訪れるかも知れないけれど、そんな日に向かって今は女子は女子で研鑽を積む時。なぜなら未だに日本女子代表は国立競技場を満席にしたことがないのだから。
2000年のシドニー五輪に出場を逃した後、リーグ戦を戦うチームへの支援が細りどん底を迎えた女子サッカーだったけれど、選手たちは諦めず、ひたむきなプレーを続けてファンをつなぎ止めた。2004年のアテネ五輪出場を果たして関心を取り戻し、2011年にはFIFA女子ワールドカップで世界一という栄冠にたどり着いた。
その転機となった2004年4月24日のアテネ五輪最終予選、国立競技場に集まった3万1234人を凌駕する超満員の観客をバックに、新しい国立競技場で女子サッカーの試合が繰り広げられる日へと、続く道を見せてくれる物語を観に行こう、劇場へ。(タニグチリウイチ)
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