触角。
『ちょっと、ちゃっかり!早く鏡の前どいて!』
洗面台の前からなかなか動かないちゃっかりにドカ弁がギャーギャー言う声が響くのが朝の定番である。
キラキラした髪留めや、カチューシャを着ている服に合わせてコーディネートし、色んな形に髪を結わえるのに余念がないJSは姉の言葉などどこ吹く風。
『だからその触角止めろって!』ドカ弁が爆笑しながら言う。
確かに髪の束を顔の横に2本たらりと垂らしている様子は、触角のようである。
『なんでキチンと纏めへんの?』
ちゃっかりに聞いてみる。
『ちょっと崩した方が可愛いの。』
そういえば、亡くなった祖母が生前そんなことをよく言っていたのを思い出した。
『カチッと髪を結うよりちょっと崩した方がべっぴんさんに見えますで。‘みだれやつし’いいますのや。』
『やつし』とは、大阪弁で『お洒落好きな人』を指す言葉である。
『みだれ』は、少し崩してということを言っていたのだろう。
やつすは、『お洒落する、おめかしする』の意味があるから、みだれやつしは、ちょっと崩したお洒落のことを言っていたのだろう。
祖母はお洒落な人だったので、ちゃっかりのDNAはここから影響を受けているのかもしれない。
やつしてやつして、日々小学校に向かうちゃっかり。
先日、ちゃっかりの同級生のママから『ちゃっかりこないだ可哀想やってんて⁉︎ウチの子が怒ってたんよ!』と言われた。
意味がわからず、何が何やらである。
『え?ちゃっかりがなんかあかんことしたんかな⁉︎』
『ちがうねん!ちゃっかりの髪の結い方をうるさい先生が注意して怒ってんて!』
あぁ。触角のことか‼︎
心で大ツッコミである。
『でもね、担任の先生はそれでいいよって言ってるらしいねんね。クラスの担任の先生はいいって言ってるのに、他のクラスの担任が怒るっておかしい!って女子がみんな怒ってるねんて!ちゃっかりが可哀想やって!』
わぁ。それはちゃっかりのチャラチャラした格好が他の女子たちを扇動するのを止めさせたい先生が見せしめ的に釘を刺したということに違いない。
まるで非行の目を未然に防ごうとする作戦のようである。
帰宅してちゃっかりに触角について確認してみた。
『ちゃっかり、やっぱり触角怒られたん?』
『いいの。怒られたあとすぐに担任の先生にちゃんと聞きに行ったの。』
『なんて?』
『この髪型で怒られたけど、ダメですか?って。』
『で、担任の先生は?』
『別にそれでいいよって‼︎』
今度またその先生が怒ったら、担任の先生に許可取ってますという段取りをつけてきたというわけである。
やっぱりちゃっかりはちゃっかりしている。抜け目なくシレッと身を守る術を既に身につけているのだ。
よって、『やつし』による触角ヘアは当分続きそうである。
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