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経験者に聞く、DAOの立ち上げ・運営のコツ 〜「OneGlobal Community」mAL氏〜

こんにちは、DAOの構築・運用をサポートするweb3スタートアップUnyteです。
今回は、グローバルで多様なメンバーが自身の軸を存分に発揮しながら活躍しているDAOコミュニティ「One Global Community 」の創設メンバーであるmALさんにインタビュー取材させて頂き、経験談をお伺いしました。

■ One Global Community
グローバルな視点を持つメンバーによる、分散ネットワークを活用したコミュニティ。あらゆる地域から多様な参加者が平等に学び、互いに貢献し、ベネフィットを得られる場所で、「誰もが自分のビジョンを実現させられる機会がある世界」を創造することを目指している。

◾️ One Global Community co-founder、mAL 氏 (https://x.com/mal3___)
国内大手電気メーカーでグローバルにモビリティ関連のソフトウェア開発事業をリード。アメリカのジョージア州とドイツのシュトゥットガルト市で8年以上の海外駐在経験を持ち、多人種多国籍の組織マネジメントに定評がある。近年では地方創生事業にも力を入れており、公私共に国内海外を飛び回りながらWeb3技術を活用する様々なコミュニティを牽引。この春からアートをイノベーションに活かすため、京都芸術大学大学院にMFA (芸術修士)にも在院中。

(左)VisionQuest時の盟友たちと「東北 Art Journey」を催行した際の一枚 (右)mAL氏近影

「コミュニティ運営にDAOを取り入れてみたいけどDAOに触れたことがない」「まずは何をしたら良いのか、わからない」という方々に向けて、mALさんがDAOを学んで・立ち上げて・動かす一連の流れの中で得た知見を知っていただくことで、DAOを組成する道筋のイメージを持っていただけると幸いです。

<こんな方に読んでいただけると嬉しいです>
・コミュニティを運営する予定があるが何から取りかかれば良いのかわからない方
・DAOを活用したコミュニティ構築に興味があるが、実運営についてはあまり知らない方
・DAOをあまり知らないけど、DAOを始めてみたい方

<読んでいただけるとこうなれます>
・DAO立ち上げのプロセスをイメージできる
・コミュニティ活性化に必要な要素をイメージできる
・DAO運営を成功させるコツをイメージできる


1.「One Global Community」mAL氏にお伺いしました

1-1. web3に飛び込むまでの原体験

mAL氏:アメリカで3年、ドイツ5年で合計8年と海外で過ごした期間が長かったです。コロナ禍にあった2020年頃に「このままのスタイルで働き続けるのは正しいことなのか」思い悩んだ期間がありました。
海外で過ごした多様な環境が刺激的であったこともあり、その延長線上にある仕事をしたかったのですが帰国後にある意味物足りなさを感じ、いわゆる燃え尽き症候群に似た感情に陥ってしまいました。その時に出会ったのがNewsPicksで募集していた「Vision Quest」という企画でした。

Vision Questとは、シンプルにいうと「自分のビジョンを見つける旅」。企業人、スタートアップ、経営者など多種多様な人たちが集まり、概ね1年間くらいをかけ、自分のビジョンを見つけるためのグループワークを行う活動。

(本人注釈)

1-2. 大きく影響を受けた「資本主義をハックする」考え方

mAL氏:いまの世の中は基本的に満ち足りています。より良いモノを求めて研ぎ澄ましていきますが、一昔前から考えると、それがないと生きていけないようなものではなくなっています。大げさというか突き詰めすぎている部分があるのです。
その一方で、世界には本当に困っている人や社会的に不都合を感じている人もいます。
では、なぜその分野に取り組んでいかないのかという問いを考えると、「世の中のためになることをやっても、結局儲からないから」という理由が挙げられます。

だからこそ、資本主義を壊すのではなく、資本主義にうまく乗っかった上でNPO法人やボランティアでは長続きしない社会的な問題の解決に向かっていこうというのが、山口周さんの「資本主義をハックする」という考え方です。これにとても共感しました。

1-3. 自分の中の変化のきっかけ

mAL氏:資本主義をハックするためにはビジョンを持たなければならない——
帰国して悶々としている時に、自分にとってこれが考え直すきっかけとなりました。そして、自分のビジョンを再認識し、本来の自分を取り戻すことができたのです。再認識した自分のビジョンは「自分がワクワクすること以上に、周囲がワクワクさせるのを見ていることが、もっとワクワクする」ということでした。

その観点で周囲を見渡した時に「人は会社に縛られている」と思いました。〇〇会社の△△さんと言うように、まず会社があって次にその人の人生がある、という常識に違和感を覚えました。

また「どこどこに就職したんだ、すごいね」というように、一度その会社に所属してしまうと、その会社での役割を与えられてしまいます。それを全うする生き方をしていると、「この人には、もっとこんな才覚があるのに勿体ないな」と感じることがあるのです。スタートアップはキラキラしているけど、大企業勤めは長いものに巻かれていてダサいというような風潮もあるように感じます。そういう先入観は個人的にはイヤだな、と思っていました。

1-4. DAOとの出会い、親和性を感じたところ

mAL氏:いろんなことにチャレンジしたい気持ちはあるけれども、様々な組織の制約で会社に縛られ、やりたいことをやれない場合もあるのを目の当たりにしていたので、それを打開したいと思いました。そこで出会ったのが「Vision Quest」でした。

最終的に世の中から「一つの会社に勤め上げる」という常識が破壊されて、自分の能力にあった仕事に、その時々のタイミングで参加する。そのように活動していくと、人は様々なことができるように成長していくし、その人の生き方も多彩になり、いろんな可能性を生むことができる——
会社単位ではなくやりたいプロジェクト単位で参加する世界をつくっていきたい、と思いました。

この考えに辿りついたちょうどその時はweb3が着目され始めた頃で、DAOという概念が世の中に出てきていました。なので、DAOをやりたいと思ったというよりも、自分のビジョンを実現する一つの可能性としてDAOの考え方がマッチすると思ったのです。
良いものか悪いものか、やってみなければわからない。だから、まずはDAOを始めてみようと飛び込みました。

(左)One Global Community co-founder mAL氏(右)同 founder Aki氏
mAL氏とインドやヨーロッパでアーティスト活動していたAki氏は、お互いの共通点であるグローバルな活動面で意気投合し、One Global Communityの設立へと至ることとなる

1-5. DAO立ち上げの契機

mAL氏:その頃はDAOを学習するためのDAOというのも多々ありました。コミュニティとしてどうしたいのか、というビジョンがあまり無いまま、単にDAOの文脈に則り「トークン発行」「NFTを使った投票の仕組み」といった、目的ではなく手段が先行しているようなDAOにいくつか所属していたこともあります。

そういう活動をしていた中で、同じビジョンを持つパートナーと出会い、OneGlobalをDAOでやったら面白いよねと意見が合致し、その時はコミュニティベースで立ち上げました。創設メンバーの個々のバックグラウンドもあり、初期から「グローバル」を対象として世界の人を巻き込んでいこうと決めていました。

多様なプロジェクトに世界のどこからでも参加できる、やりたいというワクワク感を通じてDAOメンバーが繋がり、同じプロジェクトで活動ができれば、それは自分が理想として描く「新しい働き方」になるとの思いがありました。

1-6. DAOを成功させるための鍵

mAL氏:やはり大切なのはビジョン。そのコミュニティで「何をやりたいのか」を言語化していくことが、まず最初にやったことです。
ホワイトペーパーなどは手段論に走りがちです。「何を大事にして、何をするために、このコミュニティを立ち上げたのか」、コミュニティの価値観やコミュニティのメンバーが活動していくための行動指針を全て言語化しました。
いま、振り返ってみても、これは大事だったなと思います。

実際にDAOが動き始めると、経験上「DAOで何をやりたいの?」という疑問がメンバーから湧き起こることは明確でした。その時にDAOでやることが目的なのか、DAOでなくても良いのか、という究極の選択を迫られる場面も出てきます。軸がないとコミュニティの方向性がブレてしまうのです。

最大の目標であり最終のゴールは、ビジョンを達成させること、その最善策がDAO。周囲から問われた時に、これを即答できるくらいDAOとしての目的を整理をしておくことが必要でした。

1-7. 実践から学んだ、DAOを運営していくためのコツ

mAL氏:自分はエンジニアとしての職務経験もあり技術面での素養があったので、自分なら全く知識のない人にもweb3のテックの部分の良さを伝えていける自信がありました。それによりコミュニティの価値も上がると思いました。ここに多くの人を巻き込んでいこうと活動してるけれど、まあ難しいですね。

One Global Community (OGC) 公式サイトより引用

DAOといえども、最初の立ち上げフェーズは中央集権でやるべき——
どこまでマネタイズするのか、どんな人をDAOメンバーとして迎え入れ拡大するのか、などの課題に直面した時に、コミュニティに対する思いや熱量の高い人の声を取り入れたくなります。
特に立ち上げ時期については、まだあまりコミットできていない人とめちゃくちゃコミットしてくれている人の意見が、同じ「1」として扱われるのはアンフェアだと思います。ある程度、コミュニティとして成熟してきたらVotingのプライオリティは同じでいいかもしれません。

立ち上げフェーズではメンバーの意思決定権に差をつけることで、コミュニティとして大きくなるし、強くなります。 メンバーの構成を同心円状に定義していて、DAO運営に関する意思決定権を持つイニシアチブメンバー(コアメンバー)、その周りにその他のメンバー、さらにその外側にファン層がいると考えています。
自分が所属するコミュニティの特性的に、プロダクトを売っているわけでないので、コミュニティの人たちの質で成り立っている部分があります。グローバルに対する知見や貢献できるスキルなど人としてのパフォーマンスにこだわっていて、質の高い人たちで構成されコミットしているからこそ、志の高いビジョンを実現できる、と考えています。
これはDAO的な考え方からは反すると思いますが、絞り込むことによってコミュニティのレベルを一定以上に保つことは、かなり意識しています。

また、目的重視の観点に立つとDAOが合わない部分もあります。例えば、DAOの良さの一つに匿名性がありますが、これは自分のDAOでは致命的なデメリットとなっています。その人の名前や顔や背景を開示することによって信用が生まれ、この人とならプロジェクトにコミットできると信頼関係ができている面があるからです。だから、DAOの良いとこ取りをしていこうと意識しています。

DAOであるならこうやるべき、DAOならばこうあるべき、のような風にはあまり考えないようにしています。コミュニティとしてうまく回っているならその形がベスト、と実情に即した取り方をしているからです。

1-8. いま注目している意思決定の法則「エフェクチュエーション理論」

mAL氏:最近、コミュニティの中で多く取り入れているのは、エフェクチュエーションの考え方です。

(注釈)エフェクチュエーションとは、インド人経営学者のサラス・サラスバシー教授の提唱による、熟達した起業家に対する意思決定実験から発見された、意思決定プロセスや考え方を体系化した理論のこと。

明確なゴールがあって一つひとつ積み上げていくわけではなく、新しいものを生み出す過程で未だ見えないゴールに向かって進むには、まずやってみるしかないです。スモールにやってみて、駄目なら次のアプローチを考える、という思想。これは、アジャイル開発に近い考え方かもしれません。

この手法は、自身の経験からしても従来のやり方とは真逆なのですけれども、まだこのコミュニティが世の中でどう評価されるかもわからない、DAOというものが成功するのかもわからない中で、意識して取り入れるようにしています。

目先のことを細かく細かくやっていく、まずはできる範囲でやっていく。 そこからフィードバックを得て次に活かしていく、というサイクルをグルグル回す。
コミュニティでは、試行錯誤しながら色々とトライするスタイルを取って活動しています。

One Global Community (OGC) 公式サイトより引用

(インタビュアー:Unyte インターン生 だーきー

2. 取材を終えて

インタビュー中に、私がmALさんから終始感じていたのは、ビジョンを実現させるために「DAOを使い倒してやろう」という熱意の強さです。 というのは、私がDAOを始めようとした時、恥ずかしながらビジョンなんて立派なものはありませんでした。だからこそ、mALさん自身にやりたいことがあって、その実現のためにDAOを使えるか試してみたというお話は、特に印象的でした。

mALさんのように、作りたい世界がある、自分らしいビジョンがあるからこそ、DAOが存分に活かされるのだと理解できました。私なりの言葉にすると、「DAOは手段であって、目的ではない」ということだと思います。

この記事を読まれている読者の方で、何がしか自身にやりたいことはあるけれども、その方法については模索中だという方もいることかと思います。
これからDAOを始めようとしている方には、DAOを難しく考えずに、「自分がやりたいことにつながるかも!」と、まずは気楽な気持ちでチャレンジしてみて欲しいです。

本インタビュー記事が、皆さんがDAOに関わる一助になればと考えております。

3. 参考資料

取材中のお話の中で出てきた内容について、さらに詳しく知ることができるコラムや書籍をご紹介します。

◾️山口周氏 公式note記事「資本主義のハッカーたれ」
不合理や不条理に満ちている世界を変えたいと思い悩んでいる人々に向けた記事。私たちが依拠している社会システムを静かにシステム内部から変えてしまうような働きをする「資本主義のハッカー」となることを提案するもの。山口氏が世界をどのようにみているのか、Vision Questの背景的な思想として、ぜひご参照ください。

◾️エフェクチュエーション 市場創造の実効理論(碩学舎)
起業家研究として始まった試みが、どのようにして、エフェクチュエーション理論を産み出したのか。そしてその理論が、いかにしてプロジェクトが進むべき道を示すのか。エフェクチュエーションを知りたい方にはイチオシの書籍です。


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