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SOHOで起業した旅行会社のはなし|プロローグ〜そもそもSOHOとは?

SOHOで旅行会社を起業し、運営してきた。

その間いろいろなことがあったし、それはこれからも続く。

会社運営は思いのほか大変だ。

2002年の開業以来、様々な外的要因(テロやSARS、新型インフルエンザなど)により、この業界は常に苦境に立たされ、そしてそれらは運営に直接響いてきた。

開業から15年がたった今、一度これまでを振り返ることで、これからまだまだ続いていく会社運営における、新しい何かが見えてくるのではないかと考えた。

そして、その時々でぶち当たる壁や苦労などのほか、日々行っていることを少しずつ書き綴っていこうと思いたった。

この記事が、現在独立起業を考えている旅行会社勤務の人や、旅行業を目指している学生の方たちにとって何かヒントになれば、この業界活性化にもなると考えた。

そもそもSOHOとは?

SOHOは、「Small Office - Home Office」の略。

「パソコンなどの通信機器を利用して、小さなオフィスや自宅などでビジネスを行っている事業者」をさす(ウィキペディアより)。

その点において、当社はまさにSOHOの旅行会社だ。

近年、在宅ワークやリモートワークにより、会社勤めの人でも自宅で仕事を行うことが多くなってきた。しかし、会社を設立した2002年頃は、やっとSOHOという言葉が浸透し始めたばかりの頃だった。

毎日、朝早く起きて満員電車で会社へ行き、夜遅く自宅に戻るという生活はなくなり、自由になった。

その反面、スーツを着ないで昼間から住宅街をうろついている(実際はうろついているわけではない、銀行回りなどだ)と、「あの人何している人かしら?」的な目線を向けられる(ような気がする)こともしばしば。

友人に「会社を辞めてSOHOで独立した」と話すと、羨望のまなざしを受ける。

だが、同時に

「食べていけるの?」
「SOHOってどんな感じ?」
「そもそもSOHOってなに?」

と矢継ぎ早に聞かれた。

みんな言葉は知っているけれど、自分の周りにSOHOで仕事をしている人など、そんなにいなかった頃だから、興味も津々だ。

まして、SOHOで旅行会社なんて...。

カウンターがあって、旅行の相談を受けて手配をするのが旅行会社、と思っている人達には、想像もつかないことだろう。

また、旅行業界は低賃金というイメージも、独立起業を心配される種だ。

旅行会社に勤めていても低賃金なら、独立などしたらそれこそ食べていけないのでは?と心配される。

実際のところ、儲かって仕方がないというレベルではないが、そこそこの生活をしていけるくらいは収入がある。

その理由は、以下に書くキーワードにあった。

SOHOのキーワード

実は以前から、「旅行会社こそSOHOで行うべき事業のひとつ」と考えていた。

この業界に入ったころ、三ちゃん農業ならぬ「三ちゃん旅行業」という言葉をたびたび聞いた。

旅行業創世期は、机と電話さえあれば旅行業が始められるといわれた頃だ。そして、父ちゃん、母ちゃんと「ちゃん」がつく家族で営む、小規模の旅行会社を地元で数多く見てきた。

J〇Bのような、全国にいくつも支店と膨大な数の社員を抱えて営業するのも旅行業。一方、もともと顧客のニーズを的確にとらえ、顧客のために何でも手配するのが本来の旅行業だと思っていたからだ。

それには、大規模なオフィスも膨大な社員もいらない。まさに「エージェント(代理人)」だ。

ITもいち早く取り入れた業界だった。

電話をかけることなく、航空会社からリースされた航空端末で航空座席を予約し、さらにはその端末でパッケージツアーの予約が出来た。

まだ、一般企業にはパソコンなどなく、ワードプロセッサという機器が主流だった時代(80年代)にだ。

インターネットが取り入れられた90年代には、すでに各旅行会社が独自のシステムを開発し、ツアーから航空座席、ホテルまでなんでもパソコンで予約が出来るようになった。

そして、旅行業を目指す人なら、必ず取得しようと考える旅行業務取扱管理者(以前は旅行業務取扱主任者:名称変更された)。

この業界で必要な国家試験で、旅行会社へ就職することを目指していた学生の頃は、「主任者さえ取れば旅行業で独立できる」と、のんきに考えていた。

今でこそ、この資格を取ったからと言って簡単に独立起業できると考えているわけではないが、当時の自分にとって、この国家資格は「独立へのキップ」のようなものだった。

このように、「小規模経営」と「IT」という、時代を先取りした、まるでSOHOのためにあるともいうべき2つのキーワードを、20数年前から旅行会社はもっていたのだ。

そして、「独立へのキップ」の国家資格。

旅行会社はSOHOでと考えることは、自分にとって自然なことだった。

旅行業で独立起業するということ

実は、旅行業で独立したり、ソリスターとなって自分で食べていこうという流れは昔からあった。しかし、それには条件がある。

自分自身で営業し、獲得してきた顧客を数多く抱えていることだ。

顧客を抱えていない営業マンや、旅行会社に在籍してはいたが営業職ではないという人には、とてもハードルが高い条件だった。

筆者自身も、はじめは手配セクションに配属されたため、顧客と直接向き合うことがなかった。その後、会社を変わり営業も経験したが、とても独立できるほどの顧客数ではない。

では、なぜ独立に踏み切ったか?

きっかけは、「小規模経営」と「IT」というキーワードだ。

これからの旅行業は、足で顧客を獲得する時代ではない、ITで顧客を獲得する時代だ。

「これなら営業を経験してこなかった人も、企画手配セクションにいた人も、旅行業で独立起業できる、そして自分も…」という考えに至った。

また、会社法改正により、資金面においても会社設立のハードルはずいぶんと低くなった。

旅行業には基準資産額という規定があり、一定の資産がないと営業を続けられないのだが、その点においても、以前よりだいぶ低くなった。

旅行者が、直接ネットで航空券やホテルを手配できるようになったことで、いま旅行業は新たな苦境に立たされている。

しかし、ここに書いた2つのキーワードは、インターネットが発達した現在だからこそ、旅行業で活きてくる。

注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。

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