「便利」の正体
今月始め、一つの報せがネット上を騒がせた。若者を中心に大人気の位置情報共有アプリ「Zenly」が、間もなくサービスを終了するというのだ。友達の位置情報の把握は待ち合わせ等に便利だとして広く親しまれたゆえ、終了を惜しむ声や必要不可欠だとする叫びが絶えない。
1.事の経緯
そもそもZenlyとは、フランスのZenly社が開発した位置情報共有アプリで、同社は2017年に米Snap社によって買収された。日本では翌年夏頃から女子高生の間で流行り出した。その背景として、鈴木朋子氏は「若者がプライバシーにこだわらず繋がり合うことに慣れていて、Zenlyにあまり抵抗感を覚えなかったのだと考えられる」と分析している。また、鵜ノ澤直美氏は「現代の若者が『スマートフォンを通じて特定の友人・知人とつながっている時間』をとにかく重要視することがあるのではないか」と評している。
そしてSnap社は、先月31日(現地時間)に発表されたプレスリリースにおいて、Zenlyの事業廃止プロセスを開始したことを明らかにした。経営不振の影響で従業員の約2割をリストラした上で、事業の大部分を抜本的に再構築するとのことだ。
位置情報共有アプリに秘められた利便性は、登録•追加されたユーザーが地図上に図示され、いま誰がどこにいるかという情報が、瞬時に理解できるところにある。
2.情報とは何か
情報とは、事情を報じることである。現在でも結婚の報告は葉書で来るし、訃報は電話を用いて口頭で伝えるのが一般的だ。
しかし、そんな情報は早々来ない。よって、毎日カバンやポケットの中では「今何してる」や「今どこにいる」といった通知が蠢くのだ。
自分は今どこにいるのかーーその情報は可視化された。「今コンビニの前」や「今は車で移動中」など、それらは登録されたアイコンが動くだけで、自分の言葉で報じることは無くなった。それは、その報じる能力さえも奪い取ったともいえよう。最も、空間把握能力や言語化力が養われるはずなのに。
3.「便利」の正体
「便利」は文明の養分となる反面、人々を堕落させうる。それを使ってよいのかどうか、使ったらどういった恩恵を受けて、どういった能力が失われるのか。それは位置情報共有アプリだけでなく、キャッシュレス化や判子の廃止など、枚挙に遑がない。
時の流れというものは、急流下りと同じである。この話の一番恐ろしいことは、それを知ってもユーザーは、次なる代替のアプリを探し求めることであろう。
1,009字
2022年9月23日
〈出典〉
▽位置情報共有アプリ「Zenly」について
https://live.doneru.jp/zenly/
▽Zenlyの事業廃止について
https://news.yahoo.co.jp/articles/7dd8c07d998ebf56d68e19362dd52aac60753e5c
▽鈴木朋子氏の記事
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00160/120900159/
▽鵜ノ澤直美氏の記事
https://gendai.media/articles/-/65823
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