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前髪の断髪式

浪人していた頃、映画の「アメリ」にハマって、前髪を自主的に切り落としたことを思い出した。

断髪したときも雪が降るか降らないかギリギリ瀬戸際と言った感じの寒い日だった。

学生でもフリーターでもなく、来年の4月からの未来が見えないままの鬱屈とした毎日に辟易して、TSUTAYAで借りてきたのが「アメリ」だ。
あまりにも有名な作品なので内容は割愛するが、ざっくり説明すると内気な女の子が自分の殻を破り現状を打破するというもの。(本当にざっくり過ぎて怒られそう。すいません。)
そのアメリの容姿が、眉上の短い前髪に顎上に揃えられたショートボブなのだ。
私はエラに大いなるコンプレックスを持つので(毎回美容師に輪郭が出ないようにしてくださいと依頼している。美容師は「そんな隠さなくても...」とフォローしてくれるが、私が「これでも...?」と髪を上げると「なるほど...」と最善を尽くしていただける。こうして書くとまるで口裂け女のやり口みたいだ。申し訳ない。改善の余地がある。)
ショートボブにする勇気はなかったが、
前髪くらいならいいかなと思って、
文具のはさみで眉上まで前髪を切った。
アメリのように何かが変わるよう祈念しながら。

久しぶりに会った母親には酷評された。
そう言われてみると確かにひどい気がした。

生きているので髪は伸びるし、疑いようもなく月日が流れて、私は大学に受かった。
その頃には眉毛の隠れるフツーの横流し前髪に戻っていて、変化は必ずしも変化を生まないんだなぁとぼんやり思った。

今でも煮えきらない気持ちになると断髪式をする。美容系yotuberの前髪の切り方を参考にしながら、無印良品の文具ハサミで切っていく。前より切り方はましなはずだ。
仲の良い友人や行きつけの店の店員さんはつんつるてんになった私の前髪をみてなんかあったんだろうな、と思っているらしい。
直接的には聞いてこないことはありがたいけど、かまってちゃんのようで恥ずかしい。
美容師には「まーた自分っ切っちゃって」と怒られる。

前髪を切ると視界が広がる。
切る意味はとりあえずそれだけでいいかな。




サポートの分だけ強くなりたい。 アスファルトに根を張る大根のように。