ひとんもち。
我が家のJSちゃっかりがやってきた。
『ママ、元気なかね〜。』
なんやて?
あんた一体どこの方言を使ってるんや?
『ママ、これ読んで元気出せ〜!』
そう言って、ちゃっかりが落ちこんだり悲しい時に読むと元気になるという愛読書の漫画『ばらかもん』を手渡してきたのである。
以前もこちらで書いたことがあったが、この漫画はイケメン書道家が
『君の字は実につまらないね。』と書道界の重鎮に酷評され、思わず殴ってしまったことの罰として、長崎県の五島列島に強制的に送り込まれてしまうのがお話の始まりである。
島の人たちはうるさいくらいあったかくて親切で、彼は次第に自信を取り戻していくのであるが、味のある良い書が書けるようになった頃、東京の展覧会に自分の作品を出品するのだ。
ところが、自分より年下の経験も浅い名も知らぬ若者が大賞を受賞した連絡を受けるのである。
ショックを受ける彼を元気づけようと島の人たちは彼を餅拾いに誘い出す。
島には餅拾いのプロと呼ばれる『ヤスば』というおばあさんがいて、ヨボヨボなのに毎年一番たくさん餅を拾うのである。
書道家の彼は餅を一つも拾えない。
展覧会でも大賞を逃し、餅拾いも上手くできないことを情けなく思い、心が折れるのだ。
『結局ここでも同じか。取れる人間と取れない人間がいる。俺は取れない方。取れないでもがくより、取らないでやめる方が潔いいか。楽だし。やめようかな、書道。』
そこに餅拾い名人の『ヤスば』が現れる。
『先生は下手かもんね。』
そう言われて、『何もかも自分はダメなんです。』と彼が応えたら。
『上ばっかり見ちょるからダメたい。その一瞬ば狙っても取れん。ゆっくり待って地面に落ちたっぱ取っとよ。下ば見っとよ、チャンスは意外にも下に落ちちょるけんね。』
『ヤスば』は意味深な言葉を彼に話してくれるのである。
彼はハッとして『ヤスば』に質問する。
『ヤスば、それでも取れなかったらどうすればいい?誰かオレより上手い奴がいて、どうしても餅を拾えなかったら⁈』
すると。
『そん時はな。どうぞお先に。』
『ヤスば』はそう言って震えるか細い手を差し出し、譲るしぐさをしてみせるのである。
『人に取られたものを欲しがる必要はなか。諦める必要もなか。譲ってやってもっと大きな餅ば狙え。譲ることと拾うことを止めなければホレこの通り。』
そう言って『ヤスば』はスーパーの袋いっぱいに拾った餅を彼に見せる。
なんと今の自分の心を打つ言葉なのか!
『ヤスば』最高やないの‼︎
読み終わったので、ちゃっかりを呼んだ。
『ありがとう!なんか元気出たわ!』
『ママの字は、先生の字によう似ちょるね〜!ちゃっかりはママの字が好き!』
そんな泣かせることを言うちゃっかりに感謝し、改めて漫画の題字の『ばらかもん』を見ると、本当に私の字によく似ている。
一体誰がこの字を書いているんだろう?インターネットでアニメ『ばらかもん』を検索してみた。
書道監修 原雲涯 となっている。
そこで今度は原 雲涯さんを調べてみた。
なんと!
書道家 原雲涯さんは、私の所属する書道会の会員だった方で、毎日書道展のグランプリ受賞者だったのである。
彼は前衛書が専門で、まさに私の書と同じスタイルの達人だったのだ。
私の二人の師匠が師事した書道家、上田桑鳩の弟子だった方に師事されていたというのだから、書体や運筆に独特の特徴があるのも頷ける。
ちゃっかりが愛して止まない漫画『ばらかもん』からも、自分の書のルーツに辿り着いた。
このご縁を感じる運びになったことにも何か意味が、きっとある。
漫画『おしん』にハマった時以来の、漫画からの恩恵に感謝したい、秋の夜である。
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