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「坊主丸儲け」とは?

父が亡くなり仏事関係に携わることが増えた最近であるが、色々と興味深い。

つい先日のこと。

父のお兄さんの奥さんにあたる人、つまり伯母が亡くなったのである。

父の葬儀からひと月と少ししか経っていないわけで、哀しみ癒えぬままの再びの身内の不幸。

「続く時は続くなぁ。」

普段は会う機会の少ない身内同士、皆が同じようなことを口々に言っている。

妻を亡くし、憔悴しきった様子の伯父。
伯父夫婦には子どもがいない。

葬儀の手配を進めなければならない状況であるが、伯父は耳が遠く、会話がなかなか成立しない。

「uni!兄やんの手伝いしたってや!」

おばちゃんやおっちゃんたちにそう言われ、父の葬儀の時に連呼された葬儀会館の担当者からの呼びかけ、「長女様!」が「uni様!」に変化したこと以外はまったく同じような手順で様々なことを決めていかなければならなくなった。

「決まったお寺様はございますか?」

きたきた。これがきた。

父の葬儀のときには、この問いかけに「一応あるんですけれど、近くの同じ宗派のお寺様を紹介していただけませんか?」と返事をした私。

「あっこの坊主はがめつい。坊主丸儲けや!」

生前父がよく言っていた言葉を思いだしたからである。

「またそんな罰当たりなこと言って!」

母はそんなふうにたしなめていたが、父があまり信用していなかったお寺さんにお願いするのはやめてあげたいかなって気持ちがあった。

しかし今回伯母の葬儀を執り行う喪主は、伯父なのである。

本家の長男である伯父は、祖父母の代から決まってお世話になっているお寺さんを呼びたいという。

やはり三男の我が父とは違って、ご先祖様や親族一同を守っていく責務があるのだな。

ならばと伯父の希望通り、いつものお寺さんに連絡をしてみると。

「お布施30万円で引き受けます。」

引き受けるもなにも、長年世話になっている間柄のお寺なのである。

悔やみの言葉より先ずは金の話をするわけで、なるほど、やはりなとシラけた気持ちになる。

お通夜にやって来たのはちっさいお年寄りの住職様だった。

「あのお坊さん何歳やっけ?」

妹がそう言うのを聞いた親族が言った。

「90歳くらいらしいで。」

葬儀会館の方が準備してくれた3つの白い封筒はお布施、御車料、御膳料と其々に記入されていた。

お布施の封筒に寺から指定された金額である30万円を入れ、御車料、御膳料の封筒にも其々お金を入れた。

ちっさいお年寄りの住職様の元に、これらの封筒を差し出し、「どうぞよろしくお願いいたします。」と頭を下げると。

「いや、こんなん一つの封筒に全部入れてや。それとお布施30万とは別に逮夜ごとの卒塔婆も8枚書くからプラス8万で38万円をお布施の封筒に全部纏めて入れてや。」

この言葉を聞いた葬儀会館の方の表情が固まった。

普通の白い封筒に38枚の諭吉さんを全部入れようにもなかなか入らないことにもイライラしてきた。

なんとか入った諭吉さん38枚入りのお布施封筒をちっさいお年寄りの住職様に差し出し、お通夜を迎えることになった。

ところがである。

会場内にはお経の声が全く聴こえてこないのである。

ご近所様など伯父のお付き合いのある方々も参列してくださっていたのであるが、皆がヒソヒソと小声で「聞こえない、、、。」と言っているのがわかる。

よーく耳を傾けてみると、ものすごい早口で「ムニャムニャナンタラカンタラ・・・・」とちっさい声で囁いている。

囁いているかと思えば突然。

「オーッホン!オホッオホッ…オエッ!!」

むせ返りながらえづいているのだから何が何やらである。

「なぁ、マイク用意してもらった方が良かったんじゃない?」

小声で夫スナフキンにそう言うと。

「お布施さ、全部同じ袋に一つに纏めて入れろって言ってたのさぁ、お布施は雑所得にならへんからなんやで。ほんま丸儲けすること隠さへん坊さんなんやな。フフフ…。」

何だって!
だから葬儀会館の担当者の方の顔色が変わったのか。欲深め!ってバレてたってわけか。

もうここまでくると、まったくお経が心に響いてこない。いや、もともと声も聞こえてこないわけだけど。

何だかよくわからないお経をひと通り済ませたと思われたその時である。

おもむろに立ち上がったちっさいお年寄りの住職様。皆に向かって突然話し始めた。

「前はよう呼んでもらってたけど最近はあんまり呼んでもらってなかったさかいな、顔を忘れてしもてたわ。こんな顔しとってやったんかな。」

「ハーッ!?」

思わず声が出てしまった私とスナフキン。

伯母が体調を崩し、通院のサポートや家事全般を伯父とヘルパーさんでなんとかこなしていたらしい昨今、檀家といえども盆暮、月命日全てをお参りしていただくことは難しくなり、お寺さんに来ていただくことをお断りしていたのだと後で伯父に聞いたのであるが、それにしても故人を目の前にあんまりな言い草である。

「何なんあのお坊さん!お布施よこせやゴラァ丸出しすぎやし!」

仕事が終わらずお通夜に遅れてやって来た従兄弟に事の顛末を伝えると、こんな返事が。

「またか、あの坊さん。いつも通りやぞ、uni。」

「いつも通りって何なん?」

「ウチなんかよ、家の者がおらん時でもよ、いっつも勝手に家に上がって、お布施の封筒も勝手に持って帰るんやで、あの坊さん。ちゃんとお経読んで帰ってるんかもようわからんし。」

えーっ!えーっ!!

いくら田舎といっても、いまどき勝手に他人の家に上がって金を持って帰るお坊さんなんてそういるとは思えない。

「坊主丸儲けやんけ!!」

父とまったく同じことを言ってしまったのはいうまでもない。

#エッセイ #坊主丸儲けの意味





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