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「出水」は何と読む?

  あなたは「出水」を、どのように読むだろうか-音読みして「しゅっすい」か、それとも訓読みして「でみず」か-
 実はその両方が正解である。“しゅっすい”とは、大雨などで河川の水があふれ出ること。“でみず”とは、降雨により河川などの水が大いにふえて、あふれだすこと。そう、どちらも意味に変わりはない。
 だが“でみず”が登場するのは、気象の場面だけとは限らない。

1.俳諧の“でみず”

 数多くの名句を残した高浜虚子に俳句を学んだ昭和の俳人、松本たかし。彼は木曽川を舞台に、“でみず”という言葉を用いた。それも一つだけではない。

 木曽川の 出水を見んと 著たる簑 
 木曽川の 出水を苗木 城趾よ
 木曽川の 出水告げ去る 小作かな

 俳句において“でみず”とは、特に梅雨期のものをいう。秋の台風などによるものは「秋出水」という。
 そう、自然と人間のクロスオーバーの末に生まれた言葉が、“でみず”なのだ。

2.あの出水の恐怖から一年

 私たちは一年前に起こった、あの出水の脅威を忘れてはならない。
 2021年7月3日、午前10時28分。出水により勢いをもった濁流が、次々と民家を襲った。土砂が消防車のすぐ前を猛スピードで駆け抜ける瞬間を収めた動画が何度も報じられた様が、まだ記憶に新しいという人も多いだろう。

▲土砂崩れが削った建物の壁(昨年12月末撮影)


 この土砂崩れは約2kmにわたって伊豆山の斜面を剥ぎ、28人の死者・行方不明者を出した。一部では違法な盛り土による人災だと指摘されるものの、一年を経てもなお復興支援や原因究明が完璧には済んでいないのが現状だ。
 そして遺族らは、発災から丸1年を迎えた今月3日に、追悼式に次いで記者会見を開き、県と市に損害賠償を求めて8月末をめどに提訴すると表明した。起点の土地所有者に措置命令を出さなかった市と、発令を求めなかった県は賠償責任を負うと主張。市が避難指示を出さなかったのも「違法」としている。一年前の一瞬のできごとが、彼らの一生を狂わせた。今もなお、その傷跡は深く残る。
 出水とは、俳句で詠むような叙情的なものとは限らない。時には尊い人命さえも奪いかねないことを、忘れてはならない。

3.地名に生きる出水

 さらには、“出水”がそのまま地名になった例もある。
 それが鹿児島県の北西部に位置する人口約5万人の街、出水市だ。市の西南部に広がる大野原町(扇状地)の地下水位は、深いところで地表から約10m、浅いところで地表から2〜3mであり、極めて浅いことが特徴だ。かつては、扇端部のいたるところに湧水が見られた。“出水”という地名は、この湧水の豊かさに由来するという説もある。 
 その他にも垂水市や射水市、水俣市や水戸市など、水がいかに身近であるかを物語る地名が全国各所に見られる。

一心に願って...

 さて、今年は梅雨が殊の外短かったことが話題となっている。だが依然として、出水による水災のリスクは拭えない。昨年のような悲惨な災害が起こらぬよう、一心に願うばかりだ。

                    1,181字
                 2022年7月3日

〈出典〉
▽出水の読みおよび意味について
https://www.weblio.jp 
(https://www.weblio.jp/content/出水)
▽松本たかしについて
https://kotobank.jp
(https://kotobank.jp/word/松本たかし-16626)▽松本たかしの句
https://fudemaka57.exblog.jp/29987040/
▽熱海市伊豆山土石流災害について
https://www.at-s.com/sp/news/shittoko/1000624.html
▽追悼式および提訴について
https://www.chunichi.co.jp/amp/article/500904 ▽鹿児島県出水市について
https://www.city.kagoshima-izumi.lg.jp/welcome/
▽出水市の由来および地形について
https://www.city.kagoshima-izumi.lg.jp/page/page_00733.html
(https://www.city.kagoshima-izumi.lg.jp/site_data/izumi07/forms/17keikan/報告書2.pdf)
▽今年の梅雨について
https://weathernews.jp/s/news/tsuyu/

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