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海外の空港で「乗客リストにあなたの名前はない」

コロナ前を振り返ると、二、三ヶ月おきに海外旅行をする生活を5年ほど続けていた。渡航先のほとんどは街並みが好きなヨーロッパで、まれに中国や韓国などアジアを選んだ。

自分の収入などたかが知れている。どれだけ安い航空券を買えるのかが大切なテーマだった。オンラインでの購入が基本。ホームページに英語表記さえないところから買ったりもした。ページを英語に翻訳し(日本語にするより誤解がないと考えた)、何度も読み返して間違いがないか確認してから購入する。

そんな方法で、スペインやポルトガルへの往復チケットを何度か買った。スイスを経由するフライトで、いずれも六万円前後という料金。実は香港から出発するチケットだったため、日本との往復分を別に用意しなければならない。けれども、それを加えても合計で九万円程度に収まった。

日本からヨーロッパへ直接向かうフライトだと、その値段はちょっと考えられない。少なくとも当時は、最低でも15万円前後といったところ。安いチケットを求める旅路、検索に次ぐ検索の果てに、香港からの出発を選ぶと欧州系のエアラインがかなり安く買えるのを学んだ。

もちろん、乗り継ぎのリスクはある。そうなったらなったで仕方がない。エアラインや代理店とのやり取りを強いられることで交渉力とか柔軟な対応力が身につくだろう、などと楽観的だった。英会話も上達できそうな気がした。

空港でのチェックインの際、搭乗者リストに自分の名前がないと言われたこともある。セルビア共和国からボスニア・ヘルツェゴビナへ向かう時だった。カウンターの職員からそう告げられた。チケットはインターネットですでに予約、クレジットカードで支払い済みだった。何かの間違いだろうと思った。確かに予約したから、もう一度見てくれませんか? だが、返ってくる答えは同じだった。

係員から、「連絡が来てないかメールはチェックした?」と逆に聞かれた。そういえばしていなかった。その代理店からは、前年にギリシャとイスラエルとの往復チケットを購入していた。その時は全く問題がなく、すっかり安心しきっていた。

メールボックスを確認するため、ネットに繋げようと試みた。けれど、空港wifiらしきものは鍵付きになっていた。いったん場を離れる。パスワードを確認するため空港のインフォメーションに向かう。担当者からは、旅客向けのオープンwifiはないと言われる。

空港にある飲食店や、併設のホテルはどうかと尋ねたが、分からないという返答。「そのくらい知っていてほしい、、」と思ったものの、すべてを把握するのは困難だろう。もちろん、あっさり引き下がることはできない。友好的なトーンを崩さず、しかし少し困ったような抑揚を含ませて状況を伝える。

予約したチケットがないと言われて、もしかしたら代理店から何か連絡が来ているかもしれない、ネットに繋げる方法はないかな? セルビアでは出会った人みんなに親切にしてもらってとても良い旅だった、、

アイウォントゥーリーブディスカントリーウィズグッドメモリー、、そんなことまで言った気がする。

内心の懇願が届いたのか、「オーケー」とカウンターのスタッフは言った。どこか諦めた感じでパスワードを教えてくれた。その場で試すとすぐにつながった。親指を立て、フヴァラ!とセルビア語のありがとうを笑顔で伝える。

メールボックスを確認すると、昨夜その代理店から連絡が入っていた。オーバーブッキングという理由でチケットがキャンセルされていた。こうなったら仕方ないので、セルビア航空のチケットカウンターへ向かい、座席の有無を尋ねて新しいチケットを入手した。

窓口の女性はとてもにこやかで感じ良く、思わず名前を尋ねた。ドラゴナ、と彼女は言った。サッカー選手みたいな名前だな、と思った。女性だとドラゴナ、男性だとドラガンだろうか。ストイコビッチみたいに。そんなことを考えたが口には出さなかった。


NATOの爆撃で破壊されたビル 被害を忘れないため修復せずにいる


セルビアの首都・ベオグラードの中心

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