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くちなし

 お花屋さんでくちなしの鉢植えをみかけた。むわっとした甘い香りを漂わせている白い花。それをくちなしだと教えてもらったのは上京して2度目の梅雨。そこから好きな花として名前を挙げるようになった。くちなしがあるベランダなんて良いよねと思ったけど、その甘い匂いはかなり虫を呼び寄せてしまうらしいので断念。虫とはなるべく戦いたくない。また今年もくちなし探しの散歩をする。

 くちなしの香りを感じ、扇風機を出す。ドライヤーをするだけで汗をかくようになってきたらもう夏がそこまできている。夏は無敵だから大抵のことは大丈夫だと自分に言い聞かせて過ごすようになったのはいつからだろう。

 くちなしの存在を知った夏が、ずいぶんと過去のように感じてしまう。マスクが必要ない時代のテレビの再放送には小さなテロップがでるようになった。節電、省エネ、エコが溢れていたのに、除菌、消毒、感染予防という言葉に変わった。冷房がついていても窓が開いてる電車、ひと昔前にやったら白い目で見られてるよね。


 一つ歳をとり、腕に海を入れた。夏に届くようにワンピースを買った。私の知っている海はいつも同じ場所にあってほしい。私の大切な人たちが気持ちのいい夏を過ごしてほしい。


 気が済むまで海を見ていたい。夏が目の前だね。


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