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華のあるなし。

今日は妹と一緒にドカ弁の学校の文化祭に参戦してきた。

ドカ弁の友人2人が一年生での大抜擢で、音楽部での演奏をすると聞き、ライブ会場に一番乗りしてきたのだ。

Aくんは三浦春馬くん似の美形男子で花形のベース担当、Mちゃんは抜群の腕を買われ、シンセサイザーの担当である。

「なぁお姉ちゃん!あれがAくん⁉︎すっごい男前やなぁ!」

ほんの昨日まで高校生やった!と厚かましいことを繰り返し、若い男の子を見て大興奮の我が妹。

Aくんは華奢な体に似合わず、ものすごく大きな手で華麗にベースを演奏し、その落ちついた立ち姿には人目を引く華が咲き乱れていた。

次の曲でMちゃんの出番がやってきた。

急にライブ会場に人が増えた。どうやら人気者の男の子らしい。

3年生の男の子がボーカル担当で、ギター、シンセサイザーのみの演奏で歌うようである。

「せつない失恋ソングです!哀しいです!歌詞に注目してもらいたいです!」

そう言いながら、ボーカルの男の子は椅子の背もたれに半分だけ腰をかけた中腰ポーズで歌う準備したのだ。

前奏はシンセサイザー担当のMちゃん。

いよいよ歌い始めたが、なんかおかしいのだ。

「え?音外れてる?」

小声で妹が呟いてくる。

「…って絶対キー間違ってるやろ!」

中腰ボーカルの男の子がMちゃんに突っ込みを入れたので、あ、やっぱりキー調整合ってなかったんやーと皆が爆笑したのだ。

すると女子の先輩が顔をしかめながらMちゃんのシンセサイザーに駆け寄り、なんで?合わせてたやろ!などと小声で言いながらキー調整を始めたのだ。

すると人気者のボーカルくんは、
「一回しかオモロないけど一発芸やります‼︎」
そう言うなり、自分の手首をバシバシ叩きながら、
「何時やねん何時やねん‼︎」と腕時計を確認するしぐさを繰り返し、
「寿司握る‼︎」とオチのひとことを言い放ったのだ。

会場は大爆笑で拍手喝采である。

Mちゃんのシンセサイザーのキーを顔をしかめながら直した先輩が立ち去り、準備が出来て仕切り直しで再び歌い始めたが、やはりキーが合わず歌い出せない。

再びボーカルくんは間を持たせるため、ギター担当の男の子に声をかけた。

「どないするー⁉︎どうやって歌えばえーんや⁉︎オレこの姿勢結構キツイねん!」

するとギター担当くんが言った。

「オマエもうるさいなー!もう元気に歌え‼︎」

「元気に⁉︎失恋ソングやぞ!バラードやぞ‼︎元気に歌うんかい⁉︎」

絶妙な突っ込みを返すボーカルくんに、会場の大爆笑はさらに大きくなった。

その間、顔をしかめながらキーを調整する女の先輩方の前で、シンセサイザー担当のMちゃんはシャンと背筋を伸ばして毅然としていたのが見事だった。

やっと調整が済み、Mちゃんの奏でる美しい音色が流れ始めた。

先ほどまで皆を笑わせて間を持たせていたボーカルくんは素晴らしい歌声でせつないバラードを歌い始めた。

鳥肌が立つほどの見事な歌声と真剣な眼差しは見る者を感動の渦に巻き込んだのである。

きっと最後の文化祭の今日の舞台に立つため、日々の練習を重ねてきていたのだろう。

本当なら一発芸などやらずにこのせつないバラードを、それこそ一発で決めたかったに違いない。

しかし。

後輩を叱責するわけでもなく、自らが笑い者になることで、初舞台でのアクシデントでMちゃんがパニックにならないような計らいをとっさに取ったのだと思う。

素晴らしいバラードを歌い切った彼には会場から惜しみない拍手が贈られ、なかなか鳴り止まなかった。

正直言って。

後輩のMちゃんに対して、顔をしかめた先輩のシンセサイザーはイマイチであった。

「ちょっとお姉ちゃん!あの女の子もしかしたらわざとキー調整変えてたんちゃうー?一年生の女の子が花形くんと一緒に舞台立つのがおもしろなかったとかちゃうん!」

私も、もしかしたらとチラッと感じていたことを妹が言ったので、そう感じた人は会場には他にもいたかもしれない。

初舞台で冷静さを失わなかったMちゃん。

自分よりメンバーを思いやったボーカルくん。

華のあるなしを決める決定打を、高校生の彼らから学んだ気分である。

大人もうかうかしていられないのだ。


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