専門店。
無事退院した父がちゃっかりの顔見たさに我が家に遊びに来た。
最近耳が遠くなった父。
こちらの話すことに見当外れの返事をするので何が何やらであるが、本人はかなり楽しそうにしているので、まぁいいかと話を合わせてあげている。
『uni、最近旨い饅頭売ってる専門店がここらは減った思わへんか?』
父が唐突に言った。
『そうやなぁ。そういやスーパーの中にはあるけど、個人でやってはる和菓子屋さんて減ったなぁ。』
子どもの頃よく食べていた、美味しくてとても綺麗な和菓子を作る職人さんがいたお店が、いつの間にか閉店してしまったことを思い出した。
『そりゃそうと、喫茶店も減ったなぁ。昔はよー皆で喫茶店のモーニング行ったなぁ!あの旨いトーストまた食べたいなぁ。』
『懐かしいなぁ。花やしきのモーニングな!美味しかったなぁ!』
そうそう。あの喫茶店独特の匂いと美味しいトースト。毎週日曜日に家族で食べに行くのが楽しみだった。
『そんでほられ!旨い焼き鳥屋あったやろ!あっこの釜めしは旨かったなぁ。独特の味でなぁ!』
『ほんまや‼︎あの釜めしについてくる高菜のお漬物がまた最高やった!』
炭火で焼かれた焼き鳥は香ばしく美味しかった。中でも出来上がるまで時間はかかるが最高に旨い釜めしは今でも忘れられない味である。
『あの頃は楽しかったなぁuni!近所の人らも皆家族で食べに来てて、皆で一緒に食べてなぁ!親も子も皆で楽しかったなぁ!』
そうだ。
大型スーパーや安いファミレスやドトールが増え、個人経営の専門店が姿を消したことで、近所の人達と、行きつけの店で出会い、会話し、楽しい時間を供にするという機会も激減することに繋がったのかもしれない。
あのお店のあの味が食べたくて。
そんな専門店が減ることは寂しいものだ。
あれ、そう言えば。
耳が遠くなった父と久々の会話が何が何やらになっていない‼︎
美味しいものを一緒に食べた記憶は、楽しい記憶を呼び覚ます。
父も自分も互いに歳を重ねたが、美味しい思い出は遠い昔をひとっ飛びで連れてきた。
楽しそうに笑う父を見てちょっとホロリときそうになった。
そこに母のお怒りの声が。
『お父さん‼︎またちゃっかりのおやつ食べて!糖尿が悪化したらまた入院やで!今度は減塩食の上に糖尿食になるで!』
現実は厳しいものである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?