ロロ 2024.5.28

劇作家・三浦直之と、歌人・上坂あゆ美が、台詞と短歌の往復書簡で戯曲を綴る新企画「劇と短歌」。
歌集を読む時のような手軽さを携えた、今までにない演劇作品を創作します。

http://loloweb.jp/2024/05/22/akitekara/

次回作情報に興奮しています。これは絶対に観たいです。

ロロの作品はとても好きです。

『はなればなれたち』(2019年、吉祥寺シアター)
終演後、客席の階段を登っていたら、当時毎日のように一緒に過ごしていた大学の友人たちの、50歳くらいの姿が浮かんだ記憶があります。どういう物語だったのでしょう。

『四角い2つのさみしい窓』(2020年、こまばアゴラ劇場)
「よくわからなかったな」と思いました。わからないことは嫌ではなくて、わからない、というだけです。わからなさを頭に巡らせながら駒場東大前駅のホームで電車を待っていたら、同じく劇場を後にした人たちがそれぞれ「なんかわからなかったね」と話しているのが聞こえました。“わからない”という言葉を多くの観客から引き出していたことが印象に残っています。

ふたつとも、どんな作品だったかはよく覚えていません。特に話の筋や設定はまったく覚えていません。舞台セットのようすとか、歌っていたなとか、橋を渡っていたような気がする、とか、いくつかの情景だけはおぼろげに、頭に浮かべることができます。ロロの作品はどれも、照明があたたかくて、舞台にそよそよと吹くやさしい風が客席にも流れてくるような感じがします。照明が、陽だまりのように思い出されます。

昨年、久しぶりに観に行きました。『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』(東京芸術劇場シアターイースト)です。
35の短編で構成された作品でした。舞台面にはたくさんのものがところ狭しと置かれていて、あっちこっち使いながら、6人の俳優さんが50の登場人物を演じ分けていました。客席には設定表が置いてありました。それを見たり見なかったりしながらたのしみました。座って観ているのに、散歩をしているような感覚がありました。
会場内で売っていた台本は所持金が足りず買えませんでした。でも、買わなくて良かったかもしれません。文字ではなく、景色や空気をこの身にとどめたいからです。4、5年前に観た上記の2作品も、文字に残るような事実をすべて忘れたからこそ、景色や空気だけが頭の中に残っています。
ひとつの物語を語る演劇作品を長編小説にたとえるならば、この作品は詩集や歌集のようでした。そんなところでの次回作。わくわくします。

私が観たロロの作品はどれも、視覚的な美しさや感情の見せ場が所々で意識されているように感じました。けれどスペクタクルと表現するにはささやかだし、カタルシスが起こるかというと感情が内側にとどまる感覚があります。どこか現実離れしながらも、現実のような”事の起こらなさ”や”どっちともつかない感じ”があるのです。日常をちょっと先に伸ばしたようなところが好きなのかもしれません。
道で人と対面して、右に避けようと思ったら相手も同じ方にきて、じゃあ左にと思ったら相手もまた同じ方にきたときの、にやっとする気まずさとか、「あ、どうぞどうぞ」と譲り合うときの、あたたかいけどじれったい空気とか、そういうものが、俳優さんの声、すこしの沈黙、劇場を漂う余韻のなかにあります。


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