書道具の大人買い。
体全体を使ったパフォーマンス書道に挑戦すべく、馴染みの書道具屋に向かう。
『とにかく太い羊毛を探してるねん。』
店のおばちゃんに言うと、一号筆の高い筆をたくさん見せてくださった。
『太いタイプのやつはこれくらいやね〜』
値段はもう0が違うやつばかり。
『今日ね〜5万しか用意してないねん。手漉きの全紙も箱買いしたいし、墨も欲しいから予算厳しいかなぁ。』
おばちゃんに泣きを入れてみた。
すると。
『いやいや、じゃ勉強するわ!これ定価5万5千円やけど、特別に4割引きしとくし‼︎』
税金入れたら35000円か。
墨と全紙買ったらギリギリか足らへんか。
迷いながら手にずっしり重い筆を握っていると。
おばちゃんが、もう1本の少し持ち手が長いタイプの筆を持ってきたのだ。
『これな、5000円高いけど毛並みが全然違うで!持ち手も長いし。』
何?さらに5000円高い原価6万やん!
しかし、手に持ってみると、軽くて扱いやすそうなのである。
筆だけで4万円超えとなると痛い出費であるが、5千円ケチって扱いづらいのも困る。
仕方ない。墨と全紙は別の日に買いに来ようと心を決めた私。
『そしたらこれにしますわ。』
おばちゃんはえべっさんのような顔である。
『毛並みもやっぱり違うで!』などと鼻歌を歌うように繰り返すおばちゃん。
それじゃと筆を包んで貰おうと手元の筆を見つめると。
なんと、ゼロが1つ少ないではないか!
6000円のラベルがしっかりと筆に貼り付けられているのだ。
『おばちゃん!これ6000円になってるやん!ゼロ1個少ないよ‼︎』
焦るおばちゃん。
業者に問い合わせてみると電話するも繋がらない。
しかし、ラベルにはキチンと6000円と書かれた値札が付いているのだ。
『おかしいわぁ。このサイズは2万以下のは置いてないはずやのに…。』
しかし、6000円は6000円。
おばちゃんのテンションはダダ下がりである。
売り上げが一気に1/10になってしまうのだから無理もない。
『おばちゃん!これが6000円なら、この大きい箒みたいな筆も私買えるん違う⁉︎』
パフォーマンス用の筆が目の前に吊るされていたのだ。
価格は25000円。
迷うおばちゃん。
ヘタに値段の間違いやと繰り返したら、この子買わへん言うんちゃうやろか。そしたら売り上げ0になるやん。25000円の筆買う気になってるしなぁ。
そんなおばちゃんの心の声が聞こえてくるようである。
『おばちゃん!そしたら全紙も墨も小筆も買えるわぁ‼︎』
畳み掛けてみたのである。
『わかった!そしたらもう6000円でいいわ‼︎』
やった‼︎
一本の高級筆しか買えないはずだったのに、とんだ手違いか何かで、一号筆、パフォーマンス用筆、手漉き全紙100枚、墨、小筆と5点も手に入れることができたのである。
書道具は高い。
しかし、私には必要なもの。
新しい筆はそれだけで心踊る宝物である。
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