ゆつりのちょっとした話

 え?あたしの話が聞きたいの? 
 ゆつりちゃんの話面白くないよ? くだんないよ?
 いいなら、いいけどさ。
 何の話がいいかな、なんでよく怪我すんのかって? そんなことでいいの?
 ……変なのー。
 じゃあ、両手の指全部にある傷の話からしてやんよー。長くなるかもだし、ま、てきとーに聞いてよ。
 実はね、この指の傷は全部自分でやったんだ。
 あっ、自傷癖があるとかそんなんじゃないよー。
 あたしはね、自分がほんとに"これ"なのか確証が持てなくなるときがあんの。
 あたしの本当の体は別にあるのかもって思うわけですよ。
 幽体離脱だよ? 霊体と本体の乖離を意識的にやってるんだよ?
 もしかしたら……なんてね、じょーだんだよ。
 悪かったよぉ、ほら、眉間にしわ寄せないで。
 話し戻そっか。
 さっきの"もし"の話みたいなの、ありえないことだけど、ないとは言えないでしょ? 
 だから、目印に付けたんだ。
 ふふん、おかしい? あたしもそー思うよ。
 それにな、由紀子さんの役に立つって決めたから、それを目に見える形でどっかに刻んでおかなきゃって思ったのさ。
 この傷は、あたしが"わたし"であることの証明で、わたしが由紀子さんのっていう証、自分の誓いを確認するためのものなの。
 狂ってるでしょ、そーでもしないとだめなのー、わかんないかもしんないけどさ。
 あ、これ内緒ね! 由紀子さんに言っちゃやだかんね! 
 そうそう、人をからかってばっかだと自分も曖昧になるんだぜ? 
 なーんてなー! 真面目っぽい話終わりー。
 あとなんだっけ? なんでよく怪我すんのかだっけ? これすごいくだらないよ? えーーー、文句言わないでよーー。
 ……不注意なだけだよ? 
 ほらー、しかめっ面したーー! あたしくだらないよ? って言ったじゃん! 
 でもあーうーん、不注意なだけって言うのはちょっと嘘かも。
 わざと、危ないとこでてって傷作っちゃうときもあるし。
 そーいうときは、大体自分が霊体なのか実体なのか、曖昧に感じた時かな。
 こんなふうにしてても、あたしだって不安に感じたりすることだってあるんだぜ? ……痛かったら、今自分は実体なんだ、って分かるからさ、少し安心するんだ。
 それ以外はほんとに不注意なだけだよ。
 ゆつりちゃん嘘言わないよ! 必要なとき以外は、ね? 
 もうそろそろ戻らないと怒られるんじゃないの? 大丈夫? 
 ん? あたしが由紀子さんのことどー思ってるかって? そんなの聞いてどうするの? 
 べつにいーけど、そーだなー。
 ……年上の綺麗なお姉さんが、自分に依存してるのってクるものがあるよねー、絶対、逃がしてやんない。
 ……嘘だよ? 本気にした? あははー、たんじゅーん! 
 休憩終わるからあたしは戻るよ! じゃーねー。
 あ、この話、内緒にしてね。さっきも言ったけどさ、こういうお話は道化師にはいらないからね。
 それじゃ、お互いお仕事がんばろーねー。 

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