引いたとしても。
2年に渡りPTA副会長なるものをやっていた。
仲間にも恵まれ、ストレスを溜めることもなく、来月の総会でいよいよ引退を迎える。
そして本日、新年度の役員決めのクジ引きに立ち会ったのである。
役員は平等にクジで決めることになっている。
各クラスの様子を見ながら廊下で待機し、何かトラブルがあれば走っていくのが副会長の仕事なのである。
そろそろ終わりかなと思い始めた午後4時半。顔色が悪い先生が小走りにやって来た。
『unimamさん!大変です!免除申請した保護者の方が免除を認めて貰えなくて怒りだしました!すごい険悪な雰囲気です‼︎』
先生、大変です報告してきはるということは、何とかしてくれってことなんですかー‼︎
仕方なく張り詰めた空気の教室に入って行ったのである。
一人のメガネママがキーキー喚いている。
前年度のクラス役員をやっていた人たちが司会をし、クジ引きの段取りを取るのであるが、メガネママの喚き声に真っ青になり、必死で謝っているではないか。
『申し訳ありませんが、皆さんが免除を認めなかった場合は平等にクジを引いていただかないと…。』
『そんなルール誰が決めたの⁉︎前も免除して貰えませんでしたからどうせまたダメだと思ってましたけどね‼︎私はね、トラウマになってるんですよ‼︎』
『すみません…。決まりなのでお願いします。』
『だからー!決まり決まりってそればっかり‼︎』
なんじゃこれは⁉︎
まるで行儀悪いお客様と店員のようである。
『あっ!uniさん‼︎』
泣きそうになりながら事の顛末を説明する役員さんに頷き、メガネママに向かってこう言った。
『免除が認められなかったなら皆さんと一緒にクジを引いていただきます。』
『トラウマになったって言ってるでしょ!』
『いいえ、引いてもらいます。』
『な、何よ‼︎わ、私はね、引いたとしてもやりませんからっ‼︎』
『いいえ、引いたらやっていただきます。』
『な、な、私はね、引くなら最後しか引きませんから‼︎』
『いいえ、順番に引いてもらう決まりです。』
『ま、また決まり決まりですか‼︎』
何が何やらであるが、まるでクソガキである。子どもなら、アホかー‼︎と言えるが、あまり直接的な事は言えないのが大人の世界なのだ。
しかしもうあかん。限界‼︎
なおもキーキー喚くメガネママの目を見つめながら一気に言った。
『あのね、じゃ今日は何のための集まりですかってことです。先生方もお仕事中立ち会っていただいて、皆さん方も忙しい中、時間を作って出席してくださってるんです‼︎引いていただきます!もし当たりを引いたらやっていただきます‼︎』
これでようやくメガネママは黙ったのである。
様々な問題を抱えている大人が増えているのだということがわかった気がした。
誰かに、何かを、ぶつける時間が必要なのだろうか。
不満をぶつける相手や場所は、お店だったり、病院だったり、学校だったりするのか?
こういう理不尽な怒りを向けてくる相手には、お客様だから何も言えないというサービス業のような接し方をしなければならない世の中なのだろうか?
そしてこんな大人を親に持つ子どもはどこに逃げ場を求めるのだろう。
まだ自分では自立出来る力のない子どもには逃げ場がない。
結果、自分より弱い者を叩くしか自分を保つことができなくなる子が出てきても不思議ではない。
困った大人を救う場所が増えなければ、虐待、いじめ、自殺はなくならないはずである。
たかがPTA、されどPTA。
見えてくることもあるのだ。
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