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行く道。

『何回押したん?』

ATMでの出来事。

隣のおじいちゃんと息子さんと思われる男性の会話が聞こえてきたのだ。

『もしかして3回押した?暗証番号忘れたん?』

笑いながら優しくおじいちゃんに問いかける息子さん。

『あ?んー。3回か4回か…。』

『そりゃもう5回くらいやってもたな!』

『わからん。』

どうやらカードの暗証番号をおじいちゃんが忘れてしまい、何回もトライした結果、現金を引き出せなくなるというピンチに陥ってしまったようである。

『お母さんかクミは番号知ってるん?』

『知っとる。』

『あちゃー。そしたら俺電話かけて聞くわぁ。』

なんてことない、お年寄りにはありがちな失敗なのかもしれない。

しかしこんなふうに穏やかに、お年寄りの失敗を責めず、笑いながら優しくフォローしてあげられる人はそんなにいないんじゃないだろうか。

身近な人間ほど、こういう場面できつい言葉を吐いてしまうような気がする。

我が母も足が痛いの腰が痛いのと愚痴が増えてきた。

『なんか機嫌悪いね。具合悪いの?』

『足が痛くて気分悪い。』

『また膝に水が溜まったん違うん?病院行った方がいいんちゃうの?』

『水は溜まってない‼︎自分の体は自分が一番わかるもん!そんなんちゃうねん。』

『じゃ筋肉痛?湿布貼る?』

『もうここに貼ってます!』

ここで私がかなりイラ〜っとしてくるのが定番である。

『じゃ好きにすれば!』

最後にはこれを言ってしまうのだ。

男性の方が女性より、ワンクッション間を置けるというのか、女性より少しだけ余分に優しいのかもしれない。

世の中の人を観察していると、娘と母、娘と父という組み合わせの親子は、娘にきゃんきゃん注意されたり怒られたりしているような場面をよく見かける。

息子と母、息子と父という組み合わせの親子からは罵声などあまり聞いたことがないのだ。

優しく手を繋いであげていたり、つまらない話にも何となく相槌を打ってあげたりしている場面を病院や旅先などでもよく見かける。

それは周りから見ていても微笑ましく、気持ち良い光景である。

ところで我が家には娘しかいない。

私もスナフキンも年老いた時、ドカ弁やちゃっかりに怒られるような可愛げのない年寄りになっているのかもしれない。

『自分の体は自分が一番わかるもん!』

これは言わないように肝に銘じておきたい。

しかし。

都合よく物忘れが酷くなっていたら、この理性をどこまで保っていられるやら。

あんまりデカイことは言わないようにしよう。

年寄り笑うな行く道じゃ。

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