映画『ぐらんぶる』レビュー

【8割半裸で3割全裸のイケメンに笑い青い海に浸って憂さを払え】

 Vamos!

 まず言いたいのはこのひとこと。とにかく行こうぜ。行くしかない。『ぐらんぶる』とはそんな映画だ。

 理由は簡単。『獣雷戦隊キョウリュウジャー』のキョウリュウレッドこと桐生ダイゴと、『仮面ライダービルド』の仮面ライダービルドこと桐生戦兎が全編の8割くらいはパンツ一丁で登場し、そして3割くらいは全裸で走り回って飛び跳ねている映画だといえば、『ぐらんぶる』の素晴らしさが伝わるだろう。

 加えるなら鈴之助や『仮面ライダーオーズ/OOO』の仮面ライダーバースこと伊達明を演じた岩永洋昭ら男性出演者も基本的には裸で、女性出演者はほとんど可愛いといえばもう、『ぐらんぶる』を見に行くしかないと思うだろう。思うはずだ。絶対に。

 だから言おう。Vamos!(行こうぜ!)と。

 見ればもう心からハッピーでラッキーでエキサイティングでムービングな思いにとらわれるだろうから。笑えて笑えて笑えて笑えて笑えて笑えてそしてグッと来てやっぱり笑える107分。ただひたすらにすべてを忘れて映画から繰り出されるパワーを浴びて引きこり生活から感じている憂さも、将来への不安から浮かんでいる憂鬱もすべて吹き飛んで、今を心底から楽しもう、そしてこれからも明るく過ごしていこうと思えるはずだ。悩んでいることがバカバカしく思えて、素っ裸になって海に飛び込みたいと思えるはずだ。

 『バカとテストと召喚獣』が人気だったライトノベル作家の井上堅二が原作者に回って、吉岡公威による漫画作品として連載が始まった『ぐらんぶる』は、すでにテレビアニメにもなっている。海の近くにある大学に入った北原伊織が叔父の経営するダイビングショップ「グランブルー」に下宿することになって訪ねて行って、巻き込まれるようにして大学のダイビングサークル「PaB」に引っ張り込まれて飲まされ、剥かれて振り回されながらも、従姉妹で同級生の千沙と再会し、その姉の奈々香の指導なども受けながらダイビングにめざめていく、といったストーリー。

 大部分は酒を飲んでは暴れ回る展開で、裸にあふれた場面が続くがその合間に海に潜って新しい世界を見つける喜びが描かれ海への興味をひかせる。一方で、伊織と千沙とのだんだんと近づいていく関係があり、それをシスコンとして邪魔したがる奈々香の存在や、テニスサークルで笑いものにされていたところを伊織と友人の今村耕平とで助けたケバ子こと吉原愛菜の伊織への切ない思いなども絡んで、青春の甘酸っぱさを感じさせてくれる。

 そんな設定の漫画原作と、それをもとにしたアニメのこれは雰囲気そのままなのかというと、エピソード的には確かに原作やアニメから拾われている部分はある。一方でキャラクターはといえば、漫画のビジュアルとはあまり関係なしに生身のイケメンたちの全裸といった衝撃的なビジュアルを、冒頭からひたすら畳みかけては唖然とさせつと笑いに浸らせる。

 キョウリュウレッドの竜星涼が伊織を演じ、仮面ライダービルドの犬飼貴丈がオタクな耕平を演じるその様は、原作の漫画に似ているかどうかなどまるで気にさせないパワーとインパクト。本質としてのあまりやる気は出さないが時々強烈に燃え上がる伊織と、超絶イケメンながらも日常的にフルグラフィックTシャツを着ているようなオタクの耕平、そして『ぐらんぶる』という物語の世界を強く感じさせる。

 漫画の世界を妙にこだわって再現しても、かえって原作との違いが目立ったり、月曜ドラマランド的な学芸会に堕してしまうこともある。福田雄一監督作品とか? そうしたアプローチとは違った、芯をとらえてスピリッツを浮かび上がらせ本質そのものを感じさせる英勉監督の力技をとくと味わった。これなら、大童澄瞳の漫画が原作で、湯浅政明監督のテレビアニメが大評判となった『映像研には手を出すな!』も大いに期待できる。というか期待以上のものに仕上がっている予感がすでにある。

 冒頭のループめいた展開にややくどさも感じないでもないが、キョウリュウレッドと仮面ライダービルドの全裸が見たくてたまらないファンにとっては嬉しい時間かもしれない。違うファンには千沙を演じる与田祐希の愛らしさや、シスコンの姉を演じる朝比奈彩の底知れなさ、谷間の素晴らしい浜岡梓役の小倉優香にケバい化粧を落とせば美少女の石川恋の可憐さを、ホットパンツやミニスカートといった衣装ともども堪能できる。下着姿もあったか。全裸はさすがにないが。

 加えて、ダイビングの基礎も学べるというからこれはもうお得な映画。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年5月の29日公開が8月7日に後ずれしたが、かえって夏真っ盛りのこの時期に相応しい公開となった。なおかつ世間が何かと沈みがちなご時世に、すべてを吹き飛ばしてくれるパワーと痛快さを持った映画として、大いにサプリメント的効果を発揮しそう。あるいはアルコール的効能か。

 行けば得られる至福の時間。そして感じられる心の安寧。だからもうVamos! 行くしかないっ!(タニグチリウイチ)

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