マガジンのカバー画像

余寒の怪談手帖 リライト集

104
怪談手帖が大好きすぎて〈未満〉も含め、色々な方のリライトをまとめてしまいました。 原作者・余寒様の制作された書籍、「禍話叢書・壱 余寒の怪談帖」「禍話叢書・弐 余寒の怪談帖 二」…
運営しているクリエイター

#夏の思い出

【怪談手帖】物怪録【禍話】

「有言実行っていうよりは、思い付いて喋りながらもう足が動いてる、みたいな人だったなあ」 Aさんは数年前に癌で亡くなったという、歳の離れた従兄弟のBさんをそのように称した。 「まどろっこしい事が嫌、ってのかなぁ…。まあその所為なのかなんなのか、病院も大っ嫌いでさあ。  若かった頃は『医者要らずとはこの事だ』なんて、それでも良かったけど、歳取ったらねえ…。  だめだよやっぱ。お医者さんの言う事聞かないとさ」 癌が見つかった時にもう手遅れとなっており、半年もしないうちに六十過

【怪談手帖】毛羽毛現【禍話】

Aさんは地方の商工会議所に勤める二十代の女性である。 最初の自己紹介で喘息持ちだと言った彼女へ、僕もそうだと告げると暫くその話題になった。 「後天的な喘息って、原因がはっきりしない事も多いんですってね」 「ああ!僕なんかまさにそれです、二十歳過ぎてから咳が止まらなくなって、色々検査も受けたんですけど今ひとつわからなくって!」 本題前の雑談のつもりでそんな話をしていたのだが、彼女にとっては歴とした本題への導入だったらしい。 「私の場合は小学生の頃からなんですけど。原因はっ

【怪談手帖】青虫様【禍話】

知人の叔母にあたるAさんの少女時代の体験談。 ある夏の事。両親の仕事の都合で、彼女は親戚筋の家へと暫くの間預けられる事となった。 その家というのは盆地にあって、農家というわけではないが大きめの畑で自家用の野菜を沢山作っていた。 実際に行くのは初めてだったが、普段からAさんの両親とは懇意にしており、胡瓜やトマト、茄子などをお裾分けしてもらったり、お菓子などを贈ってくれたりしてくれたそうだ。 そんな家だから彼女も抵抗もなく、自分の家より大きくて広いうえに自然も多い所で過ごせる

【怪談手帖】淵子【禍話】

地方の文系大学で教鞭を取っている、Aさんという五十代の男性から伺った話。 Aさんの故郷には『◯◯投身の地』と伝わる深い淵がある。この手の身投げ伝説というのは、富山のお小夜塚を始め各地にあって、大抵因果話や悲恋話とセットになっているが、彼の故郷の淵は身投げした者のエピソードがぽっかりと抜けていた。 というとこの『◯◯』は子供の名前なのだが、その事以外のどこのどういう者なのか、なぜその淵に身を投げたのかという点が全く伝わっていなかったのだ。 Aさんは語る。 「本当に全然わから