何をしても…。
『ただいま…。』
消え入りそうな声で帰宅したドカ弁。
なんかやらかしたな。
15年も毎日接していると帰宅した挨拶の第一声でピンとくるのだ。
『おかえりー。』
何かあれば黙ってることなど出来ないタチなのは百も承知なので、言い出すまでは何も聞かない。
このパターンの時に聞かされる話は、かなりの衝撃を受けることが経験から分かりすぎてしまうからなのである。
『ウチもうあかん…。』
そう言って一枚のプリントを差し出すドカ弁。
高校に入学してすぐに行われた課題テストの結果のお知らせであった。
春休みから膨大な課題を出され、入学後に課題テストがあることは分かっていたことである。
無事に合格できた気の緩みからか、携帯でのLINEに明け暮れ、まともに勉強しないまま春休みを過ごしたドカ弁。
『あんたさ、みんな春休みにすでに勉強始めてると思うで。課題テストあるんやろ?』
『大丈夫大丈夫‼︎』
携帯を触りながら母の言葉など右から左に聞き流していたので、痛い目見ろ!と心で怒りながら好きにさせていたのだ。
ところがである。
やはり受験を乗り越え、入学への切符を手にした子ばかりの学校は甘くはなかった。
強烈な成績順位がくっきりはっきりと浮き彫りになったのだ。
はっきり言って後ろから数えた方が早い、今までに見たことがないほどの数字が記されていたのである。
一瞬くらっとするほどの衝撃であった。
『あんたさ、やらんとマズイ思うよって何回も言ったけど全く知らん顔してたんやからそりゃこんな状態なっても仕方ないわ。』
『わかってるわ!ちゃ、ちゃんと勉強せなほんまにヤバい…。』
制服も着替えず晩御飯を早食いし、そのままリビングで勉強しようとし始めるではないか。
『そんな急に慌てても出来るわけないやろ!先にお風呂入って気分切り替えて落ち着いてやったら?』
するとキッとこちらを睨みつけ、こう言い放ったのだ。
『何をしてもこの気分は変わらへん。』
失恋したての乙女のような台詞を伏し目がちに言われるとは!
とんだ名言である。
数字に感傷的になる前に心を入れ替えてほしいものである。
気分の切り替えより心持ちを入れ替えよと言いたいのであるが、黙っている。
半数以上のクラスメートはすでに進学塾に通っているそうであるが、それだけを理由にサボった自分を正当化されてはたまらない。
自分で考えてほしいと思う。
やる気が見え、それでもどうしようもないとなったら話し合おうと思っている。
塾に行かなければ良い高校に行けないに引き続き、さらに塾に行かなければ良い大学に行けないというお受験呪縛コースはまだまだ続きそうだ。
半期に60万以上支払う進学塾。
年間なら120万。3年間で400万近い金を巻き上げる進学塾には、アコギな商売するなと言いたいが、それを世の流れだと金を出してやる親がいるのだから、進学塾の高額な商売は成り立ち続いていくのだろう。
親の脛はいつまで齧らせ放題なのだろうか?
『知るは楽しい。』
生前祖母が口癖のように言っていた。
勉強は自分の生きる財産になるのは確かだと思うし、知らなかったことを学ぶことは新しい可能性を増やす。
しかし、それは自らが学びたいと心から願ってこそ得るものだと思うのだ。
皆が行ってるから、塾に入れてくれないから成績が悪いのだという理由では、少なくとも塾には行かせるつもりはない。
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