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個人ゲーム開発者の「このゲームは、本日配信」から1ヶ月

闇鍋人狼のSwitch版・Steam版をリリースしてから1ヶ月が経ったので感想とかを書きます。

デザインの話とかはなくて、起きたことと思ったことを書いていくので、あのとき大変だったなあ……とか、うまくいってやったぜ! みたいな話が中心で、誰かにとっての知見になるというよりは日記です。

ただ、多くの人が個人でゲームを公開する昨今、リリースの前後でどうすべきか? というのは議論の尽きないトピックだと思うので、事例を公開することで多少は何か有意義なものになればいいなとも思います。


「闇鍋人狼は、本日配信」

闇鍋人狼はIndieWorldで紹介されると同時にリリースされました。連日大量のインディーゲームがリリースされる中で、任天堂の公式イベントで紹介されることは大きなアドバンテージになりました。

放送と同時にリリースできるというのもインパクトが強く、たまたま放送日と配信予定日が近かったのもラッキーでした。このイベントで紹介されなかったら今ほど多くの人の目にはとまっていなかったでしょう。

ご縁あって採択の話をいただいたとき、このチャンスを逃すわけにはいかないと勇んでいた一方で、採択されるにあたっていくつか問題がありました。

放送日とリリース日を合わせる困難

まず1つは、注目度の高い番組でいきなりリリースするというのはエンジニアリングの観点からとても危険です。

そのサービスが経験したことのない規模の負荷をかけることでそれまで見つかっていなかった問題が露呈する可能性が高いからです。昔はよく成長途中のwebサービスがYahoo!のトップページに掲載されていきなりサーバーが落ちるなんていう話はしょっちゅうありました。「未曾有の同時接続」なんて言葉が生まれたこともありましたね。

買い切りのインディーゲームである以上、そこまで伸びたらそれはもう嬉しい悲鳴なのですが、どこでどんな問題が起きるか分かりません。最悪リリースと同時にサーバーが死んで誰も遊べないみたいな状況も起こり得たでしょう。

審査を突破する困難

もう一つの問題は、そもそもゲームがまだ未完成だったという点です。

Switchでゲームを公開するには任天堂の審査で合格する必要があるのですが、闇鍋人狼は採択の話を貰った時点でまだ合格していませんでした。もちろん番組の放送日つまり締め切りが完全に固定されているのにです。

闇鍋人狼は他プラットフォームとのクロスプレイやUGCなど珍しい機能を持っており、それらがどうチェックされるのか筆者やパブリッシャーの方に知見が無かったため、審査がどの程度長引くか予測できない状況でした。

予測が難しい要素を抱えて締め切りのあるソフトウェアを作るのは極めて危険で、無理をすればソフトウェアか人間が壊れます。そうならないよう普段から準備しておくのがエンジニアリングなんですが、突然降ってくるチャンスみたいなことはどうしても避けられませんね。

ローリスク・ハイリターンであると判断

これら2点の問題があったため、採択の話をいただいたことを手放しで喜ぶというわけにはいきませんでした。もし筆者がチームを率いる立場であれば放送とリリースを同時にするのは反対したかもしれません。

ただ、そこは個人開発の良いところでもあり、大きな失敗が起きても被害を被るのは1人で済むうえに、筆者に何か失うものがあるわけでもないので、ミスっても死ぬわけじゃないの精神で請けることにしました。

結果的には、時間内に審査を合格することができ、リリースも大きな事故を起こさずスムーズに進めることができました。

ちなみに、もし審査合格が間に合わなくてもなんとか番組にだけは出してもらえないかとお願いするため、パブリッシャーの方が土下座のウォームアップを始めてくれていたそうなんですが、尊厳が守られてよかったです。

個人開発者とパブリッシャーの是非

個人でもゲームを出版できるようになった時代で、パブリッシャーと組むべきかどうか? というのはよくテーマになる議論です。

パブリッシャーと組むとどうしてもコミュニケーションコストが発生するので、個人でやっているときの最大のメリットが失われます。その上で、契約や金銭関係のトラブルがあったという話はよく聞きます。また、組めば必ずうまく行くという保証もなく、ゲームを売るということの本質的な難しさが完全に解決できるわけではありません。

それでも、少なくとも闇鍋人狼のケースだと組んで良かったと言えます。公式の番組に採択されるというのは闇鍋人狼の宣伝活動の中で最も大きなもので、これはゲーム内容や個人の頑張りだけでなんとかなることではなかったと思います。また、筆者の場合チームではなく1人で開発していたのもあって、開発中に少なくとも誰か1人が気にかけてくれている状況は心理的にも良かったです。

ありがとう、わくわくゲームズ。作品募集もやってるそうなのでぜひ。
https://www.wakuwakugames.com/contact

実況配信について

リリース以降、多くのゲーム実況者やVTuberの方にとりあげてもらえています。

闇鍋人狼はどう配信されるか? 配信されたときどうなるか? を強く意識して作られたゲームなので、実際に配信してもらえることで多くの知見を得ることができました。

見つけられる限りの動画や配信は一通り目を通しているつもりですが、なるべくコメントとかはしないように意識しています。

筆者はゲームとは良くも悪くも自由に遊ばれるべきものだと考えています。配信者やそのリスナーの方達に「作者や関係者が見てる」ことを意識させてしまったせいで、好き勝手に批評できなくなるのは不健全だという意図です。

とはいえ、自作ゲームが誰かに遊んでもらえる様を眺めるのはとても楽しく、特にスパイ視点を観ているときはプリキュアを観る女児のごとく応援しています。

76点スパイ勝ち、ウルトラオレンジを折るレベル

いくつか特徴的な卓を紹介します。

にじさんじ卓

椎名唯華さん、不破湊さん、鷹宮リオンさん、イブラヒムさんが配信してくれました。大人気VTuberグループということで、同時接続数などの規模感は闇鍋人狼の配信の中でも最大規模でした。

視聴者参加型ではなく、またゲーム自体がそこまで知られている状況でも無かったため観戦者で溢れ返るみたいな状況は起きず、サーバーがパンクして遊べなくなる的な問題は起こりませんでした。

ただ、ゲーム内容に関してはルールがうまく伝わっていなかった箇所があったのと、ランダムで起きる要素の噛み合いもあって一方的な展開になってしまったかなと思います。

闇鍋人狼は勝敗を決定付ける要素がランダムに委ねられるゲームなので、ある程度仕方ないことではあるんですが、せっかくゲームが多くの人の目に触れる機会で、説明や調整が甘い部分が露呈してしまったのは残念でした。

それはそれとして、配信終了後に参加者の不破湊さんにその旨お伝えしたところ、丁寧にお返事していただけました。

フォロワーが何十万人といるなかで、リプライを1つずつ読んでくれているのは流石だなと思うと同時に、こちらが言ってほしかったことも言ってもらえて嬉しかったです。

多くの方が魅了されるのも納得でした。筆者ももうあと20歳若かったら恋に落ちていたでしょう。

マグロナ卓

VTuberのマグロナさんが配信してくれました。マグロナさんはいわゆるバ美肉おじさんの草分け的存在の1人で、大人気の配信者です。

配信はまずストーリーモードでゲームの遊び方を確認したあと、視聴者参加型でリスナーの皆と遊ぶという流れでした。参加型も最初は数人だったのが、一緒に遊んでいるのをみた他の人がその場でゲームをインストールしてくれて、最後は観客席がほぼ満席みたいな状況になっていました。

闇鍋人狼の「チュートリアルが皆で観れて楽しいものになると良いのではないか?」や「観ている人にも何か商品が提供できないか?」という工夫がうまく機能した好例だったと思います。

マグロナさんとリスナーの皆さんのノリが良くてめっちゃ良い配信でした

ゲームの賛否分かれる要素も好意的にリスナーの方に説明してくれ、またウケてほしいと思っていたところで楽しそうに笑ってくれる様は、作者として観たかったものです。

多くの方が魅了されるのも納得でした。筆者ももうあと20歳若かったら恋に落ちていたでしょう。

公式アンバサダー

闇鍋人狼の宣伝を手伝ってくれる方を公式アンバサダーとして任命しました。恋婚かいとんさん・まがみさんのお二人です。

個人ゲーム開発者が同じく個人規模で活動している配信者の方と協力することはとても合理的だと思います。

例えば、筆者がヒカキンさんに宣伝してほしい! となったとして、大金を用意してツテを辿れば不可能ではないかもしれません。ただ、もし仮にそうなった場合でもヒカキンさんとリスナーの皆にとっては数多のゲームの1つに過ぎず、一時的な注目度が上がるだけで、長い目で見てゲームのプラスにはならないでしょう。

お互いの規模感が揃っていることで初めて相手に協力することが自分にとってのプラスになる関係になれると思います。

リリースしてしばらくは配信してくれた人に手当たり次第に声をかけていました。前向きなお返事をいただけたり、そもそもDMが届いてなかったりで、あー、突撃営業ってこういう感じで大変なんだなあ、ということを実感していたところで、お返事をいただけたのがかいとんさんまがみさんのお二人でした。

最初は単にコラボ配信をするというだけだったのですが、話しているうちにウマが合い、継続的にやっていこうという関係になりました。

じゃあ公式アンバサダーっていうのは何やねん? というのはまあ筆者も深くは考えておらず、何か大きな権限委譲があったとかそういうわけでもないです。ただ、かいとんさんは少しでも会話が盛り上がるよう配信前にめちゃくちゃ周到な準備を重ねてくるし、まがみさんは今もなお新しいコラボの企画をどんどん成立させています。

そういう、正しく努力を積み重ねて勇気ある一歩を踏み出す人が評価される世の中であってほしいと思います。

筆者はいま、面白いゲームがあるぞということを世の中に知ってほしいのと同じくらい、面白い喋りができる人達がいるぞということを世の中に知ってほしいと思っています。

みんなの反応

配信だけではなくストアレビューやSNSに投稿された感想もなるべくみています。特に人狼系のゲームに抵抗があったけど、これなら楽しく遊べたという旨の感想は、このゲームが目指していたことの1つなのでとても嬉しいです。

闇鍋人狼は友達4人で喋りながら遊んだとき面白さが最大化するようデザインされており、またプレイヤに「お前の友達オモロイで」ということを伝えようとしています。それは、名探偵のようなキレのある推理であったり、どこか憎めない三下のような命乞いであったり、ゲームを肴に楽しくお喋りできる場で実現されます。

もし闇鍋人狼を遊んで面白いと感じたのであれば、それはおそらく一緒に遊んだ人が面白かったのだと思います。例えば同じメンツで桃鉄なりマリオパーティなりを遊んでも面白いでしょう。

なので、ゲームがどうというよりは卓が立ったことが何より価値のあることなので、誘ってくれた人や日程調整してくれた人に、これを機に改めて感謝を伝えてあげてください。

また、「ストーリーが良かった」という意見もいただきます。

チュートリアルという位置づけである以上、そこまで凝った内容ではないんですが、テーマとしては今日ダメだったとしても、また明日から頑張ろうという主張が込められた物語です。

もしストーリーが良かったと感じられたのなら、それは読んだ人が何かに挑戦しているからだと思います。何に挑んでいるかは人それぞれだと思いますが、筆者が応援しているという気持ちが伝われば嬉しいです。

Thank you for playing

もちろん多くの人に遊んでもらえたというのは何よりのありがとうございますなんですが、リリースして改めて手伝ってくれる人の多さに気付けたので、その人達にも感謝しています。

やさしい人狼であることを目指したこのゲームにはuraconのホスピタリティの限りを尽くしたつもりではありましたが、実際にやさしくされていたのは自分の方だったかと実感しています。

今後とも、闇鍋人狼とuraconをご贔屓にお願い致します。

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