一筆入魂。
『ママ、雲泉の字はカッコイイ‼︎ちゃっかりにも書いて‼︎』
ちゃっかりは、私のファンだと公言してくれる1番身近な存在である。
以前こちらで販売していた花火の書を買いたいと薄い財布から1500円を取り出し、私に渡してきたので本気で驚いたことがあった。
娘から雲泉と呼ばれ、書を買いたいと言われる日がやってくるとは、夢にも思っていなかった。
私が筆が乗らず、ウンウン唸りながら、書いたそばから紙をぐしゃぐしゃに丸めて放り投げる仕事場の横で、息を潜めて咳払いも控えめに横目でジッと見つめていた幼かったちゃっかりも6年生になり、様々なことがわかってきたようである。
『ドカちゃん。今はママに何を言っても''うん”しか返事しないから無理よ。お願いしたいことがあったら今がチャンスだけど。』
そんなことまで言い出し、姉のドカ弁をたしなめる術まで習得したようである。
長い夏休みに筆を持つ時間を確保するのはなかなか難しい。
『お昼はなぁに?』
『友達と公園に行ってきてもいい?』
何度玄関のドアを開け閉めして尋ねれば気がすむのだ?
『部活は昼までやからお昼ごはんヨロ』
何度LINEの着信を受ければいいのか?
そんな雑音の中で書いたものは、普段とは違う書に仕上がったりするが、なかなか良い塩梅になったりすることもあって不思議である。
シンと静まりかえっていないと書けないという場合もあるが、煮詰まる時は、ドカ弁とちゃっかりのやいやいうるさい声はリラクゼーション効果になるのかも。
一筆入魂の精神は、BGMがあろうが無かろうがブレずにいたい。
日本の夏は、情緒がある。
蝉の鳴き声。
照りつくバルコニーであっという間に乾く洗濯物。
浴衣に練り香水。
花火にりんごあめ。
うだる暑さの中で、美しく懐かしいものを記憶の引き出しから取り出しながら、今日も筆を持つ。
一筆入魂。
夏の気合を
筆にぶつけし。
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