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優先順位。

『明日のお弁当何入れようかな〜。』

一日一回は脳の一部分がこの事を考えることに使われている気がする。

買い物する時から夕飯のメニューを考えつつ、お弁当にも使えるものを同時に頭の中でイメージしているのである。

あれ?いつの間に私はこんなにもオカンになったんだろうとふと思う時がある。

若い頃、自分の頭を占めていたことと言えば、今日の夜はどこに行こうか、誰と遊ぼうか、服は何を着ようか、靴はどれを履こうかといったことばかり。

とにかく遊びとお洒落と男の子のことしか考えることがなかった。

お気に入りの香りを纏って、高いハイヒールを履いて。

周りの人の気持ちを考えたり思いやることもなく、ただ毎日が楽しければいいとひたすら自分勝手に過ごしていた。

そんなある日、大好きだった祖母が亡くなった。

亡くなるひと月前、母と一緒に会った時には元気だった祖母が亡くなったなど信じられない気持ちで、一番乗りで病院に駆けつけたのだった。

眠っているようにしか見えないのに、冷たく動かなくなった祖母を見て、どうしてもっと会いに来てやらなかったのだろうと後悔した。

そして、私が当時一番好きだったシャネルの真紅の口紅を祖母の唇に塗ってあげたのだった。

鮮やかな赤い口紅は、祖母にはとても似合った。

祖母は貝がらの形をした小さなケースに入った淡いピンクの紅を小指で掬い取って塗るくらいしかお化粧をしていなかったことを思い出して、涙が止まらなくなった。

私がシャネルの赤い口紅を塗るのはその日が最後になった。

その日を境に、激しい夜遊びも控えめになり、お気に入りのBarで楽しく美味しいお酒を飲むくらいになった。

そこでスナフキンと出会い、結婚し、奥さんになり、お母さんになった。

高いヒールはスニーカーになり、お気に入りの香水は洗い立ての洗濯から香る石鹸の香りに変わった。

『優先順位第1位』は、自分からスナフキンへ、そしてドカ弁とちゃっかりへと移り変わり、気がつけばオカンの出来上がりであった。

人生は長いようで儚くて短い。

優先順位最下位がオカンである自分自身になったことは、なんともほろ苦く、しかし何にも代えられない、幸せな枷でもある。

それにしても。

ケチったおかずを見破られ、箸の進みが明らかに鈍い姉妹のゲンキンな姿を見ていると、菩薩の心を手にしたオカンになるのは当分無理のようだ。

水泳部のジャージ代金3万円。

わかっとるんか、ドカ弁‼︎

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