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SOHOで起業した旅行会社のはなし|10〜旅行業で生き残るには?

会社を作ることは誰でもできるが、長く安泰に経営し続けるのは難しい。

SOHOの旅行会社経営は、社員を抱えていないのだから、「自分たちが食べていけるだけの利益を得る」ことが出来ればいい。

しかし、それだけでは経営し続けることはできない。

この業界で生き残るためには、何が必要で、何をすべきか?

今回は、SOHOでの旅行会社に限らず、旅行業界で働いている人全てに言えることを、少しまとめてみた。

世界中を旅した経験があるわけではない

長年、旅行業に携わっていると、お客様からよく、こんな質問をされることがある。

「この国へ行かれたことはありますか?」

初めて訪問する国の情報は、訪問経験者から聞くのが一番ということなのだろう。

だが、旅行会社に勤務しているからといって、世界中の国々全てを訪問しているわけではない。

言い換えれば、ほとんどの旅行会社スタッフは、「自分が行ったことがない、あるいは知らない国への旅行」を販売しているのが実情だ。

旅行会社スタッフは、基本的に会社勤めのサラリーマンと同じ会社員で、通常はデスクワークが主である。

たまに、長い休みが取れて海外へ出かける機会があっても、1度に20~30か国も周れるほどの休みが取れるわけではなく、せいぜい1~2か国である。

人生にそんな休みが何回取れるだろうか?

旅行業以外の業界であっても、状況はさほど変わらないのではないだろう。

これが大前提の話である。

旅行業は情報サービス業

さて、上述の「よくある質問」に対して、旅行会社スタッフであれば何と答えるべきか?もちろん、行ったことがない国の旅行の話だ。

「いいえ、私は行ったことがありません。」

では、お客様は不安に思うだろう。かといって、

「ええ、2~3度訪れました。」

ではお客様に嘘をつくことになる。

筆者はこのように答えることにしている。

「ええ、良く存じています。」

と…。

こう答えていれば、お客様に対して嘘をついているわけでもなく、不安を与えているわけでもない。

例え、自身が行ったことがない国についての質問でも、旅行会社として知識や情報を十分に得ていれば、お客様に対して安心と的確な情報を与えることが出来る。

旅行業は情報を提供するサービス業なのだ。

ずいぶん前の話だが、あるヨーロッパのツアーを造成・販売している会社の社長は、実はヨーロッパに一度も行ったことがなかった。

にもかかわらず、ツアーの企画は全て自身で行っていたと聞く。まだ、インターネットもコンピューターもない、昭和の高度成長期の頃からだ。

この話を聞いて、「旅行業というのはそういうものか」と、まだ駆け出しの頃の筆者はとても腑に落ちた。

この会社社長は、いつも広いデスクの上にヨーロッパ全土の地図を広げ、町から町の距離を測っては移動時間を算出し、プランを造成していくのだそうだ。

フライトスケジュールはABC(古参の業界人ならご存知だろう、国際航空時刻表だ)、ホテルはミシュランやその他のホテルガイド、鉄道はトーマスクックと、全てが書物から情報を得る時代だった。

実際にツアーを催行し、添乗員は現地で多少の誤差を感じることはあっても、プランを考えた社長には脱帽の思いだったかもしれない。

つまり、旅行業は情報が全てである。

そして、お客様も調べられない、「プロとしての情報」を持っていれば、上述の質問にも、何も躊躇なく答えることが出来る。

旅行会社がなくなることはない

現代は情報過多で、なおかつリテラシーがないと、的確な情報を得ることが出来なくなってきてしまっている。

旅行についても同様で、航空券検索サイトやホテル検索サイトは、見比べることも出来ないほどネット上に膨大に溢れている。

その中で、どれを信頼して手配すればいいのか、一般の旅行客は迷うことだろう。そして、最後に頼るのは口コミだ。

口コミほど危険なものはない」と筆者は常々考える。

口コミは「主観」でしかない。主観は、安心・安全を担保できるだろうか?

一方、旅行会社に勤める人は、いわゆる「旅のプロ」だ。

旅行会社は、そのツールとして信頼できる情報を持ち、信頼できる手配先に、大事なお客様の旅行手配を託すことが出来るルートを持っている。

インターネットが発達した今、誰もが旅行についての情報を得ることが出来、行ったことがない国のことでも、「旅のプロ」顔負けの情報を持っている人さえいる。

だが、「旅のプロ」がもつ情報ソースは、一般の人がインターネットを駆使して得た情報とは、全く違うものだ。

旅行業法にのっとって、安全に、安心できる旅行を提供する義務がある旅行会社の情報は、一般のディープトラベラーとは違う、旅行サービスを手配し提供するための情報を持っている。

だから、様々な検索サイトに、いくら旅行会社のお株を獲られようとも、旅行会社が日本からなくなることはないだろう。

旅行をしようと思う人は、最後には、やはり旅行会社を頼るのだ。例の質問も、インターネットでは埒が明かなかったからこそ出る質問、と考えている。

全ての旅行会社スタッフは、もっと自信を持っていい。

また、情報は同業他社と競合する場合があるが、それを気にする必要はない。

当社では、海外テニス観戦や乗馬ツアー、セントアンドリュースのゴルフプレーパッケージなどを取り扱っているが、どれも独占契約販売ではない。どの旅行会社でも取り扱うことが出来るものばかりだ。

以前とは違い、いまや「利権」で独占販売する時代ではない。

筆者は、これらの特殊な商品について、例の質問をされる機会があったとしても、何ら返答に困ることはない。もちろん、実際に全て訪れて、体験していることが「旅のプロ」としてベターなのは、筆者にもわかる。

必要なのは、それを販売するための「旅のプロ」だけが得ることが出来る情報をもっていることだ。

そうすれば、お客様はいつも手配した内容に満足を得ることができ、他社との差別化も図ることが出来る。そしてこれは長年実績を積み重ねてこなければできないことだ。

「旅のプロ」としての情報が先か、実績が先か、そんなことはどちらでもいい。

どちらも業務として積み上げていき、自身の宝として持ち続けることが、旅行業を長く続ける秘訣ではないだろうか。

「集合体」より「個」の旅行業

これからの旅行業は、「集合体(Group)」ではなく、必ず「個(FIT)」が大事になってくる。

すでに、旅行スタイルでは「おひとり様」が当たり前になってきている。

反対に、会社の社員旅行を取ってこようとしてばかり、あるいは、「最少催行うん十名」なんていうツアーばかり造成していると、いつまで経っても売り上げは上がらない。

会社の形態も同様だ。

当社が、SOHOで営業している理由の一つに、大人数が務める集合体としての会社では、旅行業は必ず行き詰ると考えたからだ。

今の旅行会社は、価格破壊から抜け出せないくせに、いつまでも多くのスタッフを、安い賃金で雇い続けている。

それよりは、多少高くても、自信を持って販売できる商品(会社の規模に見合った利益が載った)を提供し、少人数のスタッフで利益を分配できることを考えた方がいい。

それには、「旅のプロ」として得ることが出来る情報を豊富に持ち、そしてそれを駆使して個々の力を発揮することが必要だ。

そして、これがこれからの旅行業の新しいスタイルになるだろうと考える。

注)このはなしは、コロナ禍以前までのこと。世界的パンデミックを経験した今、旅行業の未来はまだ見えない。

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